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「ヒバリ!ヒバリ!」
「・・・・・・」

千歳の黒髪の上に黄色い物体が乗っかっている。
彼女を知る人は恐らく百人中百人が顔を引き攣らせるのは確実だったが幸運な事に誰も気付いていないようだ。

「・・・五月蝿いよヒバード」

存在だけでも目立つというのに人語を解する事が出来ると知られたら確実に注目の的だ。
いやいや私は出来るならひっそりと高校生活を過ごしたいんだ。
喧嘩とは無縁の、普通に友人を作って青春を謳歌したい!
その為に恭弥の誘いを再三断ってきたのだ。
これで棒に振るような事をしたら流石に恭弥のトンファーが脳天にヒットするのは確実だろう。
・・・そうなったらこっちも仕込みトンファーで応戦するけど。

黄色い小鳥を頭上に乗せながら考える事は物騒だ。
此処等辺はやはり雲雀恭弥の姉にして番長と言われるだけはあると、かの某マフィアの十代目は呟くだろう。


「ヒバリ!ヒバリ!アッチ!」
「え?あ、ちょ、」

バサリ、と小さな翼を動かしながら空を翔けるヒバードは一点を目指していた。
千歳がその方向を見るとどうやら新入生をクラス別に分けた名簿が載っているようだった。

「・・・あの人混みを分けるのか・・・恭弥ならきっとモーセの如くクレーターの穴が出来るんだろうな・・・」

千歳は軽くぼやきながら回想する。
脳裏には中学時代のある出来事。


『千歳さん!俺達また同じクラスですよ!!』
『へえ・・・』
『職員室から一番遠くて玄関に一番近い教室っスから便利ですよねー!!』
(・・・それは単純に私達に関わりたくないだけじゃ・・・)



脳天気に笑う子分達を冷めた目で見ていた頃が懐かしい。
今思えば教師達もそれだけ問題を出来る限り起こしたくないという事だったのだろう。

千歳がつらつらと思い出していたのがいけなかった。
思い出に引き摺られたのか、あまりにも多い新入生達に口を開いて出てきた言葉は彼らの身を震わせるには充分過ぎる程だった。


「―――ねえ君達、用が済んだのなら早く退いてくれないかい?
全然見えないし、何より後がつかえているのが分からないの?」

僅かに首を傾げながら問う千歳に周囲の人間はざわつきながらも、彼女が漂わせる微弱な殺気に名簿が貼られた掲示板から一歩、二歩と離れた。

その光景に千歳は表情には出していないが内心は満足そうだった、と思われたが実は後悔と絶望感に打ちひしがれていた。


私の馬鹿やろおおおおおお!!
否私は野郎じゃないけど!違う其処じゃなくて!
あああああついヤンキー時代の癖が出てしまった・・・!
何やってんの私、これじゃあ恭弥にまた鼻で笑われるのは確実じゃないか・・・・・・!!
・・・・・・よし逃げよう。

そうと決まれば千歳の行動は早かった。
不良時代に培われた運動神経は健在で、その瞬発力により彼女は猛スピードで教室に向かって走り去る。

その一部始終を新入生は青褪めた顔で見詰めるのは当然の事だった。



  ††



「・・・勢いに任せて走ったのは、良かったけど・・・」

走り去るまでは良かった。
良かったのだが。
自分は新入生、当然教室までの道のりなんて知る筈が無い。
認めたくはないがこれは俗に言う、

「迷子か!!」

たまらず一人で絶叫する千歳の姿ははっきり言ってヘンとしか言い様がなかった。
十中八九、かつての子分が見たら目を剥くだろう。
因みに彼女の弟はまたかと呆れた目で向けてくるのだが其処は割愛。

「・・・ていうかヒバード何処に行った?
その前に何で恭弥の所に行かなかったんだろ・・・」

動物の考える事はよく分からない・・・とぼやきながらヒバードを探しつつ、千歳は来た道を逆走する。

逆走してから数分。
聞き覚えのありすぎる声が千歳の耳に入ってきた。


「みーどりたなーびくー」

「・・・・・・」

懐かしい並中の校歌。
記憶にあるものと若干音がズレているが間違いない。
あの黄色いヤキトリ・・・訂正、小鳥だ。

勝手に着いて来て何処かに行くなんて猫にでも食べられても知らないよと言いたいが相手が小鳥の時点で何を言っても無駄だろう。

千歳は深く溜息を吐きながら校舎を左に曲がると、―――やけに大きい緑色に遭遇した。


「・・・・・・」
「・・・小鳥が話すとは、珍しいのだよ。
お前は賢いのだな」
「・・・・・・」
「・・・む?お前は誰なのだよ」

・・・むしろお前が誰だあああああ!!
うちの小鳥に何をしようとしているのか答えろ下手な事をしたら口ではなんやかんや言いつつも可愛がっている恭弥のトンファーの餌食になるよ!?

千歳が本日何度目か分からない絶叫をあげるも、残念ながら緑色の彼は気付かなかった。

201311XX