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!もしも主人公が真由成り代わり主だったら第四弾
!容姿は本編と変わらず。性格のみ真由に近い



▼主将と部員の事情

「・・・何で男子の方は寝技を嫌がるの?」

柔道と言ったら殆ど寝技のイメージが強い。
だが自分が所属する柔道部―――特に男子の方は寝技を嫌っている節が強く見受けられた。
素朴な疑問に首を傾げる野崎葵に答えをくれたのは紫原に次いでクラスでもよく話す男子生徒、小林だった。
・・・ちなみに彼と葵は同じ柔道部である。

「そりゃあ投げ技が決まると格好良いからなー」
「・・・格好良い方が良いの?」
「やっぱり男子なら格好良く決めたいって思うだろ」
「・・・・・・」
「そういや野崎のお兄さん漫画家だろ?
だったらイラストで説明したらどうだ?」

小林は葵の兄が少女漫画家である事を知っている。
だからこそ格好良い寝技イラストを想像して提案してみたのだが、彼女の方が身内である分正しい答えが返ってきた。

「・・・兄さんが描くと多分こうなるけど良いかな?」

『やだ!!どうしよう・・・こんなに密着したらドキドキしちゃう・・・!!』

連想されたのは鈴木を馬乗りにして赤面するマミコの姿。

・・・確かにそれは、

「すげーやりづらいな」
「それでそのうち柔道がおまけでしかなくなる」
「・・・あれ、じゃあ野崎はどうなんだよ。
中学時代、一日最低一回は青峰に技かけまくっていただろ?」

無表情面倒臭がりだがもしかして葵も内心はと思い、気遣わしげに見る小林。
だがしかし相手は葵である。
当然その思考は粉々に砕け散った。

「?青峰は弱いし、本当に男かどうかさえ疑わしい」
(青峰の扱いひどいな!!)

野崎葵の中で、自分より弱いと男と認識すらして貰えないという方程式がわかった瞬間である。



▼兄譲りの才能が開花

(でもイラストで説明は良いのかもしれない)

やれば出来ると評価される彼女の才能は何も柔道だけではなく、それは画力にも反映される。
兄の漫画を参考にしつつ迷う事なくばりばりと鉛筆を動かす葵の姿は何処からどう見ても素人とは思えない。


「葵ちん何やってんのー?」
「・・・・・・」

そんな彼女の元にゆったりとしたペースで現れたのは紫原。
手にはやはり大量の駄菓子があり、感情が見えない瞳で葵を見据えている。

そんな彼の視線も何のその、いっそ表情筋が死んでいるのはと思う位の無表情で自分が現在進行形で描いていた絵を彼の眼前に押し出した。
勿論、紫原は葵の前の席に座った為、身長差でそれが叶わなかった、なんてオチは無い。

「・・・葵ちん、近すぎて逆に見えない。
ミドチンじゃないんだからそんなに近くで見せなくても見えるしー。
逆に舐めてんの?捻り潰すよ」

顔面と紙の距離は五センチも無い。
故に逆にぼやけて見えにくかったが、無造作に紙を受け取る事でようやく紫原は紙に描かれた絵を視認する。

・・・視認してから数秒。
紫原は賢明にも沈黙を貫き、葵からの反応を待った。


・・・・・・十秒経過。

・・・・・・二十秒経過。

・・・・・・三十秒経過。

いくら待っても葵の反応を得られない事に諦めた紫原はとりあえず理由を尋ねる事にした。

「・・・どういう風の吹き回し?」

もう少し詳しく言うと柔道着を着た女子が袈裟固を決めているイラストである。
余った余白を使って袈裟固についてのポイント等が細かく書かれているのを見て、恐らく部活に使うものだろうと予想できる。

「・・・部員全員、寝技が下手みたいで。
だったらイラストで説明しようかな、と思って」

淡々と話す彼女の話し方は要点が絞られていてわかりやすい。
だが高確率で言葉が足りなさ過ぎるという致命的弱点を持つから気を付けないといけないが、今回は前者のようだ。

「ふーん・・・ていうか葵ちん絵、上手だね。
黄瀬ちんと比べたらホント月とすっぽん」
「・・・彼と比べられても困る」

何せ記憶にある黄色の彼は顔面偏差値と運動神経は抜群に優れていたが、それと反比例するように勉強と絵を描く才能が壊滅的だったのは知る人ぞ知る事実である。

葵は脳裏に黄色の彼を思い浮かべながら、若干遠い目をした。



▼主将直々の稽古とは

「では今日は袈裟固の練習をします」

「野崎!!表情が死んでる!」
「中のTシャツいらないよ主将!」

一年ながら主将を務める葵の姿は何処かの赤色を連想させるが其処は割愛。
葵は現在、ホワイトボードに貼りつけたイラストについて説明しようとしていた。

「ていうか何で少女漫画風!?」
「肉感がもっと欲しいです主将!!」
「・・・・・・」

次々と沸き起こるブーイングの嵐に葵は一瞬沈黙し―――ブーイングをし続ける部員に彼女の投げ技が炸裂した。




「・・・あ、葵ちんだ」
「葵ちゃんが?何処にいるんだいアツシ?」
「彼処ー」

紫原がす、と指を差した先には柔道場があり、開けられた扉の間から小柄な体躯を道着に身を包んだ少女、野崎葵の姿が。
氷室の脳裏には寝技を決めながら眠りこける葵の姿しか想像が出来なかったのだが、それは容易く覆された。


「はっ!!」
「ぎゃーーっっ」

ばーんっと凄まじい音が響き渡るのと同時に綺麗に決められたのは巴投。
巴投は真後ろに投げるタイプと横に移動しながらそのまま横に投げるという二種類があるが、彼女が決めたのは実戦でよく使われる横投げの方だ。

・・・確かに横投げの巴投は、下にもぐり込みやすい小柄な選手が得意とする傾向にあるが、それを差し引いても綺麗に決めたものである。
葵は自分達に見られている事を知らず、そのまま関節技の代表格である腕挫十字固へと移行させていた。


「ーーーーっっギブギブ!!ギブです主将ぉぉっ・・・!!」
「・・・」

『・・・・・・』

無言でそのまま技をかけ続ける葵にひくりと口角を引き攣らせたのは誰だったか。

氷室は小柄な体躯であり、普段面倒臭がりである筈の少女の実力を目の当たりにし、目を輝かせ、胸を押さえたのは別の話。

此処で恋に落ちる氷室とかね!
回を重ねるごとに氷室の出番が少なくなっていくのは気のせいでしょうか・・・。


20150118