その他 | ナノ

「若松ってよく瀬尾と一緒にいるよな」
「あれだけボールを投げられ追い掛け回されたりしているのに」
「おっ俺だって好きで一緒にいるわけじゃないですよ!!」

浪漫学園男子バスケ部のミーティングにていつも話題に上がる瀬尾結月について彼等部員は頭を悩ませていた。
何度も乱入しては嵐を巻き起こし、周囲にはぺんぺん草も残らない。

そんな恐怖の存在に部員達は戦々恐々と放課後を迎えていたのだが。


「こうなったら彼氏を作って大人しくして貰う事に賭けるか」
え!?瀬尾先輩にそんな相手がいるんですか!?」

思わず本音が出た若松だが言っている事は大概酷い事に彼は気付いているのか否か。
しかし今までの所業が所業なので誰もフォローを入れる素振りは見せない。

「バカだな若松・・・そんなもん適当な奴を人柱にしてひゅーひゅー言うに決まってんだろ」
「そんでいつか良い雰囲気になるんじゃね?」

(この人達無理矢理作る気だ!!)


まさかこの人柱が自分に白羽の矢が立つ事など露知らず、若松はただそう思ったのだった。

―――そして人柱になった次の日。


若松は親友が在籍する陽泉高校校門前にいた。
時間は丁度下校時間であり、彼の親友が連絡を受けて校門前にて若松の姿を見た途端全力疾走してきたのを見て、彼は掌で顔を覆い何かを耐えるように肩を震わせた。

「若松君?どうしたの!?
顔色凄く悪いよ!?もしかしてまた眠れてないの!?」

全身全霊、それこそ文字通り全開で心配してくれるこの親友に若松は涙が出そうになった。
柳眉は八の字になっており、若松の暗い空気に即座に気付き気遣ってくれる親友もとい野崎葵。

「・・・葵・・・」
「とりあえず私の家に来る?
ゲームでも気分転換でも私が手伝えそうなら力を貸すよ!」
「っ葵ーーー!!」
「ええええええ何で泣くの!?私!?私が原因なの!?」
「ちがっ、ただ葵が葵で良かったなって思って!
葵はずっとそのままでいてね!」
「何の話!?」

脈絡が無い上に話の展開についていけない葵の心情に気付かない若松。
台詞だけ聞けばただの情緒不安定な彼氏と心配性の彼女の図だが、二人の中には恋愛感情というものは一切無い


「何の話って言われても・・・改めて口にするのは少し難しいなあ」
「そ、そうなの?」

葵が首を傾げるが若松は苦笑で無理矢理乗り切る。
そして代わりに口にした台詞は葵を凍り付かせるには十分な威力を持っていた。

「とりあえず葵は優しいっていうかお人好しで野崎先輩が作ったケーキを食べてる時の顔が本当に幸せそうで其処が可愛くて絵を描いてる時の葵は格好良いし、ああうん結論から言うとこれからも(親友として)宜しくお願いします」
「え、え?あの、若松君?
本当に何があったの?話が見えな、」
「あ、ごめん説明も無しにいきなりこんな事を言われても困るよね・・・」
「・・・え、あ、・・・・・・うん」

最近『瀬尾先輩』が原因でイロイロあったらしいというのは兄を通じて聞いている葵だが今回は今まで以上に話の展開が見えない事に不安になる。
その事にようやく気付いたらしい若松は彼女を落ち着かせようと結論を口にした。

―――それが最大の過ちであったのだがこの時二人はそれを知る術はなく。

「俺、」

何が何だかわからないまま、若松の中で何かが整理されたらしい。
葵は陽泉生徒の視線を一身に浴びつつも若松の次の言葉に身構えた。


「俺、葵の事が好きだよ」
「・・・・・・」


対結月の特訓で可笑しな方向へと口を滑らせた若松に、今度こそ葵の笑顔は凍り付いた。


「(・・・ってああああああしまった昨日の無駄な練習の所為でうっかりと!
しかも葵はあの時部屋にいなかったから、この事知らないだろうし!!)
・・・えと、葵・・・?」
「・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・お、」

葵が何か言おうとしたのとほぼ同時に本日最大の嵐が到来した事に、此処でようやく若松が気付いた。


「っ葵ちゃん!!」
「え」
「氷室せんぱ、」
「葵ちゃんちょっとこっちに来て!!」
「え、え?」
「葵!?」

若松が何か叫ぶ中、葵は氷室の背中に隠され、若松からは彼女の姿は見えなくなった。
そんな彼の前に突如立ちはだかるのは隠しきれない敵意の目で己を見る、恐ろしく顔立ちが整った男子、もとい氷室辰也だった。

「まっ待って下さい氷室先輩!
俺先輩に何かしました!?」
「したから俺は怒ってるんだろう?」
「え!?」


「・・・」
「あーいたいた葵ちーん」
「・・・む、紫原君・・・?」
「ねー葵ちん、室ちんと何かあったの?
室ちんちょー怒ってんじゃん」


下校時間、校門前、氷室と紫原の目立つ二人組に加え他校生という組み合わせは非常に目立つ。
視線と野次馬は増える一方で葵は高身長の三人とは対照的に小さくなるしかなかった。

「いや私もよく分からなくて・・・」
「・・・でもさー葵ちんが関っていない筈が無いんだよねー・・・」

あの氷室の剥き出しの感情を見ると。


紫原は冷めた目と思考の下でそんな事を漠然と考える。
・・・どちらにしても厄介な事になった。


始終何が何だか理解しきれていない葵に説明を求めても恐らく無駄だろう。
はあ、と溜息をついた自分はきっと悪くない。

紫原は徐ろにお菓子の袋を開けようと手を伸ばしたのだった。

最新話(第66号)ネタでした。
もしも主人公達陽泉組が絡んだら。
久々過ぎて申し訳ないですorz

20150628