▼ 大公爵アスタロトB(1/2)
「本当にあれで良かったのか、カガリ」
鈍色の雲に覆われた空の下、カガリは病院の屋上でフェンス越しに街を見つめていた。その横顔にいつもの明るさはない。
カガリは医者の紹介状をもとに明日から別の病院に通院することになっている。その前に陽太に想いを告げる予定だったが、どうやらその計画は頓挫(とんざ)したらしい。
嬉しくない、と言えば嘘になる。
カガリが陽太を好いているように、私はカガリを好いているのだから。
だが、計画が頓挫してカガリの心が救われるかは別の話だ。
「……良いんだよ、あれで。むしろあの状況で告白しろという方が無理な話だよ」
「それはそうだが、しかし、未門陽太と会うのは本当に最後になるのだろう?」
カガリがこの病院から居なくなって少し経った後、未門陽太は逝去する。だから今日が最後の機会だと、カガリは言っていた。
結果、カガリは告白という一歩を踏み出すことなく、踵を返した。
後悔が残ることは望ましいことではないはずなのに、なぜ。
「分かってる。……でも、最後だからこそ、余計に考えてしまったんだ。もう少し早く出会っていたら陽太は死なずに済んで、なんの迷いもなく告白出来たんじゃないかってね」
けれど、現実は違う。知っていたところで未来を変えられるかは別の話だ。
いつかそう語ったのは他でもない、カガリ本人だった。
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