過去企画 | ナノ

「・・・灰音さんは聖川さんの幼馴染、なんですよね」
「世間的に考えれば、そうなんでしょうね」

抑揚の無い声で問われた質問に灰音と呼ばれた少女は静かに答えた。
質問した妙齢の女性は平和島栞、彼女らは確固とした繋がりは無いが、それでも関係を表すのなら『友人』という言葉が相応しいだろう。

互いに打ち明けた事は無いが中身は転生したという記憶がある者同士。
だからなのか二人が然程警戒する事もなく短期間で打ち解けた。


「『世間的』と言うと灰音さんはそう思ってないと?」
「感覚としては手のかかる弟か何かよ・・・」

小さく溜息を吐く灰音ははっきり言って絵になる。
栞は銀髪も相俟って外国の人形みたいだ、と思った。

「・・・初めて見る人種だったから余計に対応に困ったわね。
バカみたいに自分の気持ちを話すから裏を読もうとしていた自分がバカバカしくなったのは子供の頃だけど未だに覚えているわ」
「そ、うなんだ・・・」

"昔"は真斗とは真逆の性格の彼らが傍にいてくれたから、余計に戸惑った。
あの世界はこの世界以上に弱肉強食の世界だったし、正直に生きようなんてすれば簡単に破滅を招いてもおかしくはなかった。
そんな世界で生きてたからこそ裏を読むのなんて簡単だったし、だから自然と真斗に対してもそうだと思った。
―――だけど真斗はその意に反して本当にバカみたいに正直だった。

そんな正直だと大人になった時苦労するだろうと他人事みたいに思って早十年近く。
・・・人生の半分以上を彼と過ごす事になり、結果手を貸す事も決して少なくなかった。


「・・・真斗に聞いたんだけど、確か栞さんは一ノ瀬君と知り合いだったかしら?」

思い出に浸りながら、ふと浮かんだ疑問。
小首を傾げながら問いを投げかけた。

「トキヤ君とは・・・うん彼とは良くしてくれているよ」
「そう。・・・彼と真斗は共通点が多々あるからかしら。
真斗はよく一十木君や四ノ宮君、一ノ瀬君の事を話しているの」
「・・・そうだね、確かに二人は似ているかもしれない」

「・・・」
「・・・」

静かに青灰色と黒曜石の視線が交差する。

口にしなくても二人は理解した。
そして先に口を開いたのは灰音、内容は彼らの共通点探し。

「趣味は料理」
「トキヤ君も料理は得意だよ」
「共通点一つ目が料理、と。
・・・次は裁縫。よく真衣の為にハンカチに刺繍をしている」
「あ、トキヤ君も取れかけているボタンを直していた」
「性格は真面目かしら」
「それは彼も同じだね」
「良く言えば信念が強い、悪く言えば頑固。融通が利かない」
「(臨機応変が難しいという事かな・・・?)トキヤ君は仕事では融通は利く方だから少し違うね」



灰音の家の一角である縁側にて、二人は無表情且つ抑揚の無い会話が成されているなか、その後ろで控えるように座る真斗とトキヤは現在進行形で微妙な表情を浮かべていた。


「・・・まさかこんな会話になるとはな」
「・・・今更割って入るなんて事出来ませんね・・・」
「だな」
「しかし・・・あれは褒めているのでしょうか貶されているのでしょうか」
「・・・・・・」
「聖川さん無言は止めて下さい」



「さっきも言ったけど物凄く素直」
「・・・それはどれ位?」
「呼吸をするように嘘をつくレンの虚言を鵜呑みにする位」
「・・・」
「そしてそれを私に報告する真斗を一体何度見た事か」
「勿論正してあげたんだよね?」
「言う時もあったけど最後辺りはもう言う気力もなかった」
「え」
「素直過ぎるのも考え物だと気付かされたのは間違いなく真斗の所為だ・・・」
「何と言うか・・・誘拐とかされなくて良かったですね」
「誘拐なんてザラにあったけれど」
「・・・え?」

あっけらかんと放った爆弾発言に栞は凍り付く。
それは背後で盗み聞いていたトキヤも同様だった。


「・・・あったんですか?」
「・・・・・・灰音、余計な事を言うな・・・・・・!」

真斗の拳は羞恥からかブルブルと震えていたがトキヤはそれを見ない事にした。


「流石に目の前で攫われるのは後味が悪いから物理的に葬った事が何回かあったわね・・・懐かしい」
((物理的なんだ・・・))

ちなみに聖川家は社会的に葬ったらしい。詳しくは知らないが。

そう淡々と話す灰音と真斗を除き、トキヤと栞の心が一致したのだが誰も気付かない。

「(駄目だこれ以上この話題を続けたら私の心がパーンってなる・・・!)
・・・灰音さんは聖川さんをどう思っているんですか?」

栞が咄嗟に出てきた問いは定番とも言える物だった。
瞬時に彼女は後悔してしまったが如何せんもう無かった事には出来ない。

男女の幼馴染。しかも片や財閥の御曹司。
何処かの小説や漫画に出てきそうなお約束である。

・・・まあ此処はゲームと小説の世界であるがそれは栞しか知らない事実なので置いておこう。

きょとんと灰音の青灰色の双眸が瞠目するなか、真斗はぎくりと身を固くした。
トキヤは他人事なのに固唾を呑んだ。

・・・あの人間に無関心な銀髪少女がどんな回答をするのか。
せめて隣りにいる彼を傷付けるような発言は止めて貰いたいが、何せ答えるのは灰音だ。

いざとなったら真斗の両耳を塞いでしまおう、とトキヤが静かに決断すると同時に灰音の口から返答が零れ落ちた。


「・・・・・・小さな親切、大きなお世話」
「・・・・・・え?」
「お節介だし世話好きだし、人間嫌いだって言ってるのに構ってくるし。
一種の嫌がらせかと本当に思ったけど・・・・・・あの素直さには、多分救われているんでしょうね」

青灰色の双眸に一瞬宿る感情。
脳裏に過ぎるのは初めて彼の前で泣いた瞬間、初めて彼と過ごした誕生日等。
色々な場面がフラッシュバックして、彼の言葉の端々から温もりを感じて。
・・・認めたくないが真斗との会話に、微笑に、誠実さに救われていたのも事実、で。

「っ」

「だから、いつまでも笑っていて欲しいし、誰よりも幸せになって欲しい。
家の事も含めて、真斗が辛い思いをして生きていた事を少なからず知っている私としては、せめて彼が彼らしくいられるように誰かが傍にいてくれたらそれで良いと、思う」


何処か寂しそうな微笑を真斗が目撃し、たまらず飛び出して灰音を抱きしめるまで後三秒。
トキヤが真斗に続いて栞の前に出てくるまで後五秒。
灰音が真斗に悪態をつき、実力行使に出るまで後七分。

そんな幼馴染の姿に芸能人コンビが堪えきれずに笑い出すまで後―――。

  幼馴染コンビと芸能人コンビ

一周年企画第九弾は羅流様に捧げます!
平等にと心掛けていた筈なのにいつの間にか『乙女』主人公寄りになってしまいましたorz
当初はナンパに引っかかるとかお約束展開にしようと思ってたのにどうしてこうなったのでしょうか・・・?
羅流様、企画に参加して頂き有難う御座いました!(*^^*)

20131104