Gift | ナノ
!七星様サイト連載『音楽少女』



昔々ある所に商人を生業とする父親の火神という男と三人の息子娘が仲良く暮らしていました。
家事が万能な父親、影が薄い長女、我が道を突き進む次女、そしてお菓子が嫁と言い切りそうな位食欲旺盛な三女の四人家族です。
ちなみに母親は?という質問に関しては聞かないでくれ。
原作でも其処のところは触れられていないからね・・・・おや、誰か来たようだ。

「赤司っち!?」
「うるさい駄犬、僕の言う事は・・・?」
「ぜったーい・・・」←玉砕


・・・さて話が逸れてしまったね。
閑話休題、話を戻そう。

父親の火神の特技、バスケで数々の大会に出ては優勝賞金を稼いでくる事で生計を立てていました。
日がな練習して、大会の日には日が暮れるまで体を動かし、その果てに優勝をかっ攫って家族が待つ家へと帰る。
これが四人家族の日常というものでした。

だがしかし。
転機はいつも突然に起こるもの。


ある日の事、火神はいつも通り大会に出る事が決まりました。
その大会の場所は隣町で、隣りと言っても少々遠くなかなか行く事がなかった所。
丁度良い機会なので三人の息子娘達に何か土産でも買おうと決めた火神は三人に何が欲しいのか尋ねました。


「うし、黒子緑間紫原!何か欲しいものはあるか?」
「バニラシェイクをお願いします」
「それ位オレが作ってやるよ」


一刀両断した火神と長女の黒子。
通常運転で安心したよ。
ばっさり切り捨てた黒子の次に答えたのは次女。

「大会翌日のラッキーアイテム、アイアンメイデンを頼む」
「これ以上物を増やすなよいい加減に捨てろって前も言っただろーがお前の部屋物が溢れ返ってるしつかおは朝マジ鬼畜だよな」
「黙れ」


アイアンメイデンなんて隣町どころか何処にも売っていないだろうね。
というより使い道が全くもって理解出来ない。
拷問するのかい真太郎。

おっと、そうしている内に三女が答えるようだ。


「オレねーお菓子の家が欲しいなー」
「エンゲル係数が爆発するわ。
後蟻がバカみてーに出てくるから却下だ」

「えーケチー」
「というかその単語出した時点で別の御伽噺にな、もがっ」
「黒子止めろ口をとじろ」
「もがもが」

・・・うん何度も言っているけど全員ちゃんと役名で話そうか。
、と言いたいところだがこの面子でそれは難しそうだな。
それは前の作品で既に実証済だし。
ああ後、最大の突っ込みは火神がエンゲル係数という単語を知っていたんだな、という事か。

「オイ表に出ろ赤司」
「もう出てるさ、何言っているんだこのバカガミ」
「諦めて下さい火神君、赤司君に何を言っても馬の耳に念仏、蚯蚓に説教する位意味がありませんよ」
「テツヤ後で校舎裏」
「えっ」



個性溢れる性格な三姉妹の答えに頭痛がする思いでしたがそれでも火神は出来る範囲内でと妥協に妥協を重ねて大会に足を運んだのでした。






大会の当日、火神が属するチーム・セイリンは見事なもので観客から声援を受けつつ、これまでと同様優勝に終わりました。
火神が会場を出たのは太陽が若干傾きかけた頃で、早く娘達への土産を買って家路につかなければたちまち夜になってしまうのは誰の目から見ても分かる事。
まずは大通りにあるそこそこ大きな店にてバニラシェイクの材料を買い、次に緑間の望みであったアイアンメイデン(ただし掌サイズ)を買いました。
此処まで順調だったのですが三女、紫原の欲しがっていた『お菓子の家』はどのお店を覗いても売ってはいませんでした。
・・・まあ予想はしていたけれどね。
結局火神は町にある全ての洋菓子店を回りましたが敦の望む物を見付けられず、仕方無く家路につきました。

「あークソ!こうなったらオレが設計図立ててそれに合う材料を買って作った方が手っ取り早いんじゃねェか・・・!?」

大会にて半分以上の体力を使った火神の身体は疲労困憊も良いところ。
むしろその身体にムチを打ってまで街のあちこちを駆けずり回ったその体力に感服するよ。
いやそれより真太郎のアイアンメイデンがあった事に驚きだけど。

「もう少し時間があるし・・・もうちょい探してみるか」

ぶつぶつと呟きながら火神はあちこちに視線を向けながら目当ての物を探す事三十分。
方向感覚や自分が何処から来て何処に向かっているのか。
そんな事を考えずに歩いていたら、いつの間にか火神は深い森に入ってしまったらしく、道に迷ってしまっていました。


「げっ・・・マジ、かよ」


きょろきょろと辺りを見回しても周囲は不気味に立つ木々ばかり。
明らかに何かが出てきそうな雰囲気が漂う森の中、完全に怖じけている火神の後ろでガサガサと何かが動く音が聞こえました。
体を震わせゆっくりと後ろへ振り返った火神の目に映ったのは黒い何かの影。

