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「千歳さん金髪じゃなくなってたよな!」
「ああ黒髪になってた」
「黒髪の千歳さんも格好良かったし、俺一生あの人に着いていくよ・・・」
「お前本当に千歳さん大好きだな!」
「そんなのお前もだろ!ていうか皆の憧れじゃねーか!」
「そういやあの人の弟さんもすっげー強いらしいよ?」
「あー知ってる並盛最強の風紀委員長だろ?」


彼らは所謂不良と呼ばれる存在であるが、彼らが尊敬してやまない元リーダーの雲雀千歳の指揮下において飲酒喫煙禁止、一般人に迷惑をかけないという不良らしからぬ二点を忠実に守っていた。
元リーダーは女だったが彼らにとって性別など二の次で、彼女という存在そのものを尊敬していた。


「そういや聞いたか?」
「何が?」
「千歳さんの写真を待受にした奴がいるんだけど、最近そいつの運が上がってるらし、」
「パワースポット!?」
「パワー千歳さん!!」
「うおおぉぉぉおおどの写真!?俺結構持ってるぞ!」

「どうせ待受にするなら番長千歳さん!!っていう写真が良いよな!」
「あー分かる分かる」
「厄除けになりそう」

本人が知らない所で好き勝手言う元子分達の背後から、不穏な影が現れた事にも気づかぬまま話は進む。


「千歳さんに会いたーい」
「同感!」
「普通の女の子に戻るって言ってたけど千歳さんだもん絶対無理だよ」
「あの人少しズレてるしなー」

けらけらと笑う彼らに、とうとう死刑宣告が言い渡された。


「―――ねえ君達、人の姉さんに好き勝手言うだなんて良い度胸してるね」

こつ、と小さな足音と共に現れたのは学ランを風に靡かせ、鈍色のトンファーを構える最凶の風紀委員長、その人だった。



  ††



「・・・オレ今学校出たくねえっす」
「何馬鹿言ってんだ轢くぞ」
「高尾一体どうした?」

じりじりと後退りをする高尾の首根っこを鷲掴み、引き摺るよう校門を目掛けて歩く宮地に抵抗しようとするが所詮、191cmと176cm。
結果は実際に見なくても分かった。

「みっみや、じさっ首がしまっ」
「うっせえ蹴るぞ」
「し、ちゃっ、へるぷっ」
「諦めるのだよ高尾」


無慈悲にもずるずると引き摺られる高尾の鷹の目に映ったのは複数の不良。
千歳の件でいくらか耐性はついたものの、それでも根本的にトラウマはある高尾にとって不良という存在を見たら無条件に仰け反ってしまう。

いかに宮地達が規格外に身長が高く、物怖じしない性格であっても自分達が属するのはバスケ部である。
問題を起こしたら大会にも出られないというのは最大の弱み。

それだけは避けなければならなかったのに、


「あ、おいあいつら」
「あ゛?」

『・・・・・・』
「・・・おい高尾、もしかして」
「そのとおり、っす」

冷や汗が止まらない。
複数の不良が指す「あいつら」というのは間違いなく自分達を指しているだろう。

自分の中の警鐘が鳴り響く。
曰く、早く逃げろ。

問題が起こる前に、この場所から。

「おい其処の緑髪と小さい方の黒髪!」
「お前ら二人、ツラ貸せや」

緑髪という単語から察するに緑間だろう。
小さい方の黒髪、という人物は多分・・・。

(オレだ!!!)


「・・・おい緑間、高尾逃げろ」
「だな」
「はっ!?」
「せんぱ、」
「オレ達先輩、お前ら後輩だろうが。
先輩命令だ、逃げろ」
「っ逃げるなら一緒に」


「ぐだぐだうるせえ!」
「安心しろ、俺達は一般人には手を出さねえよ」
「それが"あの人"の絶対方針だからな」
「格好良いよな本当に・・・!」
「ああでっかいよ器とか色々!」
「俺今あの人の待受にしてから本当に運が上がったんだぜ!」
「マジかよ!」

『・・・・・・』

話が脱線してきている。
バスケ部の視線にようやく気付いたのは不良達は若干気まずそうに視線を逸らした。

「あ、あー・・・悪い。
俺達、人を探してんだよ」
「人だと?」
「ああ。名前は雲雀千歳」

『っ!!』

聞き慣れた名前。
彼女のことを聞いて、どうするつもりなのだろう。

「な、んでオレ達を」
「あの人の近くにいるんだろ?」
「俺達の中に情報通がいる。しらばっくれても無駄だぜ」


明らかに喧嘩慣れしている彼らに対し、どうすべきか緑間たちは逡巡する。

不良の狙いは雲雀千歳。
ではその目的は?
怨恨関係か何かか、どちらにしても良い予感なんて全く無い。絶無だ。

高尾の頬に冷や汗が流れた。


「・・・"あの人"とは一体誰で、千歳に会ってどうするつもりなのだよ」

いつも以上に硬い表情でそう尋ねる緑間。
緑間と千歳は幼馴染だ。
故に面倒事に関わらせないようにという配慮が全面に押し出している。

一方の不良達は緑間の台詞の何かが引っ掛かったらしい。
今までの表情とは一転、迫力が増した表情で緑間を射抜くように睨みつけた。

「っっあの人の名前を呼び捨てで呼ぶんじゃねえ!!」
「千歳さんを呼び捨てにするなんてなんて恐れ多いんだ・・・!!」

「・・・・・・え」

呆気にとられた声は一体誰のものだったか。
答えを出す前に不良達の絶望したような声にかき消された。

「っ俺達の千歳さんを呼び捨てにするなんて、お前一体千歳さんとどういう関係だよ!!」
「くそっ恋人なんて聞いてないぞ!」
「千歳さんこんな奴の何処が良いんですか!!」

絶望に打ちひしがれた男達にかける言葉が見付からず、茫然と見る高尾達。
一方こんな奴呼ばわりされた緑間はというと米神が引き攣っている。

「くそっ・・・!!
だがそれだけ近い存在という事を見込んでお前に頼みたい事がある!」
「・・・・・・は、」
「俺達に千歳さんの写真を送ってくれ!!」
「一日一千歳さん!!」

「そんな犯罪紛いの片棒を担ぎたくないのだよ」

「犯罪だと!?」
「俺達はただ千歳さんの写真を待受にしようとしているだけだ!!」
「中学時代では満足出来んのかバカめ」
「ばっかやろう今の千歳さんもレアだろ!!
普通のセーラー服を纏い、トンファーを振り翳す千歳さんは何処からどう見ても格好良いじゃねえか!!」

緑間の突っ込みも虚しく、幼馴染について熱く語る元子分達にかける言葉が見付からない。
彼らが敬愛してやまない元リーダーの千歳から怒りの鉄槌を受けるまで後十分。
そしてその様子を隠し撮りする元子分にドン引きする緑間達の姿を見るまで後十二分。


久々に書いてみた番外編。
最初に書いたデータが吹っ飛んで泣く泣く書き直しました。
最初は宮地達を出す予定は皆無でした。

20150131