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「千歳姉さん、ちょっと用事があるんだけ、」
「恭弥!丁度良いところに!!」
「・・・今度は何?」

双子の姉、雲雀千歳が並盛中学に転校する数日前。
彼女の弟の恭弥は姉に用事があった為、部屋に入った途端、姉の必死の頼みを聞かされ、大きな溜息を一つ吐く。

一応尋ねてみたが予想するのは簡単だ。
姉の前にある物を見れば百人中百人が同じ答えを口にするだろう。

「黒髪に戻したいから手伝って!」
「・・・だろうね」

普段は面倒臭がってやらないが、彼は基本的に何事も器用にこなす。

「それにしても千歳姉さんが転校するなんて思わなかったよ。
珍しいね、何かあったのかい?」

姉は今までも喧嘩はしていたが警察に捕まるなんてヘマはしなかった。
だからこそ何かあったのではないかと思ったわけだが。

「・・・別に。少し運が悪かっただけだよ」
「・・・・・・ふぅん。
ま、並盛にいたら警察に捕まるなんて事は無いし・・・最初からこうすれば良かった」
「・・・いつも思うんだけど恭弥の権力はどれ位の範囲に及ぶの?」
「僕に牛耳れない組織は無いよ」
(やだこの子怖い)


そんな会話をしてから終えるまで数時間経っていたが、その頃にはもう千歳の髪は本来の黒髪に戻っていた。
ついでに、と恭弥自らがショートヘアにした事で、恐らく誰も不良の雲雀千歳と判別出来ない位に様変わりをした。

「流石恭弥!
正直に言うと黒髪ショートヘアの私って違和感半端無いけど私がやってたら多分・・・否確実に斑になってただろうなー・・・恭弥は相変わらず器用だね!」
「姉さんが不器用なだけじゃないの」
「あははは、そうかもしれないね」
「・・・・・・・・・・・・。
ほら早く転校の準備をしてきなよ。でないといくら姉さんでも咬み殺す」
「(照れ隠しだな、この言い方だと)容赦無いね流石私の弟。
不良の姉にしてこの弟アリ、って奴かな」
「・・・・・・さあね。
どっちにしろ僕は姉さんと違って警察になんか捕まるヘマはしない」
「(グサッ)やっぱり容赦無い!」



そう叫んだ私はまた鏡の中の自分へと視線を落とす。
其処にはやはり先程見たのと変わらず、短髪の黒髪。
さっきも恭弥に言ったけど、今まで背中まである金髪だったから物凄い違和感を感じるのは仕方が無い。
・・・今の私は、弟の恭弥と同じ髪の色、髪質。

とにかく恭弥にこれ以上迷惑をかける訳にはいかないから今度こそ失敗しない。
もう二度と喧嘩をしない事を、

「恭弥に誓います」
「何馬鹿な事言ってるの」
「え?」
「声に出てる」
「・・・」

ホント手のかかる姉ですみません。

「千歳姉さんの事だから絶対に喧嘩しないなんて無理だよ」
「そっちか!」
「そっち以外何があるわけ?」
「恭弥の馬鹿!嘘大好き!」
「・・・・・・」



  ††



時は進んで晴れて高校生になった私。
学校は進学校と言われる秀徳高校。
またしてもセーラー服だけど別にそこはこだわらない。
ていうか膝より短いスカートに感動する・・・!


「・・・千歳姉さんは頭は良いのに馬鹿だね」
「恭弥それは馬鹿にしてるの!?ていうか良いじゃない憧れのスカート丈なんだよ!?」
「並盛の時も同じ位だったじゃない」
「あの時はブレザー!今セーラー服!」
「・・・・・・どうでも良いけど姉さん遅刻するよ」
「どうでも良くありません恭さん!」
「・・・・・・草壁」

くわっと瞳孔が開いているんじゃないかと思わせる位必死に訴えるのは(何故か雲雀家にいる)恭弥の数少ない理解者である草壁。
・・・良いな恭弥、私も理解者欲しい。

「千歳さんも恭さんの姉ならばそれ相応の服装を!
なので此方の制服を、」
「私は喧嘩しないって言ってるだろうが!ていうか何処から制服を調達した!?」

バキィッ

「・・・」

草壁の持つ制服は不良を連想させる位足首まであるロングスカート。
それを見た瞬間、隠し持っていたトンファーで見事草壁を沈める姉の手腕を傍観していた恭弥は静かに悟った。


喧嘩しないと言っておきながらトンファーを隠し持つというのは明らかに矛盾している。
姉にトンファーを渡したのは紛れもない自分だが、やはり先程の動きといい姉は戦闘力が高い。

・・・多分、否確実に姉が何の問題も起こさず、且つ一般生徒を装うのは無理だろう。

恭弥はそう思いつつも口にする事は無い。
代わりに姉と草壁のやり取りを静かに見るだけだ。

「ぐはっ、さ、流石恭さんが認めるだけの事はある・・・!」
「咬み殺すよ」

セーラー服に騙されそうになるが、彼の決め台詞や鋭い眼光が異様に似合っている。
恭弥を彷彿させるのは流石姉弟と言ったところか。


「って、ああああああ!
草壁さんを咬み殺し・・・げほんごほんシメ、でもない怒ってたからもう出ないと間に合わないじゃん!」
「バイクで送っていこうか」
「そんな事をしたら目立つ!
だから良い!でも気遣いは嬉しい有難う!行ってきます!!」
「いってらっしゃい」

ひらひらと軽く手を振る恭弥に慌ただしく出ていく千歳。
この場面だけ見ていたらあまり似ていないかもしれないが、基本的に千歳は家の中と外とで性格が変わる。

この場面を他人に見せたら恐らく友人もすぐ作れるだろう。
だけど姉に友人、ましてや恋人が出来たら多分平常心でいられないかもしれない。

恭弥はそう草壁に告げると返ってきたのは引き攣った顔だけだった。


「・・・もしかしなくても恭さん、シス、がふっ」
「咬み殺す」

何か余計な事を言おうとした草壁の口を即恭弥が強制的に閉じさせる。
結局この後、二人が雲雀家を出たのは数十分後だったという。
そして彼女が緑色の彼曰く"運命"の再会を果たすまで後―――。

第二話。
基本主人公はヤンキーの顔と普段の顔、二つの顔があります。
今回は後者寄り。


201310XX