Gift | ナノ
『うーんっと、にんじんと牛乳と』
「ジャガイモにお肉、そしてクリームシチューのルーですね」
『うん!』

いつもなら学園で音楽を作っている時間。
教室で曲を作っていた私たちだったけど、目の前に突然現れたシャイニングさんに買い物を頼まれた。
「シチューが食べたいデース!」
そう言い残して彼は姿を消したのだ。
貴重な時間がなくなるということで嫌がっていたトキヤ。
でも、せっかくのお出かけだし、シャイニングさんのお願いだし……。
結局私は半ば無理矢理、トキヤを付き添わせることにした。

「名前、にんじんはこっちの方が色合いがいいですよ」
『ほんとだ。じゃあトキヤのやつにしようっと』

私は自分が手に取ったにんじんを元の場所へ戻し、トキヤが指差したにんじんをカゴの中へ入れる。
たかが普通のお使いなのに、こういうやりとりがなんだか嬉しい。
単純すぎる自身に心中で苦笑した。
食材が揃い牛乳とルーをいれると、結構重たくなってきた買い物かご。

「持ちましょうか?」

そう言われたけど、無理矢理付き添わせてるわけだし、迷惑もかけたくなかったから『大丈夫」とだけ答えておいた。
そんな私をわかっているのかトキヤは大きな溜息をこぼす。

「まったく、どうして甘えようとしないんです?」
『あ……』
「こういうことは男の私にやらせればいいんですよ」

私の手から買い物かごを取ったトキヤはさっさとレジへ向かい会計を済ませていた。
気遣いは嬉しいけど、複雑な気持ちになる。
……やっぱり無理矢理連れてきたのがいけなかったのかな。
不機嫌そうな表情がちらほらあったし……。

「何をしてるんです?帰りますよ」
『あ、うん』
急いでトキヤの元へ駆け寄り、私たちはスーパーをあとにした。



無言のまま帰路に着く。
なんだかんだ言ってトキヤに荷物を持たせちゃってる。
わがままを言った私が持つべきなのに……。
声をかけようと隣を歩くトキヤを横目で見れば、話しかけるなとでもいいたげなオーラを出していた。
そんなオーラを知らんフリして私は口を開く。

『トキヤ!』
「はい?」
『わ、私が持つよ。その……荷物』

ちらりと視線をトキヤの顔へ向ければ、目を丸くしていた。
しかしその顔はすぐにいつもの目つきへと変わる。
失敗した、かも……。

『や、やっぱりなんでも――』
「荷物を持たせるわけにはいきません。ですが――」

ふいに手を差し伸べられる。
その手とトキヤを交互に見ていると彼は小さく笑いながら口を開いた。

「私の手を持っていただけませんか?」
『え……』
「荷物の重さが半分になって軽くなるかもしれません」

そんなことあるわけないのに。
それでもトキヤのその優しさが嬉しくて、私は彼の手をとった。
私よりも綺麗な手が握り返してくれる。
自然に頬の筋肉が緩んだ。

『トキヤ、今日は無理矢理連れ出しちゃってごめんね』

さっきからずっと言いたかった台詞を口にする。

「無理矢理なわけないでしょう」
『でも、ずっと不機嫌だったじゃない』
「あれは――」

言葉を濁すトキヤに目線を送れば、彼はそっぽを向いてしまった。
しばらく無言のまま歩き続けていると学園の校門前まで到着する。
私たちはお互い同時に手を離した。
……寂しいけど、仕方ない。

「落ち着けなかったんです」
『え?』

だから、その。
とまだ言葉を濁すトキヤをじっと見つめていると、何かを諦めたのか小さくため息をつき口を開いた。

「まるで夫婦のような会話、行動に落ち着くことができなかった……それだけですよ」

心に何かが込み上げてきた気がした。
いつものトキヤにはない初々しい台詞が私の心をくすぐる。
なんだかそれが嬉しくて、歩いている大きな背中に抱きついた。
案の定、驚きの声が返ってくる。
それがまた嬉しくて、さらに強く抱きしめれば頭を軽く叩かれてしまった。


  You make me happy
何気ない日常にあなたがいる。
それだけで幸せなんです。
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門名葵様から頂きました、葵様の長編主人公の番外編です。
企画に参加させて頂いた上に当サイトにupする許可して下さり、本当に有難う御座いました!

20120824