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「・・・・・・」

葵が夢の世界に旅立っている中、兄達の会話は更に混沌と困惑を極めつつあった。


「ああ、それと最初は一人に絞った方が楽だぞ」

そう言って御子柴はパッケージから取扱説明書を取り出し、火神と梅太郎はそれを覗き込んだ。
其処にはカラフルな彼らを彷彿させる少女達がいた。

「どの子にする?」
「・・・・・・」
「そうだなあ・・・・・・、これにする」
「なっ!?」
「?どうかしたのか?」
「え!?あ、いや・・・そ、そうだ!火神は攻略するとしたらどの子にする?」
「え!?え、あ・・・えーと・・・」

火神は御子柴の突然のフリに動揺しつつもキャラクター紹介に目を走らせた。

「(くっ、どうする!?とりあえず黄緑青赤紫水色は問答無用で却下だ!その中で選ぶとするなら・・・!)この、黒髪の子、・・・?」
「・・・黒髪・・・、・・・・・・!?」

火神が指したキャラクターを見ると御子柴はある事に気付いた。

(このキャラ・・・何処となく葵に似ていないか・・・?それに野崎が選んだコイツは何処となく佐倉に似てるし・・・こいつらもしかして・・・)

悶々と御子柴が悩むのを他所に、野崎が爆弾を放り投げた。


「このシナリオが一番良いってネットに書いてあった」
「そうなんスか」
「ああ。ちなみに火神が選んだ子のシナリオと人気が半々らしい。
ファンの間では激戦が繰り広げられてる」
「へえ・・・(適当に言ったんだけどな)」
「ネタバレを読むなよ!!」

其処には野崎と火神がノートパソコンでネットを開いている光景があり、御子柴が怒りのあまり咆吼したのは言うまでもない。



  □■□



『どうしたの?何かあったら言ってよ?』

千代を彷彿させる少女の台詞の後に出てきたのはまたもや例の三つの選択肢。
選択肢の内容は『ぐっと我慢する』『愚痴る』『微笑む』。
ふむ、と梅太郎が思案するなか、火神は茶色がかった少女のキャラクターに内心安堵の息をついていた。
理由は勿論キセキの誰ともキャラが被っていない、の一言に尽きた。


「・・・御子柴先輩は、どれを選ぶんだ、です?」
「え、あー俺はそうだな・・・微笑む、だなあ。火神は?」
「オレは・・・・・・」

ふむ、と火神は自分が主人公だったらという想像の元で考えた。
自分に話しかけてくれる女子などそう多くはないので限られてくるがそれでも頑張って考えた。


『どうしたの火神君?あまりぼーっとしているとメニュー増やしちゃうわよ?』

・・・オレ何で今カントクで考えた!?
しっかりしろオレ!
下手な事を言うとマジでメニューを増やされる。
この場合『ぐっと我慢する』の一択に決まってるじゃねえか!!


「お、おい火神?」


急に百面相をしだした火神に困惑の色を隠せない御子柴。
しかし火神の被害妄想にも似た想像は止まらない。


『おータイガ!どうしたどうした、何悩んでるんだ一丁前に!』

「・・・・・・」

ダメだ。却下。師匠でもあるアレックスで想像したが本能がしっかり訴えている。
絶対に面白半分でからかわれる・・・!!


御子柴から注がれる視線にも気付かず火神は頭を振り、もう一度考え始めた。


『あれ、かがみん。どうしたのー?』
『っ桃井、』
『桃井さん、どうして此処にいるんd』
『あっテツくーん!!』


「・・・・・・」

桃井も別の意味でダメだ。
あれ、もしかしてもしかしなくてもオレって相談出来る女子はいないのか・・・!?

火神は別の意味で愕然とした。
知らなくても良い真実を目の当たりにし、がくりと肩を落とした。

そしてその間に梅太郎がどれを選ぶのか決めたようだ。


「答えは勿論『愚痴る』だ!」
「え、当然なのか?・・・です」
「野崎、お前何でその答えにしたんだよ?」
「これは少女漫画ではお決まりのパターンだ。
自分だけに見せる弱さにヒロインはときめく筈だからな」
『・・・・・・・・・』


自信満々に言った梅太郎を嘲笑うかの如く、画面の向こうに映る少女は一歩引いた表情になった。

『野崎君って結構小さい人なんだね・・・』

『・・・・・・』
「何故だ・・・!この女の気持ちが追えない・・・!意味がわからないっ・・・!!」
「とりあえず女目線でギャルゲーやるのを止めろよ」

頭を抱える梅太郎に御子柴が正論を突きつける。
そして此処で居眠っていた葵が寝ぼけ半分の状態で起き上がった。


「・・・に、さん?」
「葵!起きたのか」
「ぅ・・・にさ、ん、なにして、るの?」

必死に瞼を上げようとする葵の姿はいつ意識を飛ばしてもおかしくない様子である。

「葵・・・!お前ならどうする!?」
「ふぇ?」
「弱っている男の姿を見たらお前はどうする!?」

「・・・・・・?」

こてり、と首を傾げつつ回らない思考回路の元、葵は口を開いた。

「そだね・・・とり、あえず、・・・・・・えっと、あたま、」
『頭?』
「あたま、なでて・・・それから、・・・」
『それから?』
「それ、から・・・、」

其処から不意に言葉が途切れたと思ったのと同時に葵の体が再び机へとダイブする。

「おい葵!?」
「葵!!」
「葵!寝るならせめて台詞を全部言ってからに、」
「何言ってんだこの馬鹿兄貴!」

既に夢の世界に旅立った葵には兄の悲鳴も御子柴の怒号も耳には入らなかった。


「あーこりゃ完全に寝てるな」
「・・・とりあえず葵を部屋に戻した方が良いと思う、です」
「そうだな。野崎ー葵を部屋に、」
「くっ・・・!葵がこんな状態という事は明日聞いても覚えているかどうか・・・!!」
「野崎・・・・・・」
「・・・・・・」

漫画脳の兄貴を持って葵も大変だな。

それは御子柴と火神の心が一つになった数少ない瞬間だった。



  □■□


それは不思議な空間だった。
漠然とこれは夢なのだと理解していた。
だけど逆に言えば分かった事はこれだけで。

誰がいたのか、どんな姿だったのか、それさえも覚えていない。



穏やかな声で自分を呼ぶ、その人は。

殆ど主人公不在の話。
そしてかがみんが段々侵食されていくという事態。


20141116