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小悪魔。
あれから色々調べてみたけど私には無理な事が判明した。
うん、男の人を掌で転がしたり思わせぶりな態度をとるなんて私には無理だね!


葵はうんうんと一人頷きながら右手を動かして原稿を描いている。
傍から見たら非常に謎な行動である。

「おい葵、一体何に頷いてるんだよ」
「え?」
「また例の小悪魔について考えてたんじゃねえだろうな?」
「まさか!御子柴先輩、私は気付いたんです!
私は何人もの男の人を掌で転がすような手腕を持っていないって!!」
「・・・そうだな」

葵はどちらかと言えばその整った顔で繰り出す天真爛漫な笑顔で男の心をかき乱す方だろう。
御子柴は知らないが彼女が通う高校の先輩を既に一人陥落させている。
彼は非常に慧眼である。


「それでですね小悪魔について色々調べていたんですけどね!」
「お、おう」
「クラスメイトが主人公に意地悪とか呼び出しするシーンがあるじゃないですか!
あれってどういう感じで怖いのか気になって・・・」
「・・・・・・」
「マミコは何度も呼び出しされる展開が多いでしょう?
だから十回目位になると流石に最初は怖がっていたマミコも実は内心では、」

『待っていたわよマミコ!』
『ふふ、鈴木くんを呼んでもムダよ、さあ来なさい!!』
『いやっやめて!!!』


悪意ある笑みを浮かべた女子数人に対し、為す術もなく右腕を掴まれ何処かに連れて行かれるマミコ。
涙目で必死に抵抗しようとするマミコのシーンだが御子柴は葵の次の言葉を待った。
そして。

「多分こんな感じじゃないのかなぁって・・・」

(まぁたこの流れなのね、ハイハイテキトーに震えておきますよ。
あーさっさと鈴木くん来ないかなぁヒマだわ)


「そんな視点で描くのやめろよ」



  ■■



(御子柴先輩に注意されたけど・・・でもやっぱり気になるなぁ)

葵は決して自分がマミコのように嫌がらせをされたいかと聞かれれば勿論答えはNOだ。
教科書やノートに嫌がらせなんてされたくない。
勿論何処かの教室に閉じ込められるなんて展開はごめんだ。


「あれー葵ちんどうかしたの?」
「紫原君!・・・え、紫原君!?」
「・・・え、なに?」
「紫原君って女の子に呼び出しされた事ある?」
「・・・・・・」

学校の廊下にて葵に詰め寄られる紫原だが、身長差の加減で全く威圧感は感じられない。
紫原の葵に対するイメージは暴走するタイミングが分からない小動物である。

「・・・今度は何?呼び出しって一体どーいうことー?」
「紫原君は女の子に・・・じゃないか男の人に意地悪された事って無い?」
「はぁ?」

素っ頓狂な声を出してしまったのは仕方が無いだろう。
話が全く読めない。

「えー・・・お菓子を隠された事とかー?」
「えっ紫原君の地雷をピンポイントで踏み抜くとか・・・!勇者?いや無謀も良いところだからまた違うか・・・」
「ムカついたから頭を鷲掴みにしたけどねー」
「お、おおう・・・」

傍目から見たらそうでもないが紫原の目がやや据わっている所を見ると大分腹が立ったようである。
当たり前の結果だろう。

「それでー?
何でそんな事を聞くわけ?葵ちん誰かに呼び出されたの?」

いつもと変わらない、緩い口調でそう問いかける紫原だが心中は物騒な未来を思い描かれている事を葵は知らない。

相手が男だろうが女だろうが相手は無傷では済まされないのは確実だ。
男だったら見目の良い彼女に言い寄ったりするだろう。
中身はいかに奇行種であろうと外見はただの美少女なのだ。外見は。

逆に女だったら氷室関係である可能性が一番濃厚だろう。
・・・今の所大丈夫そうだが万が一という可能性もある。

「え?そんなわけないでしょ?私だよ?誰が私を相手しようとするの?」
「・・・そうだねー」

知らないって幸せだなあ。
紫原はそんな事をぼんやりと思った。
そして此処で氷室が突き当たりの角から現れると同時に二人を視界に入れると此方に向かって話しかけてきた。

・・・室ちんタイミング良すぎじゃない?

「葵ちゃん、学校に来てたんだね。風邪はあれからどうかな?無理していないかい?」
「はい!もうばっちりですよ氷室先輩!
御心配をおかけしました!」
「そっかそれは良かった」

にこにこと裏表の無い笑顔に氷室の笑みがさらに深まる。

プライスレスな笑顔ってこういうのを言うんだろうか・・・。
紫原はチョコレートを一口頬張りながらそんな事をぼんやりと思った。

だがしかし。
このほのぼのの空気を一気に飽和させる爆弾発言を葵はいつも通りの笑顔で投下した。


「あ、氷室先輩って誰かから呼び出しを受けた事ってありませんか?」
「・・・・・・え?」

凍り付いたのは氷室だけは無かった。
廊下の空気も一緒に凍り付いたのを紫原だけが感じ取る。

「・・・」

何気なくちらりと氷室の方を横目で見たが速攻で目を逸らした。
そして後悔した。

何故彼女の口を塞がなかったのかと。

紫原は完全にこの場を去るタイミングを逃してしまった事に、この時ようやく気付いたのだった。

今回は小悪魔ネタと呼び出しネタのシャッフルverです。
個人的に女子に呼び出されるのは黄瀬君でも良いかなと思っているんですがいかがでしょう?

20160206