・・・短い尾。ぴん、と立った二つの三角巾。荒い息遣い。

此処まで状況を把握した火神は瞬時にある動物が脳裏に過ぎった。
その考えを裏付けるかのようにソレは小さく鳴いた。

「わんっ」
「うああああああああああっッ出たああアあああッ!」


「かーがみっち遅かった、ええええ早ッ!?」


涼太が何かを言いかけるも火神は何と言うか、聞く耳を持たなかった。
いや持てなかったと言うべきか。
まあお疲れ涼太、これで出番は終わりだよ。

「赤司っちーー!?」


さて涼太の事は一先ず置いておいてだな。
火神は涼太を犬と勘違いし暴走した所為で更に森の奥まで入り込んでしまった。
おかげで火神が冷静さを取り戻した頃には完全に迷子というヤツに成り果ててしまった。
勿論左右と背後に見えるのは先程より不気味に見える木々だけ。

「やべ、・・・つか出口はどっちだ?伊月先輩、むしろこの際高尾でも良いから来いよ下さい」

色々言葉に誤りがあるけどそれだけ火神の中に動揺が残っているからという事にしておこう。
鷲の目、それと鷹の目の持ち主に助けを請うのは間違いではないからね。


あちこちに視線を向けた火神だけど此処で小さな灯りに気付いたらしい。
こんな森の奥に灯りがあるなんて不審極まりないけどそれでも火神は出口の手がかりの為に近付く事に決めたのか慎重に歩く。
やがてその灯りはそれなりに大きい城から放たれている事に気付いた。

城に近付いても周囲にはやはり人一人いません。
人ではなく代わりに火神の目に飛び込んできたのは城の近くに立つ離れ。
普通の離れなら火神も気にも止めなかっただろうが、その離れは探しに探しまくったお菓子の家だった。
案の定火神の目が点に・・・なったようだね。

「・・・おおおおお!これで紫原の逆鱗に触れなくてすむぜ!」

・・・・・・。
切り替えが早いね。
まあ確かに敦の食欲、特に菓子類の執念というか執着は凄まじいの一言に尽きる。
その反応は正しい。
幾つもある菓子の家、これだけあるのだから一つ位、それこそ一部だけでも貰っていっても構わないだろうと思った火神が菓子の家の一部を取った時。


「―――ああ駄目だよ、私のものを無断で盗るなんてさ」



がさり、と庭の茂みを掻き分けて現れたのは紺色の髪を風に靡かせた少女。
紺色の長髪、紺色の双眸。
女子にしては高めの身長だが一番特異な点は彼女が纏う、圧倒的なナニカ。
雰囲気が明らかに常人とは違うのが明らかでした。


「しかもそれは作るのに一番時間がかかった物だ」
「え゛そうなのか!?」
「本当」
「わ、悪い・・・」
「謝ったら良い問題じゃないんだよね実は。
・・・・・・責任、取って貰おうか」
「っま待てこれには深いワケが!」
「・・・?」

かくかくしかじか。
火神は動揺のあまり話さなくても良い事まで語り尽くしました。
家族の事は好きだが娘達の自由さにバスケットボールをぶつけたくなる等。
まあそんな事をしたらテツヤからはイグナイト、紫原が捻り潰しその時間差攻撃でラストに緑間のシュート攻撃が入るだろう事が簡単に予測出来る。
僕?僕とテツヤ達を一緒にしないでくれるかい?
この僕に粗相をしようものなら僕の×××が黙ってはいないよ(ニコリ)


「(ゾッ)」
「?どうかした?」
「・・・いや今さっき悪寒が・・・」
「え?」
「やっぱ何でもねえ」
「・・・まあ理由は分かったけど、やっぱり許すわけにはいかないんだよね物語の都合上
「おいお前、最後の台詞、」
「(無視)そうだね、此処で一つ提案をしよう。
そのお菓子の家をねだった三女を此処に連れてきて」
「はあ!?」

苦笑を浮かべながらそう言い放った少女に声を荒げるも一蹴された火神。
代わりに必ず連れてくるようにと告げられるだけでなく、更にトドメを刺すかの如く、少女は敦を連れてこなければ火神一家全員の命は無いと思え、とまで告げ姿を消してしまったのです。

それら一連の出来事に許容範囲の限界値を超えたのか、火神は困惑一色の心を抱え一目散にその場から立ち去りました。
迷子だった筈の火神でしたが野生の勘が働いたらしく、正しく出口までの道を走り今度こそ家にたどり着きました。


「おおおおっ!!」

バンッ

「おやお帰りなさい火神君」
「五月蝿いのだよバカガミ、もっと静かに帰宅出来んのか」
「ねーお土産はー・・・?」

役職上とはいえ家族に全くもって敬われていない火神の耳には自分の荒い息遣いしか聞こえていない模様。

「そういえばそうですね、火神君バニラシェイクは何処ですか?」
「アイアンメイデンは何処だ見当たらんが」
「お菓子ぃー・・・」
「・・・・・・てめえらもっとオレを労われ!
つか第二声でそれかあああああ!」
「・・・・・・火神君、人間って欲望に忠実な生き物なんですよ」
「自分で言うな!!」

テツヤの哀れみが混じった視線と声に火神の怒りが爆発。
顔面に叩き付けるかの如く火神は怒りのまま本日の戦利品を力の限りぶちかましたのでした。

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長くなるので一旦切ります。

20140606