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兄に付き添われて病院に行ったら病名は疲労からくる風邪だろうとの事。
自己治癒能力は高い方だから薬を飲んで寝たらすぐに治ると兄に言われ大人しく寝る事にした。

熱で正常に回らない頭で兄が看病の為に学校を休んだという事実に葵が気付く事はなかった。


「・・・まあこれまでの経験を考えたら明日には全快しているか。
とりあえず何か食べ物を作って・・・ああ、あいつは確かお粥は苦手だったな。じゃあうどんにするか」

ベッドの脇に水が入ったペットボトルを置くと梅太郎はエプロンを手にとった。



  □■□



「あっ堀先輩!」
「佐倉?」
「堀先輩今から野崎くんの所に行くんですよね?
私も一緒に行きます!」
「え、何で俺が今日行く事知って、」
「堀先輩が今日来るって事、野崎くんから聞きましたから!」
「成程な。・・・そういや佐倉にも野崎妹が寝込んだってメールが来たのか?」
「はい!だから冷えピタとか差し入れをしようかと思って」
「そうだな・・・後はアイスとかも買っていくか?」
「あ、良いですねそれ!」

演劇部も美術部も休みなのでいつもより早めに野崎宅に行く事が出来る。

歩いて数分後、学校から野崎宅の間にあるコンビニにて差し入れを吟味する堀と千代。

「えーとまず冷えピタと、」
「ポカリはこれで良いか。・・・お、佐倉、ゼリーもあるぞ。一応買っておくか?」
「そうですね!お昼ご飯は多分野崎くんが作ってるでしょうし、軽いものをメインに持っていきましょう!」
「ああ」

他に買う物があったかなあと千代が軽く店内をぐるりと見回すと其処には紫色の髪を持つ学生が目に入った。

「っ!?(の、野崎くんより大きい!?)」

野崎梅太郎の身長は190cmで高校二年にしては高く、彼より背が高い人間はそういないと思っていたのだが、それは誤りだったらしい。
駄菓子コーナーにいる彼はどう見ても2m近くある。


「アツシ、何のお菓子を買うか決めたかい?」
「もうちょっとー」


(あれ、よく見たら陽泉高校の制服だ。
じゃあ葵ちゃんと同じ・・・)


「全く・・・この後ドラッグストアにも寄らないといけないんだから早くしてくれよ?」
「うん、分かったー」


(紫色の髪の人に圧倒されたけど、よく見たら隣りにいる黒髪の人も綺麗な顔立ちをしているなー。
鹿島くんと同じ位かな?あ、でも鹿島くんは女の子だから・・・という事はみこりん?
でもみこりんってマミコのモデルにもなってるから何ていうかこう・・・)


次第に深みへと考え込む千代に堀は何処か引きつつ、訝しげに声をかけた。

「おい・・・佐倉?」
「っぅあはい!!」
「買い物終わったし、早く行くぞ」
「えっ、あ、有難う御座います堀先輩!!」

妙に記憶に残る二人だったなあ、と思いながら千代は堀と共に店を後にしたのだった。



  □■□



「・・・兄さん?」
「!葵、起きたか。気分はどうだ」
「大分マシになったかな。
だけどいつも通りの風邪なら多分明日には完全回復していると思うよ」
「葵は昔から短期間で風邪を治すからな。
・・・ふむ、風邪で寝込むというネタをマミコと鈴木でやってみるか」
「え?」
「この場合葵みたいに短期間で治るとイベントも少ないから・・・やはりその逆じゃないといけないよな」
「まさかそんな風に言われるとは思わなかったよ」


『マミコ!風邪をひいたんだって!?』
『す、鈴木くん・・・!』
『こんなに熱があるだなんて・・・!
くっ出来るなら俺が代わってやりたいよ・・・』
『鈴木くん・・・!!』



「・・・よし。次はこれでいこう!」
「・・・・・・何でかな締切より早く終わるというのに素直に喜べない・・・・・・」

はあ、と溜息をつく葵の顔色は今朝と違って大分落ち着いている。
夜になれば熱は上がるとよく言うが彼女の場合、薬を飲めば大概治る為その説は当て嵌らない。

「・・・あれ、兄さんこれって演劇部の台本?」
「え?ああ、それか。失敗作だからあまり見ても面白くはないと思うぞ」
「失敗作?兄さんがそう言うなんて珍しいね」
「ああ・・・ちょっと王子役の部員を見てしまってな・・・。
くっ・・・失敗した」
「会ったら何かマズイ理由があったの?」

台本を斜め読みしていた葵だったが、ある所でその手が止まる。

「本人を見たら王子がただのナンパ男にしかならなくなった」

『ハーイお姉さん、黒い衣装がセクシーだね』
『そ・・・そうかしら』



「・・・こんなチャラい王子、見た事も読んだ事も無いよ」
「葵、体調が良くなったなら読んでみてくれないか?
イメージを変えたい」
「え、一人で読むの?」
「大丈夫だ、そろそろ佐倉達が来る頃d」

不意にインターフォンが野崎宅に鳴り響くと同時に野崎兄妹はふと手が止まった。

「噂をすればだな。
多分堀先輩と佐倉だろう。メールが来てたし」
「え!?だ、ダメだよ風邪が感染っちゃうよ!」
「いや流石に葵の見舞いにも来てくれたのに追い返すわけにはいかないだろう。
それにもう冷えピタもあまり無いし」
「うっ」

葵がそう怯んだところで梅太郎は徐に玄関の方に向かい、鍵を開ける。
次いで兄ではない男女の声がしたところで葵はようやく観念したのだった。

前回、嘘予告をしてしまってひたすら謝罪します。
まさかこんなに長くなるとは思わなかった。
申し訳ないです。
さてこの後とうとう野崎家に主要キャラが何人か集合予定。


20150111