Gift | ナノ
!『雪空』×『恋々』
!七星様サイト連載コラボ小説
!『雪空』主人公デフォルト名:紺野昴



何時もの休日、何もないのでのんびり過ごそうと名前は思っていたら携帯が鳴った。
相手が黄瀬かと思って電話に出たけど違ったようだ。

『名前ちゃん。私だけど…』
「昴ちゃん?」

電話の相手はブレイク確実と言われているシャイニング事務所所属アイドルの紺野昴だ。
一年前、黄瀬の紹介で会って以来、友達というポジションに落ち着いている。そんな彼女が自分に何の用だろうかと思っていた。

『ちょっと相談したいことがあって…。今から会えないかな?』

昴が相談したいというなんて珍しいことだ。
何があったのか気になるし、友達として相談に乗ってあげたいと思った。

「いいよ。昴ちゃんの相談に乗るね」
『!有難う』

了承の返事を出すと昴は待ち合わせ場所を教えて電話を切った。
友達を待たせるのはよくないと結論を出し、名前は急いで出掛ける支度をして家を出た。


待ち合わせのカフェの前には私服姿の昴が待っていた。
とはいえ、アイドルとバレたら不味いので帽子や眼鏡で変装をしている。
店に入って注文した飲み物をトレイに乗せ、名前がテーブルに運び、空いている席に座ったら早速昴が話題を切り出した。

「最近敦君が素っ気なくて…」
「え?」

昴曰く、最近恋人の紫原の様子が素っ気なくなったのが気になるらしい。
何時もは五月蠅いくらいラブコールをしてくるのにパッタリ途絶えてしまったとか。
しかも電話に出ても冷たく返されてしまい、昴は益々不安になっていた。

「何か気になって仕方がないし、どうしたらいいか考えて…」
「確かに紫原君は昴ちゃんにご執心だもんね」

他人に執着しない紫原が誰にも渡さない、将来自分のお嫁さんにするなんて公言している紫原が突然素っ気なくなるのは少し気になる。

「浮気とかじゃ、ないよね…」

涙ぐんだ昴の言葉に名前は言葉を失った。
名前はアイドルで紫原は一般人。
当然二人が会える時間は限られてくる。
加えてシャイニング事務所は恋愛禁止という鉄則がある。
昴と紫原は学生時代から特例で付き合っているが、別れたなんて知られたらどうなるかは目に見えて分かる。

哀しそうな表情を浮かべる昴を見て名前はある考えが思い付いた。

「昴ちゃん。私に任せて」
「え?」

名前の言葉に昴はきょとんとしていたが、名前は口元を吊り上げて誰かに電話を掛けていた。

「もしもし涼太君」

相手は名前の恋人、黄瀬であった。
どうして黄瀬に連絡を取るのか昴は首を傾げたが名前は構わず続けた。

『名前っち!どうしたんスか?オレに何か…』
「今日は海常高校と陽泉高校の練習試合だよね?」
『そうっスけど…』

陽泉と海常高校の練習試合が何の関係があるのかと昴は思っていたが口には出さずに黙っていた。

「紫原君をストリートバスケットが開かれた公園に連れて来て欲しいの」
『えっ…?!』

名前は紫原本人に話を聞いた方が手っ取り早いと考えたらしい。
それを察した昴は目を見開いて驚いた。

『えええっ!ちょ、名前っち!!それって…』
「誤解しないでよ!!昴ちゃんが目の前にいるから!
詳しい事情はメールでするから今はお願い!!」
「…分かったっス」

腑に落ちない黄瀬の返答に満足した名前は電話を切った。

「じゃあ行こうか!」
「…うん」

名前の意味深な言葉に昴は頷くしかなかった。




名前との約束通り、事情を知った黄瀬は紫原をストリートバスケットが開かれた公園に連れだした。
昴は思い切って紫原に態度が素っ気なくなった理由をぶつけた。

「オレね、嫉妬して欲しかったの」
「…嫉妬?」
「名前ちんは俺に好きとかあんま言わないじゃん。だからオレが本当に好きか試したくなって…」

紫原は昴に嫉妬して欲しくて素っ気ない態度を取っていたことを素直に白状した。
素直に答えたことよりも昴は知らない間に紫原を不安にさせていたことにショックを受け、眉尻を下げた。

「オレには名前ちんだけだから、ね」
「ごめんね、敦君…」

涙ぐんでいる名前を紫原は優しく抱き締めた。

「好き、大好き…。敦君が好きだよ…」
「オレは愛してるよ」

ほろほろ涙を流している昴の頬に紫原は唇を落として涙を舐め取り、昴も紫原の背中に腕を回した。

二人の様子をこっそり見ていた黄瀬は大きな溜息を吐き、名前はホッとしていた。

「はーっ…紫っちも罪な男っスねぇ。昴っちの気持ちを確かめたいからって…」
「でもこれで昴ちゃんの不安もなくなったよ」
「"これ"で終わればいいんスけどね…」

紫原の態度が変わった理由が分かったものの、"終わり良ければすべて良し"というワケではないらしい。




昴の杞憂が晴れた翌日、黄瀬の元を訪れた名前が見たのは何時になく慌ただしい様子で誰かに電話を掛けていた黄瀬だった。

「紫っち!アンタ昴っちに何したんスか!?」
「何って…。別に黄瀬ちんには関係ねーじゃん」

どうやら相手は紫原だ。
名前は黄瀬に紫原が昴に嫉妬して欲しいから素っ気ない態度を取っていた時の行動を詳しく教えていなかったことを思い出した。

「ああもう!俺はどうなっても知らないっスからね!!」
「は、どういう…」

黄瀬の意味深な言葉を遮るように電話の向こうでは何やら騒ぎ声が聞こえてきた。

『不味い…!アツシ逃げろ!!』
『ちょ、俺達は関係ないだろ!?』
『般若と夜叉が近付いて来るアルぅぅぅ!!』


『紫原テメェェェェ!よくも名前を泣かせやがったなぁぁぁ!』
『何となくでも人の気持ちを試すようなことはしちゃ駄目だよ!!』
『名前ちゃんの悲しみを思い知って下さい!!』
『紫原貴様ぁ!今度こそ貴様の性根を叩き直してやる!!』
『絶対逃がしませんから覚悟しなさい!!』
『先輩達も後輩の手綱くらいは握った方がいいぜ』

『『『ぎゃぁぁぁぁああぁぁぁ!!』』』

地獄の底から舞い上がったかのような翔達の声と陽泉バスケ部の断末魔のような叫び声が聞こえてきたと思ったら電話が強制的に切られた。

名前は何があったのかを黄瀬に聞けば紫原のしたことが翔達の耳に入ったらしく"性懲りもなく昴を泣かせやがって!!"と一致団結して紫原の襲撃計画を立てたらしい。

「来栖っち達の昴っちの過保護ぶりが最早父親レベルっス…」

青褪めた黄瀬の言葉に名前はどう返せばいいか迷っていた。

一つだけ名前と黄瀬が分かったのは紫原と巻き込まれた陽泉バスケ部メンバーの冥福を祈るしかなかったことだ。

  紺色歌姫の杞憂
------------------------
前サイトと纏めると丁度二周年になる為、そのお祝いとして頂きました!
本当に本当に嬉しくて胸が一杯です御馳走様でした!
これからも宜しくお願いします(*^^*)

20140307