Gift | ナノ
まただ。

「っ、この程度のことで泣かないでください」
『すみま、せん……!』

今回の涙メーターみたいなもんはあんまりたまらなかったのか、名前は涙目で鼻をすんすんと鳴らすだけだ。
最低でも1日1回は泣く名前に最初はクラスのやつらも冷たい視線を送っていた。
だけど今はそんな光景も日常になっちまったみたいで苦笑するだけ。

「トキヤは嫌じゃねーのかな」
「むしろ嬉しかったりしてね」
「おわ!?レン、おま……いきなり隣にくんな!」

俺がそう怒鳴ってもレンは涼しい顔をしてトキヤたちの姿をみている。
くっそー!ぜってーなめられてる……!

「相変わらずイッチーは彼女に夢中だな」

意味深な空気を出しながらレンは口を開く。
夢中って、別にそんなようには見えないだろ。
好き同士っていう雰囲気もないし。
そんな俺に気がついたのか、レンは面白そうに笑みを浮かべた。

「おチビちゃんにはまだわからないかな?」
「ばっ!うるせー!」
「怖い怖い」
「た、確かにトキヤは入学当初に比べたらすっげー丸くなった。
けどそれは名前とパートナーになったのと関係あるのか?」

「……さあね」

「おい!!」

もう一度問い詰めても白を切るレンに自然と大きなため息が出た。
再び2人へ視線を戻せば、机をくっつけ譜面に向き合っている。
……どう見たってパートナーだろ。

「それにしても、トキヤならすぐにパートナー解除求めるかと思ってたのに……結局ずっと名前だよな」
「俺もそれは思ってたさ。イッチーてば冷たいし……」
「いや、それは違うんじゃないか……」

そりゃあレンに対しては冷たくなるだろ、男だし。
なんて言ったって卒業オーディションではライバルになるんだし。
名前の音楽は確かにいい曲ばっかだけど、とても素晴らしい才能溢れるものとは感じられないのが正直な感想だったりする。
どっちかっていうと素朴で俺にでも作れそう、と思えてしまう。
……作れねえけど。
歌っているところは聞いたことないが、見た目も声も至って普通だ。
むしろアイドルコースの女子から比べれば劣ってる。
性格だって明るいどころか泣き虫だし卑屈なタイプに近い。
そんな名前のどこにトキヤは惹かれたんだろうか。

「俺には普通の女の子にしか見えねーけどなぁ」

でも2人の姿はただの慣れ合いには見えない。
むしろ強い絆みたいなものを感じる。

「2人とも、自分たちの音楽を求めてるだけじゃないのか?」
「最初はそうだったんだろうけどね」
「はっきり言えよ」
「今はそれだけじゃないってことさ。まあ、一方通行だけど」
「はっきり言ってねえよ!」

遠まわしな言い方すんな!
くそ、意味わかんねえ。
トキヤもレンの言ってることも!
俺が唸っていると、レンは澄ました顔で口を開いた。

「おチビちゃんは一度、彼女が曲を作っているところを見てみればいい」
「は?」
「その姿はとっても輝いてみえるだろうから」
「そこに惹かれたっつーのか?」
「そういえば試しに歌っている時もあるね。
運がよければ見ることができるかもしれないよ」
「質問に答えろよ!」

じゃあね、と優雅に取り巻きの中へ戻っていく姿は苛立たしいほど絵になってる。
俺だってあれくらい身長があれば……!

「ん、トキヤ帰るのか?」
「ええ。今日はこの間ひいた風邪の診察がありますから」
「そっか。気をつけろよ」
「ありがとうございます」

そう言ってトキヤは教室から出て行った。
ちらり、と名前の方へ視線を向ければ寂しそうな表情をしている。
そんな名前の姿を見てるだけなんてできるはずなく、俺は彼女のもとへ足を進めた。

「そんな顔すんなって」
『うっ……すみません』
「い、いや、謝られても困るんだけどよ……」
『あ、その……ごめんなさい』
「……」
『……』

こういう時、トキヤだったらなんて言うんだ。
名前で呼び合う仲のはずなのに会話が弾んだことは正直言って一度たりともない。
呼び合うって言っても俺の名前は呼ばれたことないけど。
……もしかして嫌われてんのか?
それはそれで……結構傷つくな……。

『あ、あの』
「ん?」

名前に視線を向ければとても罰が悪そうな顔をしていた。

『私……あんまり上手に話せなくて、その……!』

お、おい。
やばくないか?
声めっちゃ震えてないか?

『だから、会話が弾まないのも私のせ、いで』
「ああああわかった!落ち着け!そんなことない!お前のせいじゃない!」

涙をこらえながら話す名前を必死に落ち着かせる。
それでもぽろぽろと涙をこぼし始めた名前に俺は叫びたい気持ちになった。
なったけど我慢した。
叫んだらぜってー男じゃねーからな。
助けを求めるようにレンへ視線を向ければあいつは面白そうな笑みを浮かべているだけだった。
トキヤもいないのにどうしろっつーんだよ!

  crybaby girl

名前の魅力を文化祭で思い知らされるなんて
このときはそんなこと考えられなかった。
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門名葵様から頂きました、葵様の長編主人公の番外編第二弾です!
企画に参加させて頂いた上に当サイトにupする許可して下さり、本当に有難う御座いました!

20120824