過去企画 | ナノ

!両想い
時間軸:I.H桐皇戦前



「散葉お願いがあるんスけど・・・」
「?」



真剣な顔で告げた黄瀬の言葉に散葉は思わず目を丸くしたのは記憶に新しい。


「・・・まさかマネージャーをしてほしいって言ってくるとは思わなかったな・・・」

ドリンクを作りつつ確認したのは数冊の大学ノート。
機密情報と言うには些か言いすぎだろうが似たようなものだろう。
何せ個人情報諸々書いてあるのだ、一歩間違えたら犯罪に使用されても可笑しくない。

「・・・っと、こんなものかな・・・」

考え事をしながらもいつの間にか終わっていた作業に散葉は一人苦笑する。
マネージャーは自分しかいない事が幸いした。
一人で笑っているのを誰かに見られたら変な目で見られる事は確実だし。

「ドリンクを籠に入れて・・・後はノートも持ったし」

散葉は監督の武内に言われた通り、やってきた"宿題"を持って体育館に向かう事にしたのだった。



  ♂♀



体育館に入って真っ先に目に入ったのは忙しなく動く部員達。
その中でやはり目に付くのはレギュラーと金髪の彼。

・・・ちょっと格好良いな、と思ったけど絶対に言わない。
言ったら調子に乗るのが目に見えているし。何より負けたような感じがする。蒲公英頭のくせに!


「・・・あ、監督。
言われた物、持ってきました」
「ん?ああ折原か・・・もう出来たのか?」
「はい。何か問題があれば添削しますので遠慮せず仰って下さい」
「分かった。ご苦労だったな」
「いえ、」
「あ、散葉!!」

背後からかけられた声に散葉は振り返る。
其処には満面の笑顔で此方に向かってくる黄瀬の姿があった。

・・・うわあ、物凄くいい笑顔・・・。

「散葉ー!さっきぶりっスね!」
「・・・黄瀬君」
「何で苗字呼びなんスか!名前で呼んでって前に言ったっスよね!?」
「っ何でってそんなの恥ずかしいからに決まってるでしょ!」
「恥ずかしがっている散葉も可愛い!」
「―――っ!」

赤面し俯いてしまった散葉と満面の笑顔を惜しみなく振りまいている黄瀬を目の前で見せ付けられた武内は無言のまま爆発した。


「・・・・・・黄瀬、外周行ってこい!折原、ドリンクを置いて記録をつけて来い!」
「ぇえ!?」
「っは、はい!」

狼狽える黄瀬を他所に散葉は急いで持ち場に着く為、ばたばたと足を動かす。
そんな散葉の背後で黄瀬の背中に笠松がドロップキックを決めたのだが勿論彼女はそれを知る由もなく。



  ♂♀



「そういえば散葉、さっき監督に渡してたのって何スか?」
「・・・え?あー・・・」

ドリンクを配り終えた散葉に黄瀬は疑問をぶつける。
すると近くにいた笠松達も会話に参加し始めた。

「何の話だ?」
「あーあれだろ監督が宿題を出してたヤツ」
「え?」
「そうですよ、やっぱり笠松先輩はご存知でしたか」
「宿題?」
「簡単に言うと情報収集した内容が書いてあるの」

あっけらかんと言った彼女に無意識に笠松達は固唾を呑んだ。

・・・情報?

見た目に騙されてはいけない。
誰もが認める美少女だが、この折原散葉という人間はあの折原臨也の実妹にして(自称半人前の)情報屋である。
因みに初めて彼女の情報屋としての腕を垣間見た時から彼女に逆らわないよう決心したのはつい最近の話だ。


「・・・散葉ちゃん、その中身って他校のバスケ部レギュラーの名前や練習内容とかそんな感じ?」
「はい大まかに言うとそんな感じです」
「ちょっと森山センパイ散葉の事名前で呼ばないでほしいっス!」

「(無視)他校って何処の?」
「小堀センパイ、この時期ですよ?
勿論桐皇です」
「!」
「桐皇って青峰と敏腕マネージャーがいる所だろ?
よく情報収集出来たな。
同業者を警戒してそうな所No.1っぽそうなのに」

ぎょっと黄瀬が瞠目するも、散葉は何て事無さ気にひらひらと手を振るだけ。
しかし彼女を除く海常レギュラーは何となくその仕草に悪寒がした。
・・・何故だろう、目の前のマネージャーが怖い。

桐皇の敏腕マネージャー、桃井さつき。
黄瀬曰く、折原散葉と桃井さつきは同系統の人間だ。
敵に回すと厄介、味方なら心強い。

「否皆さん買い被り過ぎですよ。
言ったじゃないですか私は半人前です。
監督もそれを承知の上で、且つ私の腕がどれ位なのか見るのも含めて私に宿題を出したんだと思います」
「っ散葉の情報収集能力は桃っち以上っスよ!オレが保証する!」
「良いよ黄瀬く・・・じゃなくて涼太君。
フォロー入れなくても」
「フォローじゃなくって本心っスよ!」


黄瀬の必死な姿に散葉が苦笑した次の瞬間。
武内の悲鳴が混じったような声で散葉を呼んだ為レギュラー達の会話が一時中断した。


「折原!!」
「っはい!」
「何だこれは!!」
「え・・・?」
「・・・監督が持って(る)のって例のノートっすか?」
「何で監督、あんなに焦ってるんだ?」

全員が首を傾げる中、息を絶え絶えにしつつ武内がやや青褪めた表情で散葉を睨みつけた。

「どうしたもこうしたも・・・!折原、確かに俺はお前の腕を見込んで情報収集を頼んだ。
だがこれはやり過ぎだ!!」
『やり過ぎ・・・?』


「選手のプロフィールや練習内容、選手の癖、それに加えて性格を踏まえた行動対策、更にはそこから相手がどのように成長するかという予測、練習方針のプロファイリングに留まっていればまだ可愛気もあったが、選手の家族を含めた交友関係や金銭感覚の比較、金銭の使用用途等々!!
範囲を指定しなかった俺も悪いがだからと言って公安も真っ青になる程丸裸にするな!」

『・・・・・・・・・・・・・・・』

武内が何故顔を青褪めていたのか分かった。
特に黄瀬はこれ以上無い位顔を引き攣らせた。

わかっていた。
彼女の情報収集能力の高さは桃井以上だと。
だが此処までとは聞いていない。思ってもいない。

・・・そういえば彼女の腕は自称だが兄以下だと言っていた。
という事は彼女でこれなら兄の腕は一体どれ位上だというのか・・・と笠松達はふと思い至ったがこれ以上考えない方が良いと何処からか警鐘がした為、そのまま沈黙したのだった。

  知らぬが花

お待たせしました、一周年企画第十弾は夕影様に捧げます!
きっと彼女がマネージャーになったら情報屋の腕を無意識の内にフル活用するに違いないと思ってこんな感じに仕上がりました(ニヤリ
彼女を敵に回した時は最後きっと社会的に抹殺されるのは間違いないでしょう(笑

20130915