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後悔先に立たずとはよく言ったものだ。
私の場合、それは―――。

『弱い癖に喧嘩売ってこないでよ、自分の力量も測れないのかい?』

他の人より少しお転婆だった私は俗に言う不良、もといヤンキーをしていました。
何がきっかけでそうなったのかもう覚えていないけど、兎に角私は昔で言うと番長と言われる地位にいた。
番長と呼ばれる存在があるなら勿論子分と呼ばれる者も存在する。

その子分達は性別関係無く慕ってくれているがそれはヤンキーのみ。
ヤンキー以外の人間、つまりは一般人には私はかなり恐れられている。・・・現在進行形なのが虚しい。

まあつまり。何が言いたいのかというと。


「千歳さん!今日も勝ちましたね!!」
「本当に負け知らずで、俺達の自慢の番長っス!!」
「・・・あー・・・うん・・・どうも・・・」

子分達は皆男だ。
女子は私だけで、賞賛の声も勿論男のみ。
・・・多くは望まないから友達が欲しい!!否本当に何でこうなった!?



  ††



私の通う学校は普通の学校だが他と比べると不良の数が少し多い。
・・・まあ原因はやっぱり私なんだろう。
一般生徒の方々並びに教師の皆さん、すみません。

長く伸ばされた髪は金色に染められており、制服のスカートも足首近くある。
何処からどう見ても不良だ。ヤンキー全開だ。
友達を作りたくて絡まれている所を逆に助けても、怯えられるし謝られるし良い事なんて一つも無い。
単純に外見を直したら良いじゃないかと思ったのだが子分達が「どうしたんですか!?」と必死な顔を見せるのでこの案は早々に却下された。

畜生私が一体何をした・・・否結構色んな事をしているけど!
でも友達というか理解者位欲しい!
普通というものに憧れる私は、所謂無い物ねだりなんだろう。
そんな事位分かっている。でも、私は。


『おはよー雲雀さん!』
『っお、はよ・・・』



中学に入学したての頃、まだヤンキーに染まりきっていなかった私に挨拶をしてくれた彼。

彼は私に無いものを沢山持っていた。
例えば接点があまり無くてもすぐに仲良くなってしまう位コミュニケーションが高いところ。
例えばムードメーカーだけど冷静沈着、思慮深い。
とても中学生とは思えない面が多い分、どうしようもなく憧れた。

でも今の私は不良で、彼は部活に受験と忙しい。
私も受験生だけどそれでも素行不良な時点で比べるまでもない。
教師も必要以上に一般生徒と接触させたくはないだろうし。

「・・・虚しい」

千歳が内心で落ち込んでいる最中、耳が捕らえたのは複数の野太い声。
・・・嫌な予感がする。

「一体何の騒ぎ・・・、え゛」

千歳の視界に飛び込んできたものは一般人が不良にカツアゲされているところだった。
しかも相手はつい先程まで考えていた人物―――高尾和成。
不良の方は制服を見る限り他校のもの。しかも複数。

「な、」

何で、どうして。

千歳が咄嗟に思ったのはその一言だった。

だって彼は人付き合いは得意だった筈だ。
だから不良に狙われるなんて思わなかった。

千歳の困惑は一瞬だった。
一瞬で困惑から冷静になり、そして―――。


「おい、肩ぶけけてくれた所為で骨が折れちゃったみたいなんだけどよ、」
「慰謝料払えよ、でねーと痛い目に遭わすぞコラァッ!」
「(ヤバイヤバイ、これ最大級にヤバイって!アレか俺終了のお知らせってヤツか!)・・・えっと、」
「早く払えっつってんだ、ぐはぁっ!!」
『!?』

ゴッ、と不吉極まりない音が彼らの耳に届いたのと、彼女の中の琴線が切れたのはほぼ同時だった。


「・・・喧嘩って一対一タイマンが基本だよね。
というより一人相手に複数って自慢にもならないよ。
・・・そう思わないかい?」
「お、おい!」
「こいつ、まさかあの雲雀千歳じゃ、」
「弱者は大人しく地べたを這い蹲ってなよ」

千歳の冷たく鋭い光を宿した双眸に息を呑む不良。
それが、彼等が最後に見たモノだった。



  ††



「・・・・・・」
「(やっちゃったーーー!!)・・・巻き込まれる前に帰った方が良いと思うけ、」

ど、と続く筈だった言葉は彼、高尾によって途切れてしまった。

「何言ってんの寧ろ巻き込んだのって俺の方だし!
てか女の子なのにすげーな色々!雲雀さんマジ喧嘩強っ!」
「・・・は?」
「あ、怪我とか無い!?大丈夫!?」
「否・・・怪我は無い、けど・・・」

うわぁあああ高尾君と会話している!何コレ夢か!と内心喜んでいたが実際の私の表情はテンパっているのが丸分かりだ。
しっかりしろ雲雀千歳!
きっかけが喧嘩にしてもこれは仲良くなるチャンスじゃ・・・!

千歳がそう思い、口を開いた瞬間。
又もや別の声が彼女の口を閉ざさせた。

「っおい其処で何をしている!」
「!うわ警察!?」
「・・・」


あれこれもしかしてピンチ?

踵を返して逃げたかったがそうは問屋が卸す筈も無く。
千歳はそのまま警察に連行され、最悪の事態を迎える事になった。



「ねー聞いたー?」
「あれでしょ、雲雀さん転校するでしょ?」
「え停学じゃなく?」
「退学って私聞いたよー」


「・・・・・・」


めでたく警察のお世話になり前科者となった私に告げられた言葉。
その内容に私は思わず笑いたくなった。
怒り狂った家族に包丁突きつけられ、絶縁宣言一歩手前の言葉を頂き、もう散々な目に遭ったのだ、これを笑わずにしてどうする。

「・・・人助けなんてするんじゃないな」

善意で動いたのに、恩を仇で返されるとはまさにこの事か。
・・・否多分違うな。
人間的に憧れた彼が此方側に来ないように、私が勝手に動いたんだ。
後悔はしていない。
これは断言出来る。でも別の事でなら後悔はしているのだろう。


だって、ほら。


『雲雀さ、』


中学校生活において最後に見た彼の表情は、今までに見たどの表情よりも暗く、歪んで見えたのはきっと気の所為じゃない。
そしてそんな顔をさせてしまったのは、彼の台詞からして多分私なのだろうな。



素行不良、番長。
悪い意味で有名だった私の言葉なんか誰も信じないのは当然。
だからこの処置もある意味当然。

もう少しだけ彼と話したかったな、と思うのは仕方無いと思う。
一方的に憧れていたけれど、それでも会話が出来て良かった。


叶うかどうかはわからないけど、次会う時があれば。
どうか普通の女の子として貴方に会えたら良い、と心の底から願う。
そうすれば、きっと素直に言えるから。


『初めて声をかけてくれた時から、ずっと憧れていました』


黒子の高尾夢(?)です。
名前変換機能をつけるとしたら苗字は固定で。
ご期待に応えてシリーズ決定です!応援宜しくお願いします(^^)


201309XX