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「アンタ黒子っちの何々スか!?」
「・・・・・・はい?」
「ちょっと黒子っちより先に知り合ったからって、ちょっと黒子っちに気に入られているからって・・・・・・!」
「・・・あの、話に着いていけていないんですけど」

台詞だけ鑑みれば戸惑っているように聞こえるが実際は真白の表情は無。
小首を僅かに傾げているだけの動作。
内心ではどうでも良さ気にさえ感じられた。

「黒子っちは絶対絶対!渡さないっスからね!後オレは絶対に認めないんスから!」
「・・・はあ」

何でしょうか、この人。
というより認めてほしいなんて言った覚えなんて無いんだけど・・・あら。


「小っ恥ずかしい事言わないで下さい黄瀬君」
「ぐはっ」
「ふふ黒子君、先程ぶりです」

ドゴオッと掌底を横腹に見事喰らった・・・えっと黄瀬君?は苦悶の表情を浮かべている。
ざまーみろ、と言ってあげましょうか。
ああでもそんな事を言ったらまた黒子君に怒られちゃいますよネ。
それ位聞き流しても良いじゃない戯言なんですし。

「真白さん、黄瀬君に何か言われましたか?」
「いいえ?・・・そんな方よりも凄い掌底でしたね。
新しい技か何かですか?」

にこにこと綺麗な笑顔で尋ねる真白ははっきり言って色白美人という言葉がよく似合う。
しかし相手は滅多な事で動じない黒子。
更に幼馴染という点もあって彼女の笑顔は慣れている。

「はい加速するイグナイトパスです。
真白さんのアドバイスを元にした技なんですよ、改善点があればまた教えて頂けますか?」
「ふふ、気が向いたら教えてあげますね」

にこにこ。
彼女の笑顔は崩れない。

加速するイグナイトパス。

真白が原案だという事実を、この時黄瀬は聞く余裕すら無かったのは余談である。





此処で一つおさらいしておこう。
黒神真白の異常アブノーマルは『解析』である。
一度見ればその事象の詳細も利点も欠点も全て見通す事が出来るという非常に洞察力に優れた目を持つ。

だから分かるのだ。
加速するイグナイトパスの利点も欠点も。
今は気付いていないかもしれないが近い将来、その欠点を突き付けられるだろうという事実も。


(利点はパスの方向を変えるだけでなく、掌底で押し込んでその速度を急激に上げさせる事でパスルートを読むだけでは防げないという事。
欠点は結局のところ力技だからそのパスを取れる人間が限られるという事と受ける側にも負担がかかるから制限回数があるという事。
そして―――)


真白はいつも通り、昼休みを屋上で過ごしていた。
目元には勿論「はたらかない」と書かれたアイマスクを付けている。
前世ではどうかと思っていたデザインも今となっては愛着さえ湧いてくるのだから不思議なものである。

じゃり、

「・・・?」

「黒神起きているか?」
「・・・すーすーすー」
「・・・何寝たふりをしているのだよ黒神。
相変わらず何を考えているのか分からないなお前達は」
チッ
「舌打ちをやめるのだよ!!」
「・・・あら緑間君ですか。全く舌打ちをしただけでどうして黒子君といい怒られなくちゃいけないのでしょうか、解せないとはまさにこの事ですよ」

ふう、と溜息をつきながらアイマスクを取る真白。
そのマスクの下から覗く紅茶色の瞳は何の感情も映し出されていないように見える。
・・・幼馴染の黒子が見ればまた違ったのだろうか。

「それに何を考えている、だなんて。
私が何を考えているかなんて貴方には関係無いではありませんか。
・・・というより"お前達"、ですか。黒子君も入っているのですね」
「相変わらずだなお前は。・・・というより何なのだよこれは」
「はい?」
「この枕と掛け布団は何だと聞いている」
「緑間君の言った通り、ただの安眠枕と掛け布団ですよ。
まだ肌寒い季節ですので念の為掛け布団を持ってきているんです」
「・・・・・・いつもよく分からなかったが今なら黒子の気持ちが分かるのだよ」
「あらそれはおめでとう御座います。
一つレベルアップですね、スキルアップの項目はコミュニケーション、いえ親密度でしょうか?」
「何の話だ」
「ただの戯言ですヨ」

にこにこ。
黒子の無表情を標準装備とするなら真白の笑顔がそれに該当するだろう。
喜怒哀楽をあまり表さない彼女を深く知る人間はそういない。

「・・・それで何か用ですか?私に用事があって来たのでしょう?」
「黒子に頼まれた。どうせまた屋上で寝ているだろうから連れ戻してきてほしいと」
「・・・緑間君は変人として名高いですけど」
「おい」
「人が良いんですね、私の事など普通なら捨て置きそうなのに」
「勘違いするな。黒子には一つ借りがあるのだよ、そうでなければ断っていた」
「・・・はあ。そうですか」
「なんだその目は!」

真白が「仕方無い、そういう事にしておきましょう」と言外に言っていたのを緑間は正確に把握する。
次いで怒号したが彼女には全く効いていないようだった。

「黒子君もお節介というかお人好しというか・・・私なら大丈夫だというのに全く過保護なんだから」
「自分の限界を履き違えている奴の事等そう簡単に信じられる筈が無いのだよ」
「え?」
「本当に自分の事を理解しているならば貧血で倒れる前に申告していると思うがな」
「ああその事ですか。何て事ありませんよ、次はきっと大丈夫だと思って動いているのですから」
「それが大問題なのだよバカめ!
黒神、少しは自重しろ!!」
「そう言われましても具体的にどうすれば良いのでしょうネ?」
「お前は面倒臭がりなのか働きたがりなのかどっちなのだよ!」

屋上にて二人が不毛な会話を開始してから数分後。
前回同様、真白が顔面蒼白な状態で緑間の目の前で倒れる事態になり、その事が黒子の耳に入ったのは帰りのHRで、一目散で黒子が教室を飛び出す事になるのだがそれは別の話である。

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前回の作品第二弾。
今回は黄瀬と緑間で。
本命は勿論あの人だけど続くのかなこのシリーズ・・・。


20140527