過去企画 | ナノ

神宮寺レンを一蹴した謎の他校生の美少女が誰かを探している、という噂が早乙女学園内に素晴らしいスピードで広まっていた。
勿論当の本人はそんな事は知る筈も無く。


音也たちがその事を知ったのは遅れてやってきたトキヤからであった。
深い藍色の双眸は疲労の色が滲んでいる。
その事に気付いた音也は其れを口にした。

「トキヤ、大丈夫?何か疲れてる?」
「・・・当たり前でしょう。
この早乙女さんが経営する学園に侵入するなど、どんな馬鹿ですか。
少なくとも芸能関係者だったらこんなふざけた行為はしませんよ」

言外にトキヤはその他校の女生徒を非難した。
・・・当の本人が聞いたら只の成り行き、の一言で済ませるだろう。

「つーか謎の美少女かー・・・あのレンを振るなんて相当イイ性格してんだろうな・・・」
「俺は神宮寺を痛い目にあわせたというその女生徒に会ってみたい。
一度アイツはそういう経験をさせた方が良いと常日頃から思っていたからな」
「そりゃお前はな・・・」
「僕も一目会ってみたいですねぇ」
「あ、俺も俺も!なんなら探してみよっか!」

音也の一言で無言で頷いたのは一体何人か。



  ♪



「噂では青い髪の女の子を連れた、雪の様な女性のようですよぉ」
「青って言ったら丁度マサみたいな?」
「へぇ青色か・・・」
「・・・・・・・・・何故私までっ・・・!」
「良いじゃん暇だろ?」
「暇な訳ないでしょう!」
「青い髪の女子・・・」

トキヤの心からの声を無視し、真斗は何故か既視感の様なものを覚えた。

青い髪の少女。
その少女を連れた、神宮寺レンを振るという偉業を成し遂げたという、他校の女生徒。
―――雪の、ような女性。


其処まで思考が至ったとき。
ふと真斗は自分がよく知る幼馴染を思い出した。

・・・・・・・・・・・・・・・まさか。

そう思った瞬間、彼らの背後から明るく、何処か舌足らずな声が響いた。

「おにいちゃま!」



  ♪



上手く他の生徒に見付からないように気配を読んで行動した結果、二人の視界に見慣れた青色が飛び込んできた。

「・・・ぁ」
「―――おにいちゃまっ!」

長い間会っていなかった反動も相俟って真衣は兄の元へと飛び出した。
その光景に灰音は眩しいものを見るように目を細めた。


「―――先生!」
「先生、此方です!」




重なってしまう、その光景。

(・・・本当、女々しいなぁ・・・)

何処か自嘲したような笑みを浮かべて灰音も久しく会っていない幼馴染の元へと歩き出した。




「―――真衣!?」
「あれ、マサ知り合い?」
「つか青い髪の少女って・・・」
「・・・この子の事、でしょうね・・・」
「ということは近くにもう一人・・・」

上から真斗、音也、翔、トキヤ、那月。
駆け寄ってくる妹を受け止めつつ真斗は真衣が向かってきた方向を見つめる。
それに倣って他の皆も視線を辿るようにズラした。

―――其処にいたのはもう一人の噂の他校の女生徒が居た。


『・・・・・・・・・!』
「やはり灰音か!」
「うわぁ美人さんですねぇ」

那月と真斗を除く3人は思わず凍りついた。
早乙女学園はアイドル、作曲家養成学校なだけあって、容姿のレベルが半端ない為、彼らはすっかり目が肥えているのが現状だ。
しかし彼女はこの早乙女学園にはいないタイプの美貌を持っていた。

「こんな所にいたの」
「こんな所、とは何だ灰音。其れは此方の台詞だ!
お前だけでなく真衣までいるとは一体どういう、」
「真衣からの"お願い"よ。私が進んで来る訳が無いと貴方も分かってるでしょ」

う、と真斗は久々に会ったのにも関わらず相変わらず冷たい幼馴染に言葉が詰まった。
確かにこの人間に興味無いと幼少時代から変わらない性格の彼女が自ら人間に会いに行く、という行動を起こすことは考えにくい。

