皆の先輩シリーズ | ナノ


▼ J・ジェネシス@(1/5)

この世界は無駄なことに満ち溢れている。しかし、周りの人間はそれに気付かない振りをしている。
そんな世界は間違っている。故に、誰かが正さなければならない。
彼は物心ついた頃からそんな考えを持っていた。
しかし、その思想にのめり込めばのめり込むほど、同時に彼は孤立し始めていった。
奴は頭がおかしいのだ、と誰かが言った。それに誰かが同調し、波紋のように広がっていった。
いつしか彼は一人になったが、彼は自分が間違っているとは露ほど思わなかった。
ただひたすら、自分を肯定し続けた。
何故、誰も理解してくれないのだろう。誰かが正さなければならないというのに。
この世界は間違っている。
正しくない世界など、世界ではない。
そうして夕暮れの街で一人佇んでいた彼の耳元で、誰かが囁いた。

「――世界が間違っているというのなら、貴方自身が世界から居なくなってしまえば良いんですよ」

瞬間、彼が見ていた世界は変わった。
彼は、暗闇の中を立っていた。
どこまでも深い黒の世界で、呆然としていた。
先ほどまであった風景は見る影もなく、遠くの喧騒すら聞こえなくなっていた。
水を打ったような静けさが、その空間を支配していた。

「……ここは、何処だ?」

周囲を見渡した彼はやがて前方に何かが蠢いていることに気が付いた。
人、だろうか。
目を凝らしてみるが、それは黒い塊としか言いようのないものだった。しかも二つある。
彼が試しに一歩後ずさると、その黒い塊達は一歩進む。
嫌な予感がする。
そう思った彼は踵を返し、暗闇の中を駆け出した。
しかし、黒い塊達との距離は広がるどころか、縮まりつつある。
やがて走り疲れた彼の足がもつれ、転倒した。
不味い、と振り返ると、既に黒い塊達は口のようなものを大きく開けていた。

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