皆の先輩シリーズ | ナノ


▼ 黒岳テツヤC(1/10)

ダンスコンテストの全国大会。その前哨戦である地方大会を勝ち抜くため、俺はアスモダイと共に練習の日々を送っていた。
おかげで夜中にトイレに起きることはなくなっていたのだが、その日はふと目を覚ましてしまった。
あとから思うと虫の知らせのようなものだったのかもしれない。
とにかくその時の俺は眠気に耐えながらトイレを目指した。部屋に戻る途中、徐々に意識がはっきりしてゆき、リビングから廊下へ明かりが漏れていたことに気が付いた。
こういう時は大抵、両親と姉ちゃんが真剣な話をしている。主に進路のこととか。
邪魔をしても悪い。早々に部屋に戻ろう。
そう思った時だった。

「――留学?」

リビングから聞こえてきた言葉に、自然と足が止まった。少し低い、父ちゃんの声だ。
どうやら三人とも廊下に俺が居ることに気付いていないようで、そのまま姉ちゃんが話を続けた。

「提携しているアメリカの学校側からオファーがあってね、是非ともうちに来ないかって言われた」
「……良い話じゃないか」
「えー、母さんは反対。それってカガリと気軽に会えないってことじゃない」
「母さん。今はインターネット電話があるだろ。それにカガリが留学したいと言ってるんだ。好きにさせよう」
「もう、父さんはそうやってすぐカガリの味方するっ」
「母さんだってすぐテツヤの味方をするだろう。前々から思っていたが、テツヤのダンスは一体何の役に立つんだ?」
「父さん、それは流石に言い過ぎ。テツヤだって真剣にダンスを」
「カガリ。お前もテツヤを贔屓し過ぎだ。テツヤのダンスよりカガリが留学した方がよほど人生に役立つのは明白だろう」

リビングの方にいる母ちゃんと姉ちゃんがまた始まったとばかりに同時に溜め息をつく。
対して父ちゃんはだんまりを決め込み、そのままお開きと相成った。
俺の頭の中は、姉ちゃんの言葉と父ちゃんの言葉でいっぱいだった。
姉ちゃんが留学に行くかもしれないこと。父ちゃんに俺がやっているダンスを否定されたこと。
足と廊下がくっついたみたいに、俺はその場から動けずにいた。
おかげで部屋に戻ろうとしたであろう姉ちゃんと鉢合わせてしまった。

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