!『花片』Aif話
もう夏休みが終わるな、と思った名前はぼんやりとカレンダーを見る。
次いで徐に体を動かすと明日提出する宿題等を準備する。
「・・・・・・・・・」
・・・・・・・・・あれ。
名前は暫く提出する物が記載された用紙を眺め、脳内で記憶を遡らせた。
「・・・・・・・・・」
宿題は全部終わらせた。
そう思っていたのだが、・・・・・・。
名前はリストにある課題の数とこなした数が違っている事に気付くと同時に、嘗て無い位早いスピードで手を付けていなかった課題に取り掛かったのだった。
♂♀
(・・・・・・・・・・・・お、終わらない・・・・・・!)
こんな失敗を未だ嘗てした事があっただろうか。
否、無い。
第二の人生を歩んでる為、精神はある程度育っていたし、黒歴史と言う物は特に無かったが此処にきてこんな失敗をするとは・・・・・・!
(えーと此処は・・・)
課題を忘れていた訳じゃなかった。
ただ存在を忘れていた。
これで課題が終わっていないなんて明日言ったらどうなるんだろうか。
(・・・・・・想像したくないな・・・・・・)
微妙に遠い目をしつつも名前は手を休めない。
手を休めてる暇なんて無いのだ。
PiPiPi
「・・・・・・・・・・・・」
誰だこの忙しい時に!と内心八つ当たり気味に着信を告げる携帯を横目で見る。
携帯のディスプレイには見慣れた名前が映し出されていて。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
名前は心中が荒れているとは思わせない手付きで着信ボタンを静かに押し、携帯を耳に押し当てた。
Pi
「はい」
「名前さん、突然すみません。
今、―――」
「ごめんね、トキヤ君。
ちょっと手が離せないからまた今度で良いかな?」
「え?」
「用事があるんだ」
明日が期限の大事な課題をね!早急に片付けなきゃいけないんだ!
折角電話してくれたのに申し訳無いが背に腹はかえられない。
「・・・・・・用事、ですか。
因みにどんな用事か聞いても宜しいですか?」
「(・・・・・・えーと)春歌さんと、」
「七海君なら先程お会いしましたが」
「・・・・・・・・・・・・」
しまった短絡的に考えすぎたか。
ルームメイトの春歌は現在、外出中だ。
行き先は聞かなかった為此処で其れが仇となるとは。
「・・・私には言えない事、なのでしょうか」
例えトキヤ君だと言いたくないから!
何が悲しくて「夏休み最終日にもなってやり残した課題に気付いたから今其れを必死で片付けてる」なんて間抜けすぎる事を言わなきゃいけないんだ!
「・・・ごめ、」
「まさか浮気ですか?」
「・・・・・・・・・は?」
謝ろうとした瞬間、トキヤが予想の斜め上をいった言葉が返ってきた為思わず名前は言葉にならない声を出してしまった。
名前は脳内にて消化出来なかった言葉を反復する。
(浮気・・・浮気?)
恋人に浮気疑惑をかけられた彼女の反応はただ一つ。
そんな暇があったら私はこんな思いをしていない!!
「名前さ、」
「・・・・・・・・・今、部屋に居るから」
「?」
「手伝って」
「・・・・・・・・・・・・・・・は?」
こうなったら道連れだ。
名前は自暴自棄の気分でトキヤを巻き込む事にした。
♂♀
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・課題・・・・・・・・・?」
一時は浮気かと疑ったトキヤだったが女子寮にある彼女の部屋に着いた瞬間、半ば引き摺りこまれた部屋の中を見れば其処には一つの課題が。
トキヤは思いも寄らぬ事態に一瞬眉を顰めるが、彼女の簡単な説明に納得した。
つまり先程の彼女の「手伝って」という言葉は、そういう意味だったのだ。
「もう少し早く確認しておくべきです、なのにギリギリにするからこんな事になるのです」
「・・・・・・・・・・・・反省してる」
「まぁ今更そんな事をいっても仕方無いですし・・・あ、此処の答えですが意味は逆です」
「・・・・・・ぇ、」
元々成績優秀者のトキヤである。
名前も成績優秀者の一人であるがあくまでも其れは実技、一般的教科の場合であって専門教科の場合は其れが逆転する。
つまり現在、トキヤが加わる事で一人のときよりも捗っているのは気の所為ではない。
「・・・・・・・・・そういえば、」
「はい?」
「トキヤ君、何か用があって電話したんじゃないの?」
「・・・ああ・・・まぁ他愛も無いことです。
気にしなくて大丈夫ですよ。・・・此処のスペルが間違っています」
「・・・本当だ」
話に気をとられていた所為か、凡ミスを犯してしまった。
名前は年上なのに・・・!と軽く落ち込んだ。
しかし傍から見ても無表情なのでトキヤは気付かない。
「・・・・・・・・・・・・」
「トキヤ君、此処は・・・」
「ああ、其処ですか。
此処は応用なので・・・」
トキヤは隣りに座る彼女に分かりやすく説明し終えると、自身と同様日焼けを知らない白い肌を視界に入れる。
「・・・・・・・・・・・・」
真剣に課題に取り組んでいる姿にトキヤは心にほんの少し寂しさにも似た感情が宿る。
其れと同時に悪戯心も生まれ、殆ど本能に従って漆黒の髪から覗く白い耳に唇を寄せ、軽く舐めた。
「・・・・・・ぁっ、」
「ふふ・・・良い反応ですね、」
ビクリ、と突然の刺激に華奢な肩が震えるのを視界に入れ、トキヤは唇を耳から首筋へと移動させる。
「・・・・・・っ」
「声、我慢しているんですか?
私は貴女の声を聞きたいのですが・・・」
「・・・・・・ゃ、」
華奢な身体を後ろから閉じ込めたトキヤは緩やかに、だけど確実に名前を侵蝕していって。
ビクビクとトキヤの吐息に、声音に、体温に反応する彼女の頬は僅かにだが朱色に染まっていくのが分かる。
―――残りの課題は後10ページ。
トキヤは後で確実に怒られる事を想定しながらも手を休める事はなかった。
彼と彼女の夏休み
門名葵様に捧げます!
大変お待たせしました!
リクエスト内容はお相手:トキヤ/甘
夏休みの宿題に追われているところを手伝ってくれる、という事だったので『花片』Averにしてみましたが・・・甘いのだろうか・・・。
そして此方の固定主人公で良かったのか甚だ疑問ですが、こんなんで宜しければ貰ってやって下さい(汗
返品可ですので、何かあれば遠慮無くどうぞ!書き直させて頂きますので!
20120901