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緑間は朝からヘンな物を目撃した。
数秒の間沈黙を貫きつつも、関わるべきか数瞬迷って―――。

ぱたん、と開けたドアを静かに閉めようとした。


「待てって真ちゃん!!」
「・・・・・・一体何なのだよ」

扉の前にはひどく悩んだ高尾の姿があった。



  ††



「・・・それでオレに何を聞いて欲しいのだよ」
「真ちゃんは雲雀さんの事何て呼んでたっけ?」
「?普通に千歳だが」
「・・・・・・だよなー」
「?」

緑間はわけの分からない問いに答えたが、高尾の気分は一向に晴れる気配は無い。
・・・本当にわけがわからない。

「いきなり男が女の子に名前で呼ぶのって傍から見たらどう思う!?」
「何とも思わないのだよ」
「・・・聞く相手ミスったわ」
どういう意味なのだよ。
・・・ああ、そう言えば中学の時だが逆はあったな」
「逆?」
「幼馴染の呼び方だが・・・女子(桃井)が男(青峰)に対して名前呼びだったのがある日を境に苗字にしていたのだよ」
「それ少女漫画とかでありがちの事だよな・・・つかそれ・・・」

幼馴染じゃねーけど似たようなシチュエーションだ・・・!

高尾はそう思うと再び頭を抱えた。
此処まで彼が悩む理由は彼女、雲雀千歳に対する呼び方だった。
事の発端は千歳からの友達宣言、次いで高尾の妹から「友達なのに苗字にさん付けなの?」という指摘を受けた事。
一度深く考え始めたら最後、高尾は深みに嵌っていったのだった。



そして緑間が事の次第を聞かされたのはそれから数分後の事。


「・・・千歳の呼び方だと?くだらん、普通に呼べば良いのだよ」
「うん真ちゃんならそう言うと思った」
「大体あの千歳がそんな事気にするとは思えないが」
「そんなの分かんねーじゃんかよ」
(アイツに効果覿面な事といえば精々弟の事か女子位だと思うがな)

緑間にとって雲雀千歳=百合系女子、もしくは不良になりきれない不良としか言いようが無い。
いかにトンファーで敵を滅多打ちにする最凶の女と騒がれていても幼少時代の彼女を見ている以上、緑間にとってそれが真実なのだから。


「・・・心配せずとも千歳が友人を欲していたのは事実だ。
だから呼び方なんて余程奇抜な物でなければ千歳は大概答えてくれるのだよ」
「・・・・・・真ちゃん」

一見すると良い事を言った緑間だが、高尾はそうとは受け止められなかった。

「・・・わり、雲雀さんの事をそんな風に語られると何か無性にバスケットボールを顔面にぶつけたくなるんだけど」
「ふざけるな、何故其処まで歪んだ感情を向けられなければいけないのだよ」

解せぬ。
高尾の相談に乗ったというのにこの理不尽さ。



「・・・ん?」
「どうした」
「いや、あれって・・・」

高尾が指し示した先は窓の外。
緑間もそれに倣うように視線を外に向けると其処には学ランを羽織り、リーゼントという髪型が特徴の不良達がいた。


『・・・・・・』


見るからに関わってはいけない集団の近くに、見慣れた後ろ姿があったのを二人は見逃さなかった。



  ††



「・・・草壁、これは一体何だい?」
「いえただ千歳さんはやはり流石恭さんの姉君だと感動して・・・!」
「は?」
「姐さん聞いて下さい、先程委員長の元に是非とも姐さんの傘下に下りたいと言ってきた輩がいまして、副委員長はそれに大層感動しているのです!」
「・・・言いたい事は山程あるけど、何その『姐さん』って。
私はそんな風に呼べなんて言った覚えはないよ。咬み殺されたいの?」
『姐さんになら本望です!!』
「・・・・・・」

一人と言わず半数以上の男達に言われてしまった千歳は只管絶句し何も言えなかった。

・・・恭弥、お姉ちゃんは貴方の部下に被虐趣味があるだなんて知らなかったんだけど。

「・・・というより、私はもう不良じゃない。
其処のところもう一度念押ししておいてくれる?」
「それは向こうも百も承知です。
最初は自分達も委員長の方かと思っていたんですが、彼等の話を聞いているとどうも姐さんの元子分だという話だそうで・・・」
「は?」

千歳の胡乱気な声が空に響く。
切れ長で黒曜石の双眸が何度か瞬いて、次の瞬間には渋い顔をして瞼を閉じていて。
・・・似ているようで似ていない双子の姉弟である。
不良でありながら風紀委員長という位置にいる男は草壁達が絶対的存在だ。
その彼が姉と接している時だけは優しいのだ、きっと姉の人格もきっとカリスマ性に溢れているに違いないと思っていたがそれは正しかったようだ。
転校しても子分が慕っているというのがその証。


「彼等か・・・じゃあ近々会うと言っておいて。
あまり群れていると恭弥がまた暴走するだろうし、この件は私に任せてくれる?」
「お願いします!」

軽く一礼した草壁と何人かの部下に千歳は颯爽と去る瞬間、軽く手を振って裏門から秀徳校舎に入ったのだった。



  ††



草壁達と別れた後、玄関付近にて千歳は徐に上履きに履き替えようとしたが突如背中にかかった声に一瞬身体が硬直する。

「千歳!」
「・・・真ちゃん?」
「さっき見慣れない他校の奴らがいただろう?お前、」
「大丈夫だよ何も無いしされてない。というより弟の部下だよ」
「部下?」
「風紀委員だよ」
「ふっ・・・!」

あっけらかんと放った千歳に吹き出すのを耐える緑間。
リーゼントで風紀!?

「・・・あれそういえば真ちゃん、一人?」
「は?何を言っているのだよ其処に高尾が、」
「高尾君?」
「てめえええ緑間!何一人で先行ってんだ!!」
「あ高尾君」
「って千歳ちゃん!?」
「え?」
「・・・あ゛」
「・・・」

高尾が自身への呼び方に気付いた千歳。
彼女が不意打ちも相俟って赤面したのと気恥ずかしさを感じて高尾も赤面になったのを緑間は見逃さなかった。
二人が正気に戻るまで後十分後の事である。


とりあえず後日談ネタ。
ホントは高尾が恋心を自覚する話とか書きたかったんですが其処まで書く余裕がなかったorz
これで本当にラスト。
此処までお読み頂き有難う御座いました!



20140406