皆の先輩シリーズ | ナノ


▼ J・ジェネシスA(1/1)

「大人になりたいって思うのが子どもで、子どもの頃に戻りたいって思うのが大人だなんてよく分からない通説だよね」

わたしの仕事風景を見ながらソファでコーヒーを飲んでいたカガリさんはそう話を切り出した。

「……随分と唐突な話ですね。どうかしましたか?」
「だって私は立派な子どもだよ。なのにその通説に則ってしまったら、私は大人ということになってしまう。そんなの真っ平御免だね」

立派な子どもとは。
そんな疑問が頭に浮かんだものの、それよりも気になったのは彼女が子どもでありたいという意見そのものだ。
てっきり大人になりたいのだろうとばかり思っていたのだが。

「つまりカガリさんは子どもの頃に戻りたいと?」
「正確には子どものままでありたいと思っている」
「ピーターパンですか」
「永遠の少年万歳だよ」

わたしの言葉に頷き笑うカガリさんの姿は確かに子どものように無邪気である。
けれど、彼女はおよそ無邪気とは程遠く、それは彼女自身もとっくに自覚している。

「ジェネシスくんは子どもの頃に戻りたいとは思うかい?」
「いえ、特には」
「そうかい。でも、ジェネシスくんは落ち着きのある大人って感じだね」
「……落ち着きのある大人、ですか」

タブレットをスリープ状態にし、席を立つ。ソファに近付くとカガリさんは小さく首を傾げた後、傍らにあるミニテーブルにコーヒーのカップを置いた。彼女は僅かに座る位置をずらし、わたしはその空いたスペースに腰を下ろす。
同時に彼女は問うた。

「自分が落ち着きのある大人と言われるのは不満かい?」
「わたしは子どもの頃に戻りたいとは思いませんよ」
「うーん、確かに思ってないんだろうけれど」
「そもそもわたしは子どもと大人との違いをかなり乱暴的に考えています」
「……乱暴的?」

未だにわたしの意図を汲めていないのか、カガリさんは不思議そうにこちらを見つめる。
やれやれと思いながら肩を竦め、彼女の腕を取ってその手首に唇を寄せる。
すると流石に理解した彼女は頬を引きつらせ、赤面した。

「子どもならこれからわたしにされることは、分からないはずです。……分かっているのなら、貴女は子どもではなく立派な大人ですよ」
「……暴論過ぎるし、狡いと思うのだけれど」
「大人は狡い生き物ですよ。そして貴女はそれを知っている」
「きみに話した私が馬鹿だったよ……」

そう言って彼女は小さく溜め息をつき、恥じている自分の姿を誤魔化すようにわたしの胸に額を押し付けたのだった。

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