Gift | ナノ
!黛成り代わり
!『虹色』主人公出演



何時もの厳しい練習、何時もの日常。
今日も何時もと変わらない毎日が過ぎると思っていたけどその日、私は珍しく不思議な夢を見た。


何処にいるかも分からない。
周りを見渡しても暗闇で右も左も分からない。
如何したものかと考えつつ再度見渡すと一匹の蝶々がひらひらと飛んでいた。
蝶々は私の周りを飛ぶとまた離れてひらひら飛んで行った。

私は無意識に蝶々を追い掛けた。
追い掛けないといけない、追い掛ければ誰かに会えるかもしれないと思えた。
何の根拠もないのにどうしてだ?

走っていてもやはり何もない。
ひたすら蝶々を追い掛けていたら目の前に人影が見えた。
蝶々はその人影・・・セーラー服に黄色のヘッドバンド、艶やかな黒髪にセーラー服を身に纏った容姿端麗な私と同世代の少女の指に止まった。

「ふぅん。まさか此処でヒトに会えるなんて思わなかったよ」

止まった蝶々を指先で撫でながら蝶々を追い掛けた私を見た。
まるで私が此処に来るのを分かっていたかのように見透かした目で微笑を浮かべた。

「まずは自己紹介といこうじゃないか。僕は安心院つゆり。
ただの平等なだけな人外だよ」

色々引っ掛かる言葉を覚えるも気にしないほうがいいと判断し、私も自分の名前を名乗ろうと口を開いた。

『・・・黛名前。苗字でも名前でもアンタの好きに呼べばいい。
アンタのことは何て呼べばいい?』
「呼ばれ方を聞くなんて変わっているね。
なら、僕のことは親しみを込めて安心院さんと呼びなさい」
『分かった。安心院さん、だな』
「うん。コッチの黛君・・・いや黛さんと云うべきかな。君は賢明だね」

安心院さんはうんうんと頷いているがその中で引っ掛かった語彙があった。
コッチの黛君?

『おい。"コッチの黛君"って何なんだ?まるで私が二人いるように聞こえる』
「ちょっと違う」
『は?』
「僕が知っているのは僕のいる世界の黛君だよ。
僕の知る限り、黛名前という人物は初めて会うんだ」

思考が停止するがフル回転させて安心院さんの言ったことを整理する。安心院さんにとって私は初めて会うけど別の黛君とやらを知っている?

『・・・つまりアンタの生きている世界では私は存在しない。
その代わりに"黛千尋"って奴がいる。
私はその"黛千尋"と似ているけど似ていない異質な存在ってヤツか?』
「そういうことになるね」

私が導き出した答えを平然と肯定した。
別の世界にも私と似たような奴が生きているなんてラノベみたいな展開だ。

「あまり驚かないんだ。取り乱すかと思ったぜ」
『何か、世界って存外狭いんだなってしか思えない』
「そう!まさにその通り!君と同じように似ているけど似ていない世間体で超人気な女優に男子に混じって活躍する女子テニス選手や萩原君以外に双子の幼馴染がいる黒子君、世間の注目を避けて黄瀬君の双子と偽る従兄妹とか・・・同じだけど違う世界が数え切れない程ある!」

私の言葉に安心院さんは興奮したようにペラペラと演説者のように語り始めた。
キセキの名前が挙がったが、その世界のキセキやそれを取り巻く人間に興味が湧いた。

「よし!友好の記に黛さんに君の大好きな異世界を見せてあげよう!」
『待て。異世界の人間に会うのは不味いんじゃないのか?』

安心院さんの言葉に思わず固まる。
異世界を見せる?ラノベにあるような展開に目を瞬かせたがそれはあくまでフィクションの世界だ。
現実ではあり得ないことをしようというのは今までにない経験だ(むしろあった方が怖いかもしれない)

「僕と君が会っても何にも問題は起きてないぜ?」
『夢の中だから問題ないんじゃないのか?』

短いやり取りから彼女に何を言っても無駄だと思って早々に諦め、私は安心院さんに手を引かれて異世界旅行とやらに付き合った。




「いやー。異世界観光ツアーは中々愉快だったねぇ」
『アンタにとってみれば、だろ。私からしてみれば疲れるしどの世界にいってもキセキとその相棒には軽く殺意が芽生えたぜ』
「うんうん」

安心院さんに連れられて異世界観光ツアー(命名:安心院さん)に付き合わされたが疲れてしまい、現在休憩中だ。
ツアー内で色々な世界の赤司達を見てきた(中には性別が女の世界もあって驚いてしまった)が根本的な性質は嫌になるほど似ている。

『・・・何か思い出したらムカついてきた。
戻ったらハリセンで全員の頭を容赦なく殴り飛ばしてやる』
「わっははははは、げらげらげらげら。よし、名前ちゃんの"願い"を出血大サービスで叶えてあげよう!」
『え』
「ハリセンは君なりの譲歩だろ?
本当は急所に飛び蹴りをお見舞いして顔を思いっ切り踏みつけて転がしたいんじゃない?」

小声でぼやいていたのに何故か安心院さんに聞こえていたのか、大笑いをしながら私の願いを叶えようという爆弾発言を投下した(しかも平然としている!)
一瞬、呆気にとられたがすぐに正気に戻り安心院さんに説得を試みる。

『流石に後者は止めてくれ。ハリセンでいいから』
「いいの?日頃の恨みを晴らせるぜ」
『そこまで恨んではない』

数分間?ほど安心院さんとの口論が続いた結果、キセキと相棒の頭をハリセンで殴打するということになった。

「はい。殴るならコレを使うといいよ」
『・・・何だコレは』

安心院さんが私に手渡したのは普通とは言い難いデカいサイズのハリセンだった。画用紙を買って自分で作るからいいと言おうとしたら・・・。

「さて、そろそろ時間だ」
『え?』
「またね。名前」

安心院さんが笑うと何処からか風が吹いた。
反射的に腕を上げ、目を瞑る。
ふと風が止んで目を開けた時は見慣れた自分の部屋だった。
あれは夢だったのかと思って視線を下に向けたが・・・。

『夢じゃ、ない』

安心院さんと会って過ごしたほんの僅かな時間は夢かと思ったが、枕元に夢の中で貰った大きめのハリセンと夢の中で追い掛けた蝶々が柄になったハンカチがあった。
どうやら安心院さんと出会ったのは夢ではないらしい。

『・・・また会えるといいな』

ラノベか漫画のようなシチュエーションで出会った自らを人でないと豪語する彼女。
また会えるとしたら夢の中だろう。

私にとって今日は何時もと変わらない日常、安心院さんがいる世界では非日常。何だか羨ましいような恐ろしいような・・・。

頭を振って考えていたことを忘れるかのように首を軽く振って、私はベッドから抜け出した。でも問題が一つ出来てしまった。

『このハリセンどうしよう・・・』

キセキや相棒を殴り飛ばしたいとは言ったものの、実際にやるのは少し躊躇う。
暫く微妙なことで悩むハメになったのは内緒だ。

  狭間の非日常に挨拶を
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素敵で無敵な安心院さん成り代わり主が出るとは思わなかったので嬉しかったです(*^^*)
最初に聞いていたネタに二つ返事しましたがこう来るとは思わなかったので・・・w
七星様ありがとうございました!

20140806