Gift | ナノ
キラキラと輝くリビングでパソコンに向かう。
パソコンの隣に置いてある写真立てがふいに視界で輝いた。
幼きトキヤくんと幼き私の写真。
トキヤくんと出会ってもう10年になるんだ。

「お母さーん!お父さんが!」
『またー?』

ドタドタと寝室から走ってきた統也が座っている私の膝へよじ登る。
ぐずぐずと鼻をならす統也の頭を撫でれば抱きつかれてしまった。

「統也、また君はそうやって」
「だって、お父さんが怒るんだもん……!」
『もう、今度は何言われたの?』
「なんですか、その言い方。まるで私が悪いみたいな……」

20代後半な私たちは5年ほど前に結婚して1人の息子が出来た。
元気な4歳児。
保育園に通い始めたというのに甘えん坊で、私譲りの泣きっぷりをする。

「お母さんとちゅーしたいって言ったら怒った」
『は?』

ぎゅ、とさらに強く抱きつかれる。
そして顔が熱くなってしまう私。

「名前」
『ご、ごめん!そういうわけじゃ!』

息子といえど嫉妬する彼を怒らせたら私の快適な睡眠と明日の体調が危ない。

「ねえ、ちゅーしてー!」
『う……しょうがないなぁ』

でも可愛いわが子におねだりされて、しないわけにはいかないでしょ。
もうこうなったら私の健康を犠牲にするしかない。
統也と目線を合わせてちゅ、とおでこにキスを落とした。
満足そうに満面の笑みを浮かべる統也に心が温まる。
結婚当初では考えられなかったこんな平和で温かな日々を今送れているなんて。
すっかり大きくなった統也を抱き上げ、ソファーへと移った。
背中をさすってあげれば、頬をすり合わせくる。
もうすぐお昼寝の時間だ。
私に体をくっつけるようにトキヤくんも座った。

「まったく、やっかいな息子です」
『自分の息子なのに』
「だからこそですよ。他人だったら容赦しなくて済むのに」
『ちょ』

ちゅ、と頬にキスをされてしまう。
治まりかけていた顔にまた熱が集まった。
なんで妬いてるんですか……。
統也がいる前でもいつも通りの愛情表現をしてくるものだから、恥ずかしくて仕方ない。
貴重なオフの日がだから1分1秒無駄にしたくないというのは彼の建前だ。
私も"無名"から"苗字名前"としてデビューして忙しい日々を送っているのは確かで。
お互いにこうやってオフが重なる日は多いとは言えないから、私もその建前に甘えちゃったりしてるんだけど。
大半は家で出来る仕事だけど、インタビューやライブなんかは出かけなくちゃいけないから。
何も反応がなかったのが気に入らなかったのか、また頬へキスを落とされる。
統也は単なる愛情表現にしか思ってないみたいなのが唯一の救いだ。

「お母さん、顔赤いよ?トマトみたい!」
『こら!からかわないの!』

トキヤくん似の顔で笑顔を浮かべる姿はまるでHAYATOのようだと、ここ最近になって思うようになった。
10年経った今では、HAYATOも彼の持ちネタになっている。
バラエティでの受けがとてもいい。
そのおかげか、私がかつてHAYATOの姿でまた歌ってもらえるように作った曲もCDになった。
うとうと、とし始めた統也につい笑みがこぼれる。

『……名前、ハヤトにすればよかったかも。HAYATOの生まれ変わりみたい』
「それは困ります」
『どうして?』
「ただでさえ私がやるHAYATOにも嫉妬してしまうのに、統也がHAYATOの生まれ変わりだなんてこの子が大きくなった時に私の心がもちません」

嫉妬でおかしくなってしまうかも。
そう言って今度は首にかみつかれてしまった。
少し強めに吸われれば出来る時にしか出来ない印が浮かび上がる。
ひくりと体を震わせた私に彼は意地悪そうに小さく笑った。

「夜が楽しみですね」
『トキヤくんの変態……』
「おや、そんなこと言っていいんですか?」
『うっ、もう!ずるい!』
「ふふ」

すっかり大人びたトキヤくんの笑顔は幼き頃とは違うカッコよさがある。
ほんとに、ずるい。

「おかあ、さん……ん」
『ん? どうし――』


刹那。
私の唇が別の温かい唇にふさがれた。
これはトキヤさんじゃない。
もっと柔らか――。

「統也!!」
「わっ、!」

トキヤくんの怒鳴り声に意識が戻る。
膝の上にいたはずの統也は私を盾にしてトキヤくんから身を守っていた。
トキヤくんはと言えば、眉間に深い深いしわをよせて顔をゆがませている。
というか、あの。
これはマズイ。
ぱちり、と視線が合った。

「……名前、今晩は付き合ってもらいます」
『えっ嘘!やだ!
私明日レコーディングしなくちゃいけないのに!』
「では統也を渡しなさい。
じっくりじっくり説教します。
あれほど口へのキスはダメだと云いつけておいたのに」
『いつの間にそんな躾してたんですか……!』

ちらり、と統也に視線を送れば瞳を潤ませて上目づかいで私を見ていた。
こ、この子わかってやってるのか……!
それでも可愛く見えてしまうのは息子故なんだろう。
この子が将来女の子を侍らせる某御曹司みたいになるんじゃないかと少しだけ心配になった。

「名前、どっちにするんです?」
『あ、や……その』
「お父さん怖いよ、お母さぁん……!」

トキヤくんがオフの日はどうしてこう波乱が訪れるんだろう!?


  ラブ×ラブ=波乱

結局そのあと、統也はこってり怒られ夜は私もこってりお仕置きされてしまった。
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門名葵様から頂きました、葵様の長編主人公の番外編第三弾です!
企画に参加させて頂いた上に当サイトにupする許可して下さり、本当に有難う御座いますw
未来ネタを書いて頂けるなんてとても幸せです(*^^*)
ずっとにまにまと読ませて頂きましたw

20130608