その他 | ナノ

「・・・おい高尾、いい加減にするのだよ」
「ごめん真ちゃんこればっかりは無理!」
「・・・・・・」

無言で冷ややかに見る緑間に高尾は身を縮こませた。
しかし此処は譲れないのだ。


「千歳と何があったのだよお前は」
「・・・・・・」

貴方の幼馴染が転校せざるを得ない原因を作った張本人です。なんて口が裂けても言えない。言ったらただでは済むまい。
何だかんだ言って彼は幼馴染を大切にしているのを高尾は知っている。

高尾の中で例の彼女とクラスメイトの雲雀千歳と同一人物という確証を獲たわけではないが、脳内で警報が鳴っているのだから仕方が無い。
クラスメイトなので顔と名前は知られているだろうが、話した事は今のところ無いという時点で向こうも避けられていると気付いている筈だ。


「ごめん真ちゃん、心の準備がまだ出来ない」
「張り倒すぞ貴様」

緑間は己の幼馴染に対し此処まで拒否反応に近い症状を起こしている高尾に首を傾げた。
確かに中学時代は本人曰く暗黒時代と言うだけあって不良の道を爆走していたが性根の方は変な方向に曲がってはいるものの腐ってはいないと断言出来る。
見目もあの弟の姉なだけあって端正な方だ。
・・・あの女子大好き!な性格さえ表に出なければ男は簡単に騙せる、と思う。
ああ、だがやはりあの弟の正体を知ってしまったら相手の方が逃げるか。

「・・・千歳はかなり少し性格に難有りだが悪い奴じゃないのだよ」
「・・・・・・」

素直ではない緑間がなけなしのフォローを使う。
彼女の視界に入らないように努める高尾は沈黙を貫いた。
そして内心で呟く。

(そんな事知ってるっての)

証拠は無い。
でも確信している。
だって最初にオレと顔を合わせた時の、彼女の表情は。


『・・・・・・っ』


黒曜石の双眸を目一杯開かせて、薄い肩を震わせて。
その後に名前を真ちゃんから聞いて気付いた。
向こうは容姿を変えているけどオレは変えてない。
だから一方的に彼女は気付いたんだ。

沢山ある高校の中から再び重なった。
信じていないけどきっと神様は『忘れるな』と言っているのかもしれない。

だってオレは助けてくれた彼女に対して同じように助ける事が出来なかったんだから。



  ††



「・・・・・・あれ、」

短い黒髪、翻るスカート。
そんな女子生徒なんて沢山いる。
だけど後ろ姿と鷹の目から、それはオレが避けまくっている(多分向こうも避けている)雲雀千歳ちゃんだとすぐに分かった。

重たい荷物を幾つか持って運ぶ姿。
普通なら女の子に重たい荷物を持つものじゃないと思って手伝おうと思うけど、雲雀さんだという点において後ろめたさが先立って身体がまともに動いてくれない。

「・・・・・・っ」

だけどいつまでもこの状態で良いわけが無い。
そんなの男が廃る。

「っ雲雀さん!」
「・・・・・・高尾君?」
「えーっと・・・ほらそんなに沢山の荷物持ってんの辛いっしょ?
だから、その、手伝うよ!」
「・・・・・・へ?」

ぱちり。
黒曜石の双眸が何度か瞬き、動揺の色を表したのを高尾は見逃さなかった。
・・・気をしっかり持っておかないと泣きそうになる。

「・・・そういえば雲雀さんとはあまり話していなかったよな?
よく真ちゃん・・・緑間と話しているのは見た事があったけど」

何を言ってるのだろう。
あまり話をしなかったのはオレが彼女を避けていたのもあるのに、何を今更いけしゃあしゃあと。
精一杯の虚栄心。
ねえどうか気付かないで。

嘘、どうか気付いてほしい。
お前のせいだと、助けたのに何故助けてくれなかったのだと、どうか罵って。

「え、あ・・・そう、だっけ?
確かに真・・・緑間君とはよく話す、かな?
私、幼馴染だし!中学は違ったけど」
「それオレも緑間に聞いた!
アイツの小学生ってどんなの!?
めっちゃ気になるんだけど!」

雑談を交えながら、極自然に彼女から荷物を取る。
目的地は職員室らしいからそのままゆっくりと彼女のペースに合わせて足を動かす。

オレは人畜無害の笑顔を向けていたと思うけど、多分他の時と比べると精度は大分落ちていたと確信した。
結局この雑談は職員室に着くまで続ける事は出来た。
その間彼女は僅かに感じた、たどたどしい態度を変える事はなくて。


・・・気付かないままでいられる筈が無い、いつか絶対に終わりが来る。
その日が来るのがたまたま今日だった。
それだけの事。

オレはようやくこの日、彼女と"あの日"と向き合おうと決心したのだ。

続、高尾君side。後二話位で終わる、かな?
次は主人公sideに戻ります。・・・多分。多分ね?


201401XX