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!戯言×進撃
!デフォルト名:哀川燐
!設定は此方


「っ・・・」

壁伝いに、覚束無い足取りで歩くのは二十代半ばの女性だった。
膝裏まで届く黒髪はボロボロになったネクタイで項部分で括られている。
砂埃でも被っていなければ百人が百人、緑の黒髪と称していただろう。
生きる事を諦めていない強い光を宿す瞳の色は黒曜石。
その瞳を縁取る睫毛も髪と同色の黒色。

下は髪や瞳と同色のパンツスーツ、黒い靴。上は白いワイシャツとループタイ、そして夜を切り裂いたかのような黒のロングコート。

彼女こそ知る人ぞ知る、《人類最怖の請負人》哀川燐。
二つ所では無い二つ名を沢山持つ彼女は今、瀕死に近い状態だった。
霞む視界と回らない思考、徐々に力が抜けていく身体に鞭を打つかの如く、燐は只管何かを目指すように歩いていた。

「は、っ・・・は、・・・次会ったら、今度・・・こ、そ潰す・・・」

とても重傷者とは思えない位不穏な言葉を燐は呟いた。

幾つか折られた歯、複雑骨折した左足と右腕、内臓を幾つかやられた燐は正直今すぐにでも意識を飛ばしてしまいたかった。
そもそも何故《人類最強》の妹であり自身も《人類最怖》と称される彼女が此処まで満身創痍になったのか。
理由は簡単、同属であり自身と姉の潤をも越える、人類において最終とも呼べる存在、想影真心との熾烈なる喧嘩を繰り広げた結果だった。

姉と同様成長過程の強さでも何とか生き延びる事には成功したものの、如何せん同属にやられたという事もあって治癒能力が遅い。
よってまともな手当ても出来ないまま彼女は医者の元へ自力で辿り着こうと足を動かしていたのだ。


「・・・やば、血が足りんな・・・というより、此処は、何処だ・・・」

ぐらぐらと揺れる頭を振り絞るが限界が来たらしい。
怪我らしい怪我を負ったのは久々だ。


そんな事を思いつつ、彼女の肢体は力無く倒れた。
幾つか裂傷も負っている為、其処から血が流れて彼女の白いワイシャツが赤く染まる。
彼女はそれに構わず、とりあえず体力を少しでも回復しようという思考に切り替え簡単に意識を手放した。




―――燐はこの時気付かなかった。

自身が表世界でも裏世界でもない、異世界に迷い込んだ事なんて。
東洋人がこの世界において希少種に近い事も。
赤色の姉とは違い、純血の東洋人の容姿を持つ燐は人身売買に携わっている者からにすると極上の存在である事さえも。

彼女の意識が手放してから十分後、一人の青年が通りかかった事も。


何も。何も、知らなかった。



  ◎



「・・・・・・」

燐が次に目を覚ましたのは古びた部屋だった。
僅かに薬の匂いがする、と自身の身体を見ると清潔な包帯で手当てを受けていた。
口腔内を舌でなぞるとどうやら抜歯もされているようだった。

「・・・」

麻酔位はしたと思う。でないと痛みや出血量やらで気付く筈だ。
燐は思わず微妙な顔をした。

まあ良いか。折られた手足も同属にやられたというだけで治らないわけではない。
それに歯なんてまたどうせすぐ生える。
だから『永久歯』というんだと"赤色"は言っていたけど多分そういう語源ではないと思う。まあ歯に関しては自分達が特殊だから、の一言で完結させておく。

・・・話が逸れた。
とりあえず結果オーライという事にしておこう。
元々医者に行こうとしていたのだから。

燐はそう思いつつ、ベッドから下りようとしたその瞬間。


「起きたか」
「・・・うん?」

夜色の瞳を声がした方向へ向けると、其処にはお世辞にも目つきが良いとは言えない青年が居た。
今ベッドに座っている燐だが横に並んだら絶対に燐の方が背が高いと断言出来た。
燐は女性ながら背が高い方だが、彼にも問題はあるのだ。
何せ現代日本人の平均も無いのだから。
だがあの笑顔が素敵な殺人鬼よりは高いのは確かだ。
目測160cm位だろうか?多分。多分ね。

