過去企画 | ナノ

「折原っちぃいいい!!」
「五月蝿い!!」

どすっと鈍い音がするのと同時に黄瀬は悶絶した。
原因は言わずもがな。
黒髪夕焼け色の双眸を持つ眉目秀麗の少年が黄瀬の鳩尾に拳を叩き込んだからである。

「お、折原っち・・・」
「だからその"っち"をやめろって言ってるだろ?」
「嫌っスこればっかりは譲れないんで!」
「・・・君の価値観はよく分からん」

深々と溜息を吐くその姿は憂いを帯びているよう。
ただでさえ美形なのだ、そんな姿を周囲の女子が放っておく筈が無い。
その証拠に教室にいる女子の半分以上が赤面している気がする。

「・・・で何か用?」
「え?」
「・・・用事があって名前呼んでたじゃないのか?」
「え、あ、ああ!
折原っちの拳で忘れかけてた!えっと折原っち、今日の宿題、」
「却下」
「即答!?ヒドイっスよ折原っちー!!」
「どっちが。部活と勉強、両立してこそだよ」
「ううう分かってるんスけど・・・!其処を何とか!」
「なるか」

うるうると瞳を潤ませ、縋るような目で見てくる黄瀬に散葉は二度目の溜息を吐く。

「自分じゃなくて他の女子に見せて貰えば?」
「そんな情けない事出来る訳無いっスよ!」
「自分なら良いのか」

呆れを滲ませた表情を見せながら散葉は静かにノートを取り出し、それを黄瀬に渡す。
これが朝の日常の一部である。



  ♂♀



「いーざーやー!!」
「げ、」

目の前には止まれを意味する標識。
声をかけたのは金髪のバーテンダー。

自慢ではないが自分の顔は整っている方だと思う。
しかしそれは兄、折原臨也と殆ど変わらない容姿だという事を指している。
という事は自然、兄がグレーどころか完全ブラックな世界に手を出している所為で自分もとばっちりを食らう事に繋がるのだ。
因みにこの前は携帯を踏まれたとか言って女子校生と男子校生が追いかけてきた。

・・・何故携帯?と疑問に思ったのは当たり前だろう。
ではなく。


「てめえ何度言ったら池袋に来なくなんだ!」
「ちょ、静雄さん!
自分イザ兄と違うから!落ち着いてよ落ち着いて下さい!」


静雄に必死に訴えかけて数分。
漸く静雄は散葉である事に納得すると、額に浮かんでいた何本かの青筋は消えた。

「・・・ああ、散葉か・・・悪いなまた間違えた・・・」
「否それは別に良いけど・・・いつも兄が迷惑をかけてすみません」
「あ゛ー・・・アイツ本当に一度位笑いながらトラックに突っ込めば良いのによ」
「・・・・・・。
妹達も最近迷惑かけて無いですか?」
「臨也に比べればアイツ等なんて可愛いもんだ」

兄妹揃って静雄に迷惑をかけている事実に散葉は頭が下がるばかりだ。
多分平和島兄弟に頭を上げられる日は来ないだろうな。


散葉は若干遠い目で虚空に視線を走らせる。
その表情に静雄は殆ど臨也と瓜二つの顔でそんな表情をさせられると微妙な気持ちになる。

戦意が削がれそうだ。
否嘘、臨也と同じ顔があるとどうも先程まで抑えられていた筈の怒りが沸々と湧いてくる。


「・・・・・・ダメだ、やっぱなんか苛々してきたわ」
「・・・・・・・・・じゃあ自分は逃げます!お互いの為にも!!」


脱兎の如く逃亡した散葉は一つの決意を胸にする。
その決意の内容は勿論、『あの馬鹿兄、絶対に殴る。九瑠璃舞流をけしかけてでも殴る』という至って単純な内容であった。

  折原弟の日常生活

一周年企画第六弾はミリオン様に捧げます!
さて、根本的な問題ですが・・・友情・・・なのか・・・?『恋々』で男主人公の場合一人称は「自分」になります。男主人公はかなり新鮮で楽しかったです(^^)
企画に参加して下さり、有難う御座いました!

20131013