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今日は厄日じゃないのか。

千歳は緑色の幼馴染を見てそう思った。
何故なら彼の第一声からにしてもう不幸をばらまいているようにしか聞こえなかったからだ。


「千歳、今日のお前の運勢は最下位なのだよ」
「一体全体何の話だ」
「ミドリマ!ミドリマ、オカシイ!」
「ほらヒバードもこう言ってるよ」
「黙れ」

眉間の皺がとんでもない事になっているのにも関わらず緑間は眼鏡をかけ直しながら千歳を見る。


・・・こうして見ると本当にただの女子高生なのだが、如何せん中身はただの不良になりきれないお人好しである。
後は精々最凶(最強/最恐でも可)の代名詞が付く風紀委員長の姉か。
・・・話がそれた。

「おは朝で牡牛座の人間は隠していた事実が浮き彫りになると言っていた。
・・・お前の過去に関してなんじゃないのか」
「止めてくれる!?フラグを立てないでよ真ちゃん!」
「千歳こそその呼び方を止めるのだよ!」


ちなみに此処は彼らの教室である。
最初こそ誰も気にしていなかったが、徐々に声を荒げる彼等に何事かとクラスメイトの視線が集まる事になるのだが二人はそれに気付かない。
緑間の相棒を自他共に認める高尾もその一人、遠巻きに二人を盗み見る。

・・・中学時代、"彼女"を知る人間としてはとてもじゃないが信じられない光景だ。
トンファーを自在に操り、不良達から畏怖と尊敬の念で見られていたのに。

あれが、本来の彼女・・・?


「ていうか具体的にどう防衛しろと!?」
「其処までオレは知らんのだよ!」
「話を振っておきながら何てオチだ!」



  ††



その日の放課後。
千歳は某マフィアの十代目をあるカフェに呼び出していた。


「・・・という事があったんだけど、どう思う沢田綱吉」
「どうと言われましても・・・ていうか俺の方が聞きたいです」

げんなりとした表情で千歳を見るのは気弱な印象を受ける茶髪の少年。
テーブルを挟んで向かい合う二人の関係は一言で言うなら元先輩と後輩だ。

「千歳さん、俺にどうしてほしいんですか」
「え?・・・とりあえず誰かに聞いて欲しかっただけ、かな」
「聞かないで下さい!
こんなところを見られたら色々誤解を招きかねませんよ!?
雲雀さんとか雲雀さんとかリボーンとか獄寺君とか雲雀さんとか!!」
「恭弥押しだね沢田綱吉。
・・・大丈夫だよ私と一緒にいるところを見られたからと言って恭弥が激怒するなんて事ある筈が無い」
「・・・・・・」

この人無自覚過ぎる・・・!!

あの恐怖の代名詞、雲雀恭弥の姉への接し方はどう考えても、どう見ても甘い。
知らぬは本人だけだなんて。

綱吉は頭を抱えたくなったがその気持ちをぐっと堪える。
代わりに苦い顔をしながら千歳と再び向かい合う。

「・・・えーっと・・・千歳さんは結局そのクラスメイトの人とどうしたいんですか?
仲直りをするにしても何をするにしても、二人の立ち位置とか気持ちを知らないと俺にはどうしようも無いというか」
「うん、ぶっちゃけ其処なんだよね」
「は?」
「きっかけはどうであれ私は元不良で番長で喧嘩が原因で転校せざるを得なかった。
そりゃ最初は理不尽さを感じていたけど今となってはどうでも良いとさえ思ってるよ。
でも彼は・・・高尾君はその事を知らない。私を見るあの顔は、後悔の色しかない。
・・・私は、その色を取り除かせる方法を知らない」
「・・・・・・千歳さん、」

今でも覚えている。
一年経っても、その一年の中で濃い日常を送っていたとしても、鮮明に。

『雲雀さ、』

止めてよ、何で君がそんな顔をするの?
"私"に、番長の雲雀千歳にそんな顔を向ける人間なんて私を慕う不良達だけなのに。
弟の恭弥位しか、そんな色を見せてくれなかったのに、どうして。

何が私を此処まで駆り立てる?
この言いようの無い心のざわめきの答えを、誰でも良いから教えて。


双子の弟と同じ質と色の黒髪が彼女の顔を隠す。
綱吉の角度からは彼女の顔は見えないが、何となく察せられた。


「・・・千歳さん、こんな俺のアドバイスなんてたかが知れてます。
ですが敢えて一つだけ言っておきます」
「・・・?」
「そもそも千歳さんってあまり悩む方じゃないと思うんですよ!
なので頭で考えるよりぶつかった方が早いというか、ほら当たって砕けろって言うじゃないですか!」
「・・・・・・」

何処か必死な様子で自分を見る綱吉の姿に千歳は一瞬呆気にとられる。
次いで何故か笑いがこみ上げてきた。
・・・ああ、本当に。

「・・・ふぅん。言うじゃないか沢田綱吉」
「ひい!?」
「確かに君の言う事にも一理ある。
・・・相談に乗ってくれたお礼だ沢田綱吉。
此処は私が払うからそれで貸し借りはチャラだよ」
「え!?」
「じゃあね」
「千歳さん!?」

恭弥とよく似たその顔(かんばせ)に薄らと不敵な微笑を浮かべたまま、千歳は颯爽とレシートを掴むと同時に立ち上がる。
ちなみに綱吉は唖然としたままだ。

「ちょ、流石にそれはアレですよ俺が払いますって!」
「私が誘ったんだ、普通だろう?」
「それでも、」

綱吉が千歳を説得しようと試みた瞬間、誰かの悲鳴により外が一気に騒がしくなった。


「おい誰か来てくれ、十人位の不良が秀徳高の生徒を襲っているぞー!!」

「え、」
「・・・」

綱吉はその悲鳴により気が逸れてしまった為見逃してしまった。
彼女の性格を知る者ならこの時、絶対に見逃してはいけなかったのだ。

彼女の鋭い双眸が、更に鋭くなった事に。
穏やかな色が消え、獰猛な肉食獣の如き冷たさに変わった事に。

彼女もまた、最強の代名詞を欲しいままにしていた不良の姉にして彼女自身もまた不良であった事に。

彼が気付いた時には、もう手遅れだった。

という訳でとうとうクライマックス。
それにしてもヒバタカでツナ君が出るとは思わなかった←行き当たりばったりにも程がある
感想等宜しくお願いします!


201402XX