・・・それはそうと何故、私はこの青年に穴が空くのではないかという位凝視されなければならないのだろうか。謎だ。
それとも私の顔に何か付いているとでも言うのか。

「・・・・・・お前、」

いつの間にか睨み合いになっていたらしい。
沈黙に耐えられなかったのかは不明だが、最初に口を開いたのは彼の方だった。
燐は貴重な情報源を逃してたまるかと思い至り、徐に声を出した。

「早速ですまないがいくつか質問したい。
此処は一体何処で、君は一体何処の誰で、手当てをしてくれたのは誰だ?」

意志の強い黒曜石の瞳を見て男は一つの仮説を確信した。

男は何を隠そう倒れた燐を一種の気紛れで医者の所まで連れてきた張本人だった。
青白い肌に騙されそうになったがもう見る事は無いだろうと思っていた"ある種族"の特徴に似ている事に気付いていた。
だが現状においてまさかと思い、その可能性を否定した。
否定した、のだが。目の前にいる女の瞳を見てその考えを更に否定した。

長い黒髪、黒曜石の瞳。
僅かに幼さが残るが、十二分に顔立ちは整っている。
・・・若干、否多少目つきが悪いのは置いておこう。
その特徴は全て、

―――絶滅危惧種とも言われる東洋人そのものだった。


「・・・お前、まさかとは思っていたが東洋人だな」
「質問に質問が返ってくるとは思わなかったな。
・・・ん?というか何だその質問は。私が東洋人なのは何処からどう見てもそうだろう」
「・・・・・・」

馬鹿正直に絶滅危惧種だと認めやがった。
この女、危機管理能力というものが欠如しているんじゃねえのか。

男、もといリヴァイは気が遠くなりそうだった。
もし自分が―――否、見たら一発で分かるがそれでもあっけらかんと肯定するとは。
マジな話でも否定位はするだろう。
ハーフだろうと純血だろうと東洋人の血を引いていたらすぐに分かる。
相手が俺だったから良いものの、ブローカーだったらどうするつもりだったのか。

「・・・お前の頭の中花畑か何かか?何馬鹿みてェに頷いてんだ」
「頷いたら何か問題があるの・・・・・・・・・ああ、成程。ふうん。"此処"は東洋人が珍しいのか」

胡乱気に彼を見た燐だったが、彼女の特技の一つである読心術を用いる事で納得した。

が。
今度は新たな疑問が幾つか浮上した。
何故東洋人が希少となっているのか。
一瞬思い浮かんだのは姉の"赤色"や裏世界の住人がとうとう武力を用いて日本を食い潰しに来たんじゃないだろうかと思ってしまった。
いやいやそんなまさか。
・・・否、でもあまり思い出したくないが父親の《人類最悪》は世界の終わりを見たがっていたしなあ・・・。
・・・。
・・・・・・。

駄目だ、一度変な思考になると切り替えが難しくなってきた。


燐がそう思考を稼働する中、彼は僅かに困惑の色を見せた。


・・・何だこの女。
ヘンな顔をしたと思ったら(それでも彼女の美貌は変わらなかった。何だコレが東洋の神秘というヤツか)納得したような表情を見せて、その次は頭を抱えるといった動作をして。
何というか落ち着きがねえな。

「あー・・・最初の問題に戻るが、此処は何処だ?
お前は一体何処の誰で、私を手当てしたのもまさかお前なのか?」
「・・・・・・お前、本当に何も知らねェのか?」
「気絶していたのだから当たり前だろう」
「チッ。・・・医者の所に連れてきたのは俺で、手当てしたのはその医者だ。
そして此処は―――」

告げられた土地の名前に燐は更に疑問符を飛ばす事になる。
そしてこの出逢いから数年後、彼が《人類最強》と称される事になるが彼女がそれに激怒するのもまた別の物語。


長くなったので一旦此処で切ります。
多分続かない。
だって完全に俺得だからね!

20140716