皆の先輩シリーズ | ナノ


▼ 大公爵アスタロトA(1/5)

ちらちらと宙を舞う白いものを視界に捉えながら、男は赤いマフラーに口元を埋めて住宅街の歩道を進んでいた。
水色の髪と紫色の瞳、整い過ぎた顔立ちの若者だった。見た目こそ二十代半ばだが、その雰囲気はどこか儚げで、人間味に欠けている。
実際、男は人間ではなく、マジックワールドと呼ばれる世界の悪魔だった。
そんな悪魔である男は、友人の、これまた悪魔との約束を果たすために地球を訪れていた。
――最近仲良くなった人間、超悪役ちゃんなんだけどさー、俺様の手にはあまりそうだから、その子、お前にピッタリだと思うんだよねー。
男の屋敷を訪れた友人は、挨拶もそこそこに話を切り出す。どうせいつものお節介だと思いながらもつい話に耳を傾けてしまった。
――ふん、俺にバディなど必要ない。
――そう言うなって。いつもここの公園でコーヒー飲んだあとに家に帰るんだけど、その子にお前のこと紹介するって約束しちゃってさ。
――……は?
――そんじゃ、頑張れよ、アスタロト。
――待て。おい、キマリス!
男、大公爵アスタロトは最後まで話を聞いた結果、とんでもない約束を交わされてしまった。
しかし、相手が数少ない友人、悪霊団長キマリスだったために断ることが出来ず、アスタロトは今こうして人間に化けて住宅街を歩いていた。
小さな建物が連なってまるで迷路のようだ、と思う。
マジックワールドとは全く違った風景。そもそも、先ほどから舞っているこの白い物は何なのだろう。
目的の公園に無事辿りつき、辺りを見渡しながらそんな疑問を抱いた時だった。

「それは雪だよ」

ひゅ、と息が詰まり、頬が強張る。
辺りに人の気配はなかったはずだ。何故、言葉が返ってきたのだろう。
恐る恐る声のした方へ視線を落とすと、そこには少女が立っていた。
金色の髪に緑色の瞳を持つ少女だった。アスタロトの胸ほどしかない身長に、幼さを残した顔立ち。口元に貼り付けたような笑みを浮かべ、アスタロトを見上げていた。

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