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「野崎、今日泊まっていっても良いか?」
「ああ俺は構わないが・・・葵は大丈夫か?」
「うん別に良いよー」

きっかけは御子柴が発した何気無い一言。
本日メシスタントとして来ていた火神も含め、現在いるスタッフの野崎兄妹と御子柴、千代が会話に参加した。

「良いなーお泊まり・・・楽しそうだね、いつもどんな事をするの?」
「そうだな・・・相談に乗って貰ったりするかな」
「へえー」
「ふっ・・・主に女の話でな」
「御子柴先輩、そんなキメ顔で言う事じゃないです」
「・・・そうだ、火神と佐倉も泊まっていくか?」
「は!?」
「えええっ!?そ、そんな!わ、私は遠慮しとくよ!
(お泊まりなんてしたら私何するか分からないし!
それこそ布団にダイブしちゃいそう!!)

「そ、そうか・・・」
(・・・・・・千代先輩、兄さんに嫁ぐ時大丈夫かな・・・何か緊張し過ぎてとんでもない行動しそう)

葵の思考は後に千代と御子柴によるお宅訪問で的中する事になる。

そして、そんなこんなで火神と御子柴のお泊りが急遽決定した。



  □■□



「・・・おい葵、大丈夫か?」
「・・・・・・ん、」

明らかに船を漕いでいる状態の葵を気遣わしげに声をかけるのはメシスタントの火神。
ある程度原稿が早く進んだ為、火神達は今回修羅場に遇わずにすんだ。

そして御子柴が千代に言っていた"女の相談"の内容に火神はひたすら沈黙していた。
その理由は以下の通りである。


『ちょっと!今日一緒に帰る約束したでしょ!?』
『私とだよね、御子柴くん』
『えーと・・・?』
『『どっちと帰る気!?』』



「おい葵!俺はどっちと帰るべきなんだ!?」
「御子柴、葵はもう寝てるぞ」
「何ぃ!?」

梅太郎が淡々とそう事実を告げるとギャルゲーをしていた御子柴が憤慨の表情で振り返る。
火神は初めて見るギャルゲーにどう反応したら良いか分からず、ただただ引いていた。

画面には金髪のツインテール少女と緑髪ショートヘアーの少女。
・・・カラーリングが黄瀬と緑間を彷彿させる。


「じゃ、じゃあ野崎と火神!お前らはどう思う!?」
「え?・・・うーん・・・あすかかなあ。何か怒ってるし」
「火神は!?」
「・・・お、オレはさ、さゆり?だと思う、です」
「ばっかやろー何で意見がバラバラなんだよ!!」

御子柴が何やら叫んでいるが火神は今それどころではない。
ちらりとパッケージを見ると金と緑以外にも青髪、赤髪、紫髪、水色の髪、その他にもいたが火神にとってはだんだんこの少女達がそれぞれ"彼ら"にしか見えなくなってきていた。

一種の罪悪感を覚えながら、火神は件のパッケージから目を逸らす事にした。
この事がバレたらオレは生きていない可能性が高い。
特に赤色。アイツはマジで容赦がないと黒子から聞いた。
勝てるのは彼の幼馴染だけだとも。

火神が自分の思考回路を闇に葬るまでそう時間がかからなかったのは言うまでもない。


オレは何も見なかった。うん、オレは何も見ていない。



「・・・あの、」
「ん?」
「これ、そんなに面白いのか、・・・です?」
「お前敬語酷過ぎだろ・・・。
野崎にも言ったけどタイプの違う女を次々と攻略していく達成感ったらねーよ?
お前らもやってみろよ、ハマるぞ」
「え゛」
「えー・・・面倒臭そう。第一葵の反応が地味に怖いから嫌だ


梅太郎の現実的な否定材料に御子柴と火神は沈黙した。
そして引き合いに出された当人はというと既に夢の中に旅立っていた。
葵はどちらかと言えば爆睡型なので当分目は覚まさないだろう。

・・・そういえば不眠症の若松がひどく羨ましがっていたな。

そんな事を思い出しているといつの間にか御子柴はゲームをリセットさせ、梅太郎にコントローラーを手渡していた。



  □■□



『主人公の名前を入力して下さい』

「ほら、プレイヤー・・・つまりお前だ。
何でも良いから好きな名前を入れろよ」
「好き・・・・・・じゃあ・・・」
「・・・先輩は自分の名前だったスよね」
「ああ、俺はそうしてるな。さーて野崎、決めたか?」

くるり、と振り返る火神と御子柴。
二人は入力画面を見ると一瞬閉口し―――、


「・・・・・・鈴木三郎って確か」
(コイツ!自分の漫画のヒーローの名前を・・・!)