表情を一切変えることの無い灰音に恐る恐る衝撃から立ち直った音也が代表して尋ねた。

「あのさ、マサ。・・・どういう関係?」
「・・・あ」
「・・・・・・」

音也達の存在をスッパリ忘れていました、と言外に声を出した真斗に灰音は一瞬無言になる。

「おねえちゃんはおねえちゃんだよ!」
「赤の他人以上友人未満って所かしら」
「何故そんな微妙な関係なのだ!普通に幼馴染で良いだろう!」
「(ハ、)そんな面白くも無い回答、誰がするのよ。
其れが嫌ならそうね、知人以上赤の他人未満?」
「どんな関係だ!」
『・・・・・・・・・』

真衣の台詞と被った灰音の言葉に真斗は力の限り突っ込んだ。
以降続くボケと突っ込みの応酬ラリーに音也達は沈黙した。
・・・全然分からない。唯一分かったのは彼女が真斗の幼馴染だと言う事位か。
後はこの少女―――下手をすれば幼女―――が真斗の妹という事だ。

「・・・・・・えーと・・・」
「おにいちゃまとおねえちゃんのこのやり取りはいつものこと?だよ!」
「いつもの事ですか・・・」

「・・・あのレディが聖川の幼馴染だったとはね・・・」

「あーでもなんか納得だ・・・てうわレン!?」
「あ、レン君いつ此方に来たんですかぁ?」
「さっきだよシノミー」

・・・何故かレンの顔が疲れているように見える。
噂通り、彼女にやられてしまったからだろうか。

「レンもトキヤと同じだね!さっき見たときよりも疲れてる感じ!」
「疲れてるというより・・・」

これは傷付いている、と言った方が正しいかもしれない。
彼女の言葉は意外と深く胸を抉られた様だ。
人間、普段されないことを体験すると結構クる物らしい。
久々に思い知った気がする。

「・・・聖川の幼馴染か・・・」
「そのようですね。それがどうかしましたか、翔」
「どうって言うか・・・納得。
トキヤだって覚えてるだろ、聖川の美的感覚のこと」
「・・・ええ」
「トキヤ言ってたじゃん、子供の頃からああも狂わせられる存在がいたんじゃ、って。
だから納得。
あんな人形の様な美人が子供の頃からいたらそりゃ狂うのも無理無ぇよ」
「ああ・・・」
「確かにそうですねぇ」
「まさかこんな出会い方をするとは思いませんでしたが」

彼らの視線の先には冷めた目で顔色一つ変えない灰音とレンの時はまた違う表情をして言葉を返す真斗がいた。
そして、そんな二人をニコニコと笑う真衣がいたのだが、其れを知る者はいなかった。

  噂の張本人 

5000hit企画第四弾は月影綺羅様に捧げます!
綺羅様のみお持ち帰り可能ですが思ったよりも長くなった。何でこうなったんだろう・・・。
後、レンが酷い扱いでスミマセン。愛はあるよちゃんと!
でも主人公にかかれば人類皆平等の精神でこんな扱いになるだろうと思う。
そして沢山キャラが出てくると難しい!
特にトキヤは後編のみという事実・・・。ゴメントキヤ(汗
if話なので本編はまたこの話とは違う出会いをする予定ですが、凄く楽しかったです(*^^*)


+おまけ+

「そういえば灰音、神宮寺のことだが・・・」
「誰?」
「・・・・・・」

真斗は一瞬沈黙し、恐らく彼女は名前を聞くことも無く一蹴したに違いないと判断した(そしてそれは間違いなかった)

簡単にレンの容姿、服装などを説明し終えると、灰音は嗚呼、とかなり薄い反応が返って来た。

「あれがどうかしたの」
「(あの神宮寺を"あれ"・・・)否、やはり会ったのか」
「新手の妖気みたいなのを放ってたから警戒したんだけどそんな必要が無かった事は覚えてる」
「・・・・・・妖気?」
「私にはそう感じた」
「・・・・・・・・・・・・」
「ねえ、何で其処で黙るのよ」

完全に相手にしてなかった灰音と言い回しに唖然とする真斗の図。

20120415