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!ホラー
!主人公不在


頭が痛い。

意識が浮上する中、まず思ったのがそれだった。

閉じられていた瞼を開ける。
すると辺りには沢山の机と椅子がある。

・・・学校?
だけど、此処は秀徳じゃない。

「・・・此処、何処だ?」

真っ暗な上、埃臭い。それに何か、薄気味悪い。

高尾がそう思っていると、不意に後ろから声が聞こえた。


「・・・其処にいるのは高尾か?」
「し、んちゃん?」
「あ?高尾だと?」
「み、宮地さん!?」

いつもより低く、緊張感に満ち溢れた声の持ち主は険しい顔だ。

「なあ真ちゃん此処、何処?」
「話は後だ、早く体育館に戻るぞ!
此処も安全じゃねえんだ」
「え、安全?」

カンッ・・・カラカラ・・・


何かが床に当たる音。そして何かを引き摺る音。

ただそれだけの音なのに、何故か本能が恐怖する。

ダメだ。
あれに、"あれ"に見付かったら、終わる。


『!!』
「ちっ見付かったか!」
「とりあえず場所を特定したわけでは無い筈です、隠れましょう」
「ああ。おい高尾、静かにしてろよ。
声出したら轢く焼く燃やす」
「ちょ怖いっすよ」
「しっ、見付かったら死あるのみなのだよ」

死。
その言葉がいやに緊張感を与え、三人の空気が極限まで張り詰めた。


どくり、どくり、

心臓の音が、その見付かってはいけない相手に聞こえていないだろうか。

そんな不安が頭に過ぎりつつ、高尾は好奇心に逆らえずに窓の外へと視線を向ける。


・・・視線を向けたことを此処まで後悔した事はない。


(な、んだ、あれ)

ガラスの向こうに映る影は、自分が知るどの生き物にも該当しない、未知の生物だ。
いや、想像上のものとしてなら見た事も知識としてならある。

だけどあれは、現実にはいてはいけないものだ。



首が明らかに異常な方向に曲がった、ナニカ。

皮膚が爛れ、少し距離があるのにも関わらず腐敗臭すら漂ってくる。
手には多分金属バットか何かだろう。血がこびり付いているのが嫌でもわかる。

気持ち悪い気持ち悪い気持ちわるいきもち悪い気持ちワルイキモチワルイ。

あれは、敵だと問答無用で植え付けられた恐怖に、高尾は声が出なかった。
無限とも言える時間が過ぎ、あの化物の姿も音も完全に無くなった事を確認してから、緑間達は速やかに緑間達曰く、安全域と言われる体育館に向かったのだった。



  ††



そして。
高尾もようやく現状確認もそこそこにした後。
異変は突然訪れた。


「クスク  ス くすク スくス」

「 ず  いブん、のンき なん だね  」

「みど リとタ  かの た い せツな  モノ、とッちゃ、たのに」

「  まダき づい て ナイ ノ? 」



「緑と、鷹って・・・」
「緑間と高尾の事か?」

誰かがそう呟く間も、目の前にいきなり現れた体が半透明で血塗れの少女、二人の嗤い声は止まらない。


くすくす、くすくす。


笑う、哂う、嗤う。嘲笑う。


「な んてイ  っ たか  な 、」

「 たし カ、あひ るさン だ っタ  かな?
トリ の なまエだ った ようナ・・・  」

「う ウ ん、 てんき だった よ? 」


二人の血まみれの少女の笑みが口裂け女のように笑い続けている。

鳥の名前。
天気。

重大なヒントの筈なのに全然線になって繋がらない。

考えなければいけないのに、目の前の少女達から目を、思考を離せない。


「な、んなんスかこいつら」
「黄瀬、少し黙ってろ」

そう笠松が黄瀬に叱咤した直後、高尾の思考回路が硬直した。


「 あァ、 おもイダ した 」

その一言と共に告げられる名前。

歪に嗤う口元と歪んだ喜色を浮かべるその瞳は最早狂っているとさえ言えた。

「 くものすずめ さん ダ」

くものすずめ。
雲、雀。

―――雲雀?

「―――!!!」
「千歳、か・・・!?」


高尾の心臓が一瞬止まったように感じた。

いま、なんて。


「ふたツの  ぶき もっ て たちむか てきタ 」
「 で も しょセン ニ  ン ゲン だから かな ウ はず な イ」

「ワカル ? あのコの イノチハ あなたた ちが」



にぎっている。

そう告げた瞬間、血まみれの幽霊は現れた時と同様、音も無く姿を消した。



  ††



心臓が痛い。呼吸が落ち着かない。
気持ちばかりが急いて、心と頭と体がバラバラだ。
何一つ、定まらない。

「高尾、落ち着くのだよ!」

緑間がそう声をかけるも高尾の耳には届かない。
恐らく、高尾がいつもの調子に戻るのはある人物の安否を確かめた後だろう。

「るっせえよ緑間!
千歳ちゃんが!千歳が捕まってるんだぞ!
落ち着いてなんていられるかよ!!」

今こうしている間にも、あの未知の奴らに何かされているのではないかと思うとじっとしてなんていられない。
またあの時のように、何も助けられずに見ているだなんて絶対に嫌だ。

「オレは!絶対に彼女を助けに行く!!
指をくわえて待っていられる程、オレは人間が出来てねェんだ!!」

そうだ、約束したのだ。
彼女が窮地に追い込まれたら、今度は自分が助けようと。

そう、自分の心に誓いを立てた。



・・・何で気付かなったんだろう。
天気。鳥の名前。
自分の大切なものなんて、少し考えたらすぐに挙げられる。
その中で二つのキーワードを当て嵌めたら答えなんてすぐに分かる筈じゃないか。

天気は雲。
鳥は雀。
その二つを組み合わせたら雲の雀、つまり雲雀になるのだから。


高尾はぐっと唇を噛み締める。
掌に自身の爪が食い込むのを感じながら、未だ見ぬ囚われの彼女へと思いを馳せるのだった。


ホラー書いてみたいなーと思い、急遽ヒバタカで書いてみました。
主人公本当に出てこないし、囚われの身になっているという事実。
・・・弟君が助けに行きそうな気がするのは気のせいでせうか。

20150207