二日後の撮影は中学生モデルとらしい。
そう聞かされ、手渡されたのは幾つかの雑誌。
栞は黒曜石の双眸をゆっくりと瞬かせながら手渡した専属スタッフ―――ルリを見ると彼女は何故か苦笑いを浮かべていた。
・・・何で?
否私の反応が薄い所為かそうなのか!
でも私がいきなりハイテンションで返してもルリさん何事という目で見てくるのは目に見えてるし・・・!
「名前は黄瀬涼太さん、バスケが得意な方だそうです」
「・・・以前会った事がある、と思う」
「・・・・・・幽さん私が言うのも何ですがもう少し同業者について興味を持つべきですよ」
「善処する」
因みに十四歳でスポーツ万能な人だそうです。
・・・そう。
淡々と栞は相槌を打ち、ぱらぱらとその黄瀬君とやらが載っているページを探す。
時間がかかるかと思っていたが予想よりも早く目的の人物は見付かった。
栞が彼に抱いた第一印象は「派手」の一言だった。
金髪、という時点で自分の兄を思い出したが関係無いので置いておこう。
その明るい髪色に加え、華やかな顔の作りは成程、モデルに向いていると言える。
因みに最後の台詞をつぶやけば何故かルリさんから「幽さんも充分綺麗なので芸能人に向いています」とお叱りを受けた。
・・・否ルリさんには負けると思うんだけど。
栞は楽屋にてポツリと心中で呟いたのであった。
♂♀
「・・・まだ来ないね」
「黄瀬君は部活に力を入れてるようなので、部活が終わるまでもう少し時間がかかると思いますよ」
「部活・・・?」
はい、と控えめに笑うルリに栞は沈黙する。
今日の仕事は東京の某撮影所。
因みに撮影は二本あり、内一本は午前で終了している。
なので次の仕事は相手待ちとなるのだが、相手は学生という事もあり日が沈むかどうかの時間に開始される。
という事で栞はそれまでの間暇だった。
「・・・」
「そうだ幽さん、黄瀬君の所に行ってみませんか?
確か帝光中バスケ部だと聞きました。
此処からだとそんな遠くないですし、」
そう提案するルリに栞は無言の末、こくりと首を縦に振るのだった。
♂♀
「黄瀬お前今日はモデルの仕事が入ってるって言ってなかったか?」
「え?」
「もう結構時間が過ぎてますけど・・・大丈夫なんですか黄瀬君?」
黒子の言う通り時計を見ると部活開始してから針が思ったよりも動いている。
後一時間したら此処から出ないと撮影場所に間に合わないだろう。
黄瀬は瞬時に計算すると体育館にいる一軍メンバーに笑いかけた。
「まだ大丈夫っスよ!
それより青峰っち、もう一勝負!」
「お前も大概しつけーな・・・」
青峰が深く溜息を吐いた、その瞬間。
「っっきゃあああ!!」
『!?』
身を裂く様な女子の悲鳴。
しかもこの声の主は桃色のマネージャーのものだ。
そう判断したのと足が動いたのは殆ど同時だった。
「さつき・・・!?」
「っ桃井さ、」
皆血相を変えて声が聞こえた方向へと走り出す。
もしかして不審者か何かに会ってしまったのかもしれない。
そんな不吉な予感が脳裏に過ぎった、のだが。
扉を開け、視界に広がった光景は彼らが想像したどの予想とも異なっていた。
「ああああああのっ女優の羽島幽さんですよね私ファンなんです、握手とっ・・・サイン下さい!あでも色紙!色紙持ってこないと・・・!!」
「・・・落ち着いて」
体育館の扉から少し離れたところには桃色の髪以上に頬を赤くした少女と、帽子と眼鏡をかけ、私服を着た女性が佇んでいる。
少女はひどく興奮している分、妙齢の女性との温度差が凄まじい。
帽子と眼鏡、そして遠目であるので判断し難いがとても顔立ちが整っている。
その上表情筋が動いていない為まるで日本人形のようだ。
「・・・人騒がせなのだよ」
「無駄にビックリしたし」
「・・・桃井と一緒にいるのはモデル兼女優の羽島幽みたいだな」
「あー・・・だからさつきの奴騒いでんのか」
「というより何故此処に芸能人がいるんですか」
黒子の尤もな疑問にキセキは確かに、と同意を示すが赤司や緑間は少し思案すると黄瀬の方へと視線を投げかけた。
羽島幽は芸能人。
もう少し詳しく言うならモデル兼女優。
ならば同じモデル業をしている黄瀬と関係があるだろう。
「あ、今日仕事一緒にするのが羽島サンなんスよ!」
『・・・・・・・・・』
黄瀬の輝かしい笑顔に一瞬負の感情が芽生えたのは一体何人か。
「今すぐ色紙をっ・・・あれ、皆?」
「やっと気付いたかよ」
「・・・桃井、あまり大声で叫ばないでくれ・・・」
「心臓に悪いのだよ」
「ご、ごめんなさい・・・」
「ですが桃井さんに危険が無くて良かったです」
「テツ君・・・!」
「羽島サン久しぶりっスね!
前の撮影以来っスけど少し痩せました?つか何で帝光に・・・」
「少し。・・・今日和、黄瀬君。
帝光に来たのは撮影まで時間があったから寄ってみた」
他の女子みたく、羽島幽は騒がない。
自分に興味が無いのか、兎に角彼女は無口無愛想無表情が常だ。
少し前の自分なら苦手意識を持っていたかもしれないが同じ一軍レギュラーの黒子も無表情が多いので慣れている。
寧ろ黒子っちみたい、と勝手に親近感を持っているのは秘密だ。
「練習の邪魔にならないようにと思ってたんだけど、・・・ごめんね」
「だ、大丈夫っス!」
「お前が答えるな黄瀬」
「赤司っち・・・!」
「ねーもしかして帝光の何処かで撮影でもあるの?」
「撮影は少し離れた所で行うんスよ紫原っち!
つか羽島さん仕事抜け出して良かったんスか?」
「許可は貰ってる。
少し前まで堀北さんと撮影していたけどそれも終わったし、」
「っ堀北ってまさか堀北マイちゃんか・・・!?」
会話に参加する気が皆無だった青峰が此処で物凄い勢いで食いついてきた。
緑間はその青峰の様子に一歩後ずさるがそれに気付いたのは黒子と赤司のみ。
「?はいその堀北さんですが」
「っっ頼む羽島、さん!マイちゃんを紹介して下さいお願いします」
「・・・・・・」
土下座でもしそうな勢いで見事な角度で頭を下げる青峰に栞は沈黙する。
190cm超えに加え不良のような顔つきの男子がまさかそんな行動をするとは思わなかったのが最大の理由だったのは彼女のみが知る。
モデルとキセキ
お待たせしました、一周年企画第七弾は漣様に捧げます!
主人公は決してグラドルとして仕事はしていないと思います。
トキヤと静雄が絶対に反対するでしょうしね!
企画に参加して下さり有難う御座いました!
20131020