▼ 臥炎キョウヤ@(1/3)
船首で行われている究極レアカードを掛けたファイトの最中にふと視線を二階へ向けると、ファイトを観戦している集団から少し外れる形で見覚えのある人物がデッキの手すりに背を預けていた。
彼女はファイトには目もくれず、自身のバディである大公爵アスタロトと言葉を交わしている。時折彼女の口元に浮かぶ笑みは、僕には一度も向けられたことがない柔らかなものだ。
「……ソフィア、少し席を外すよ」
「どなたか知り合いの方が?」
「観戦席にカガリが居た」
「……黒岳元生徒会長が、ですか?」
途端にソフィアは僅かに眉を潜め、信じられないと言いたげな表情を浮かべた。
先日、カガリとの雑談メールで食事に誘ったところ「私はサハロフちゃんに苦手意識を持たれているからお前とは滅多に会わない方が得策だろうさ」とやんわり断られたことを思い出した。
ソフィアの性格からカガリとの相性は悪そうだと思っていたが、ここまであからさまであるところを見るに相当苦手なのだろう。
「約一年振りだからね、挨拶してくるよ」
流石のソフィアも苦手な相手に会いに行く僕にはついてこないだろうな、と思いながら、踵を返して階下へと向かった。
すれ違う客人への挨拶もそこそこに、目的の場所へと辿りつくと、僕の気配を察したのか、カガリの隣りに居るアスタロトが射抜くようにこちらを睨んでいた。
「やあ、カガリにアスタロト。久し振り」
「……カガリに何の用だ、臥炎キョウヤ」
「主催者として来客に挨拶するのは当然の義務なんだからそう警戒しないでくれるかな。他の客に不審がられる」
あからさまに警戒心を露にするアスタロトを尻目にカガリの隣に並ぶと、カガリは横目で僕を一瞥。その後、呆れたような溜め息を漏らした。
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