『次にあだ名を入力して下さい』

二人が愕然とする中、仏頂面でゲームに言われるがままあだ名を入力する梅太郎。

「お前・・・本当に自分の漫画大好きなんだな・・・」
「・・・・・・いや、違うと思うっス」
「え?」

眉間に皺を寄せたまま火神が胡乱気に画面を見つめたまま、御子柴に問いかける。
一方梅太郎に視線を向けていた御子柴は火神の台詞に再び視線をテレビに向けると、赤い瞳を限界まで瞠目させた。

「お前、本当は鈴木の事嫌いなのか!?」
「え、何の話だ?」

御子柴が指差す先―――あだ名を入力する画面には何故か『鈴木(笑)』と書かれていた。


「ていうか(笑)って何スか!?」
「いや何となく」
「野崎お前実は俺達の事もそう呼んでるんじゃないだろうな!?」
「そんなわけないだろう。
第一お前達にはすでにあだ名があるじゃないか。
"みこりん"に"かがみん"、俺はお似合いだと思うぞ!」
「うるせー!!!」
「不本意だ!です!!」

本編に進むまでの十分間、この論議で費やされる事になるがその頃には火神と御子柴は謎の疲労感に襲われたのは余談である。



そしてゲーム本編を開始してから数分後。
野崎は淡々と画面を見ながら、主人公の学校生活が始まるのだなとぼんやりと見ていた。
すると次々と現れる美少女達に火神は先程の考えに顔を歪ませた。


『はじめまして!鈴木君!!』

そう言ってウィンクするのは緑色の髪の、癖が少しかかった少女。

(・・・・・・み、緑間にしか見えねえ・・・。
頭に付けてるカチューシャが実はラッキーアイテムとか言われても納得しそうだ・・・)
「よしとりあえず質問は三択だから何か聞かれたら良い感じの答えを選んでいけよ」
「分かった」

画面に現れた三択は『よろしく!』『かわいいね!』『ひっこめ!』。


「(・・・・・・こいつが緑間だったら、まずあいつは『何なのだよバカめ』みたいな事を言ってきそうだな。じゃあオレが選ぶとしたら・・・・・・)うし、答えは『ひっこめ!』だな!」
「オレもそう思った。よし火神もこう言っている事だし、三番目を選ぶぞ」
「は?」


御子柴の素っ頓狂な声は二人ともにスルーし、次に現れたのは何故か空(?)から落ちてきた紫髪の少女。

『キャー、落ちるー!』

画面に現れた三択は『受け止める』『抱きしめる』『蹴り上げる』。

「(紫色って事はコイツは紫原か。アイツが仮に上の階から落ちてきたとして受け止めたり抱きしめるのは自爆行為だからな。となると・・・)正解は三番目の『蹴り上げる』だな!」
「ああ」
「え!?」
「どうかしたんスか、御子柴先輩」
俺の方がその台詞をまんまバットで返すわ!!
つーか何やってんだよ野崎!どう考えてもちげーだろうが!!」

此処に来てようやく正論を突きつけた御子柴だが、それを更に斜め上にいくのが野崎梅太郎という人間である。

「・・・・・・きは・・・・・・」
『え?』

「鈴木はマミコ以外にふらつかない!!」

マイベストカップル!!と叫んだ野崎の姿は最早親馬鹿以外の何者でもなかった。
そして致命的なミスを見過ごしてしまった御子柴の絶叫にも近いツッコミが野崎家の空気を震わせた。

「お前何でその名前にしたんだよ!?今すぐ変えろ!やり直せ!!」
「・・・でも名前を考えるの苦手で・・・・・・こういうのは全部葵にやって貰ってたからなあ・・・」
「お前の職業、漫画家だろ!?」
「あー・・・そういや葵、いつも名前辞典って書いた本を唸りながら決めてたな」
「名前辞典!?何だそれ!?」
「何だ御子柴知らないのか?
赤ん坊に名前を付ける時とかに使う、色々な名前が書かれていて・・・そうだな名前の由来とかが載っている便利な本だ」
「それ大丈夫か!?葵、学校に持って行ってねーよな!?アイツ変な誤解を招いてたり、変なイメージ持たれたりとかされてないだろうな!?」
『変なイメージ・・・?』
「何ていうかこう、妊娠しているんじゃないかとか!色々あるだろ!?察しろ!」

学校でそんな辞書広げてたら絶対誤解されるぞ!と御子柴は叫んだが、梅太郎はまあ多分大丈夫だろうと深く考えずにこの話を強制終了させる。
そして話を元に戻した後、御子柴は半ば諦めた声で自分の名前をそのまま使うように促したのだった。

何で私この話の次回予告書いたんだろう・・・と思いながら書いてみたら意外と想像が膨らんでビックリしてます。そしてまた長くなった。
主人公と氷室が不在という事実。多分次回も不在の予定。

20141103