皆の先輩シリーズ | ナノ


▼ ヤミゲドウ(1/1)

その気配は我が繭になった場所からさほど離れていない場所にあった。こちらへ近付くわけでもなく、かと言って遠ざかるわけでもない。
一定の距離を保ったまま動かなかった。
石化の糸の影響で人間は地下に避難していると思ったが、一体どういうわけなのだろう。
今の我は本体を動かすことが出来ない。その代わりにイカヅチの姿を借りて思念体を飛ばすことは出来る。
意識を集中させ、気配のする場所を目指すとそこに居たのは人間の女だった。

「おやおや、てっきり戦局を見届けるのに忙しいと思ったのだけれど、暇にでもなったかい?」

金色の髪を風になびかせ、女は繭を一望できる屋上のフェンスに座っていた。どうやらそこで我の居る繭を見つめていたらしい。
二角魔王と共にいた人間に似た容姿の男がいた気がするが、詳細は思い出せない。
目の前に現れた我を見ても驚いた様子もなく、緑色の瞳を細め、楽しそうに笑っていた。

「貴様、何者だ?」
「質問を質問で返すなよ。ナンセンスだなあ。ま、そんなことはどうでも良いか。初めまして、ヤミゲドウくん。私は黒岳カガリ。この通り、普通じゃないだけの人間さ」
「普通じゃない……?」
「石化の糸で石にならない人間なんて普通じゃないだろう?」
「……ああ、そういうことか」

確かに女は建物を覆っている糸を踏んでいながら、石化に至っていない。
何故石化しないのか。
その仕組みが分からない以上、得体の知れない女であることに違いない。

「ま、そういうこと」

よいしょ、という掛け声と共に女は器用にもフェンスの上に立った。どう見ても危険極まりない行為だが、よほどバランス感覚が優れているらしい。
その場に立ったまま、微動だにしなかった。

「……落ちれば死ぬぞ、人間」
「死なないよ」

女は天を仰ぎながら瞳を閉じ、そして自嘲気味に笑った。

「私が私に挑んだところで、どうせ私は私に勝てない」

どういう意味なのか。それを問うより先に女は言葉を続ける。

「それより良いのかい? そろそろ裏七角地王と七角地王のファイトが決する頃だ」
「……」

確かに女の言う通り、今我が操っている人間の視界から既に勝負は決したも同然の状況が見える。
ち、と小さく舌打ちを漏らし、踵を返す。そんな我の背に向かって女はこう言った。

「せいぜい頑張れよ、ヤミゲドウくん」

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