Gift | ナノ
!『花雪』×『雪空』
!毛探偵パロ
!七星様サイト連載コラボ小説


「・・・大丈夫?」
「ぅうっ・・・ノイズで頭が痛いっ・・・」
「色んな音が交ざってて余計に吐き気が・・・うっ」

こてり、と無表情で首を傾げた成人女性―――平和島名前。
その視線の先には頭を抱え、顔色がお世辞にも宜しいとは言えない少女、昴。
そして隣には机に突っ伏しているトキヤの姿が。


この二人、見た目こそただの人間だが実は国家機密とも言える警察の切り札―――元秘密警察犬。
秘密警察犬としての能力は二人共聴覚系、心の声が聴こえるというもの。
なので人ごみというのは二人にとって天敵にも等しく、現に今もこうしてダウン寸前である。

では何故二人が此処に―――池袋にいるのか。
それは少し時間を遡る。



  ♂♀



「トキヤー暇だね」
「私はこの本を読んでいるので全く暇ではありません」
「へえ・・・その割にはさっきから全然ページが進んでいないように見えるけど?」
「っ!」

思わぬ反撃を受けたトキヤは紺碧色の双眸を瞠らせた。
・・・まさか気付かれていたとは思わなかった。

「心配だよね、名前さん売れっ子だからいつも帰りが遅いし・・・美人だから変な人に絡まれてなきゃ良いけど」
「・・・」
「・・・トキヤ、顔!顔が怖いから!
美形が台無し!抑えて抑えて!」
「貴女の所為でしょう!?」

心の声が否応なしに聴こえる二人にとって平和島名前は数少ない安らぎの場所だった。
口数が少なく落ち着きがあり優しい。
そして最大の理由は心の声が聴こえないという点だ。

お互いの能力は同じだった為か反発しての事なのかよく分からないが昴とトキヤは互いの声は聴こえない。
だがそれ以外の人物で聴こえないなんて事は初めてだった。
だから最初は凄く驚いた。

最初は驚愕、その次に警戒を彼女に抱いた。
心の声が聴こえるなんて能力は警察内部にも煙たがれていたし、実際にコントロールが出来ないこの能力を疎んだけれど実際に能力が通じないなんて事実を目の当たりにした時、浮かんだ感情が自分でも信じられなかった。

嗚呼、自分は知らない内にこの能力に頼っていたのだ、と。


「・・・昴?どうかしましたか?」
「っ・・・え?何にも無いよ?
トキヤの気の所為じゃない?」


警察に嫌気がさした私とトキヤは諸々の過程を経て今の居場所を手に入れた訳だけど。
いやはや、人生(人狼生?)って何が起こるか分からない。
今一番注目を浴びているモデル兼女優、本名平和島名前の元にいるのだから元相棒の彼等だって想像出来ないだろう。
出来たら凄い。表彰ものだ。


「・・・そうですか?」
「そうそう。
あ、あートキヤ、確か名前さん今日は早く終わるって言ってたし迎えに行かない?
きっと喜ぶよ」
「・・・そ、うですね。
では支度しますので少し待って下さい」
「じゃあ十分後にリビング集合で!」
「分かりました」


・・・トキヤはやっぱり名前さんの事意識しているのだろう。
そりゃそうか、トキヤも年頃だし名前さんは見目も良いし欠点なんて無い・・・否あまり感情を表に出さないという欠点があったか。


そんな事をぼんやりと考えながら昴は出掛ける準備をするのだった。



  ♂♀



「えーと今日の撮影場所はこの近くって聞いてたんだけど・・・」
「・・・彼処ではないのですか?」
「え?」


トキヤが指差す方向に人だかりが。

・・・確かに彼処で間違いなさそうだ。


トキヤと昴は徐にその場所に足を向ける。
その視界の先に入ったのは希少価値の高い笑顔を浮かべた彼女の姿。


「―――っ!」
「・・・うわあ、」


「 ――― 、 大好き!」


・・・あ、ヤバイ。

昴が視線を斜め上に向ける。
其処には悲愴な顔をしたトキヤの表情が映ったのはやはりというか、案の定だった。


「と、・・・トキヤ?」
「少し、離れます」


ヤバイ。
本日二度目の台詞が脳内にて再生された。


「・・・」
「・・・」


そして沢山の声にあてられたのもあって二人はダウン。
体力が回復するまで暫く机の上に突っ伏そうかと思っていた矢先に名前が現れたのだ。

「・・・大丈夫?」
「名前・・・」
「・・・」
「もしかして二人共、迎えに来てくれたの?」

こてりと首を傾げながら尋ねる名前。
とても先程まで笑顔を振りまいていた人物と同一人物に見えない。

「そうだよ。名前さんお疲れ様」
「・・・有難う。
二人共、外は苦手なのに・・・」
「はは・・・これ位大丈夫だよ」
「トキヤ君・・・?」
「トキヤも大丈夫!
少ししたら回復するから!」
「・・・なら良いけど」
「・・・」

先程から一言も声を出していないトキヤに昴は内心戦々恐々としていたがそれを気取られないように平常心を保ちながら会話を続けた。

「そ、それより今日の撮影って」
「・・・・・・恋愛モノ。
私の役は主人公の幼馴染」
「へ、へーそうなんだ・・・」

「・・・・・・」
「・・・・・・」
(何か言いなよトキヤ!)

数秒の沈黙。
たった数秒である筈なのにいやに長く感じたのは恐らくこの空気の所為だ、と八つ当たりしかけた時口を開いたのは名前だった。

「・・・最後の台詞、」
「え?」
「・・・?」
「最後の台詞・・・大好き、ていう言葉は本当は台本になかったんだ。
だけどさっき二人が其処にいるって気付いて、・・・次の瞬間には自然に出てきた」


・・・・・・・・・・・・え?

昴がも一度と確認した瞬間、沈黙を保っていたトキヤが頭痛倦怠感等全て吹っ飛び、がばりと上半身を起こした。

「私が思っているよりも二人はとっくに大切な人になってたんだね、今気付いた」

その時の名前の表情は今まで見たモノより一番穏やかな笑顔を浮かべていて。
そんな笑顔を直視してしまった私とトキヤが氷のように固まってしまったのは別のお話。

  元秘密警察犬と女優の奇妙な共同生活    

相互記念という事で七星様に捧げます!
何のパロかまでは敢えて言わなかったのですが、はい見ての通り毛探偵パロです(笑
私の妄想でトキヤは声フェチだろうと思っていたのですがどうも公式ではまさかの耳フェチという・・・orz
細かい事は気にしないで下さると有難いです!(汗
『雪空』主人公は七星様が既にネタとしてupされていたので恐れながら其方から起用させて頂きました。

大変遅くなってすみませんでした!これから宜しくお願いします!

20130508