過去企画 | ナノ

「『あ!』『いたいた!』『はっなみっやくーん!』」
「はい?」

妙に芝居がかった声に内心では眉を顰めながら、だが決してそれを表に出さずに振り返った花宮。

それが原点。彼等との最初の交わり。
今も後悔するのは彼等と―――彼と彼女の事など知らなければ良かった、ただそれだけ。



  △▼△



「『あっれー?』『どうしたの花宮君!』『眉間にすっごい皺が寄ってるよ!』」
「・・・アンタが原因に決まってんだろバァカ」
「『酷い!』『イジメだよ仮にも先輩なのに!』『酷いなこれは安心院さんに言いつけないと!』」
「はあ!?」

とても傷付いたようには見えない球磨川の口ぶりに花宮が反射的に声を荒らげた。

安心院さん。
本名は安心院つゆり、霧崎第一高バスケ部マネージャー。
ただし幽霊部員。
そして目の前にいる、妙に括弧付けた口調で話す不気味な男もまた幽霊部員であるが男子バスケ部。
しかも見た目もそうだが身体的にもとても体育会系には見えない。
お世辞にも言えない。

本性を見せずにさり気なく言ったら笑顔で「僕もそう思うよ!」と発言した事に凍り付いたのは記憶に新しい。

「・・・何でお前がバスケ部にいるのか本気で分かんねーんだけど」
「『えー?』『そんなの決まってるじゃない!』『安心院さんが入れって言ったからさ!』」
「嘘だろ」
「『酷い!』『何で花宮君は僕の言葉を返す時、いつも嘘って言うかなー?』」
「ふはっ、『大嘘憑きオールフィクション』を持ってるお前に言われたくねーな」
「『む!』『でも確かに花宮君の言う通り嘘だけどねー』『安心院さんはあまりそういう事言わないし・・・』」
「へえ」

安心院つゆりの事は単純に嫌いだ。
初めて会ったその時にはもうこの裏の性格に気付かれていた。

漆黒の髪の下にある剣呑な光を宿した双眸。
何もかも見透かしたような、この世界の謎を全て解き明かしたようなあの双眸に一瞬でも飲み込まれそうになったなんて、認めてやらない。

「・・・球磨川は今日もサボるんだろ?だったらさっさと、」
「『え?』『あー流石に今日は行くよ』『安心院さんにそろそろ怒られちゃうからね!』」

一応言っておくと花宮と球磨川は現在体育館に向かっている。
勿論花宮は動きやすいように着替えを済ませているが球磨川は(霧崎はブレザーなのにも関わらず)何故か学ランのまま。
だから花宮は今日も球磨川がサボるのだと思っていたのだが。

「・・・お前、あの女第一主義者か・・・」
「『えー?』『だって安心院さんは僕の初恋の人だし!』」
「っな、」
「『なーんて!』『ウソウソ!』『初恋じゃないけど、』『僕の好きな人だよ』」

球磨川禊と安心院つゆり。
この二人は時期外れにして同じ日に転校してきた。

花宮は理由は違うがこの二人を嫌っていたが二人は意に介していないようだった。
現に目の前の彼はけらけらと笑っている。
そしてもう一人の転校生は―――。



  △▼△



「―――おや、君が此処に来るとは珍しいね花宮君」
「・・・ふはっ、お前がそれを言うかよ幽霊マネージャー」

艶やかな黒髪、赤いヘッドバンド。
両手首に赤いリストバンド、手にはバインダー。
そして身に纏うのは此方も霧崎第一指定の制服ではなくセーラー服だ。

・・・転校生というのはどいつもこいつも制服無視が当たり前なのか。
しかもこの女も先程まで一緒にいた球磨川も中学時代は生徒会に入っていたという。
その話を聞いた時は笑えない冗談だと思ったのはオレだけじゃ無い筈。


「僕だって色々用事があるのさ。
それはそうと球磨川君と仲が良いようで安心したよ、安心院さんだけに」
「あ?あれと仲良くなんて有り得ねえだろバァカ」
「違ったのかい?『悪童』と過負荷、案外存外良い組み合わせだと思ったんだが・・・ふむ、やはり『プラス』と『マイナス』は相容れないという事かな」

何度も言おう。
オレはこの女が嫌いだ。
オレよりも優れた頭脳、何十手先も見据えた采配。
まるで未来を予言するかのように彼女は容易く、望みの未来を得る。

出来ない事なんて無いのだと、言わしめるかのように。


「まー僕に言わせてみれば君達の仲が良くても悪くてもどうでも良いんだけどねー」
「・・・お前一見善人に見えるが、中身最悪だな」
「げらげらげらげら、お褒めに預かり光栄だぜ」
「・・・」

強かに笑う彼女に花宮は皮肉が全く通じない事を悟る。

「この僕にそんな事を言ったのは有史以来君くらいなもんだぜ。
なーんて戯言だけどね」
「お前本当にムカつく」
「僕のことは親しみをこめて安心院さんと呼びなさい」
「オレに指図すんな幽霊マネージャー」
「おっと幽霊マネージャーとは誰の事かな?」
「っお前以外誰がいんだバァカ!」
「僕はこれでも毎日来ているからね、その単語に結びつく事はないな」
「は!?」
「おや僕に気付いてなかったのかい?
だから球磨川君に簡単にあしらわれちゃうんだよ」
「うるせええええ」

花宮の米神に血管が浮き出てつゆりに怒号を飛ばすが、彼女にとっては暖簾に腕押し。
つまり全く効いていないという事だ。

「僕が言うのもアレだが君怒ってばっかだねー花宮君」
「誰の所為だ!」

  悪童と平等主義者

一周年企画第十一弾は葵様に捧げます!
リクエスト内容にあまり沿っていなくてすみませんorz
悪童を書くのって難しい。・・・練習します。

20131110