過去企画 | ナノ

!結婚後



「・・・」

ぱち、と目覚めた栞の視界は何処かボヤけており、寝起きな事も相俟って余計に彼女の思考は緩慢だった。


(・・・)


・・・温かいな。

布団とは別の熱源を感じた栞は徐々に鮮明になった視界を改めて視界に映した。

(・・・あれ、黒い?
それに背中に何か・・・腕?)

ぴたり、と其処で彼女の思考が止まる。
漸く思考が正常に戻ってきた


「・・・!」


黒いのはトキヤのパジャマ。
熱源はトキヤで、抱きしめられた状態でいるから温かいのは当たり前だ。

(・・・ちょっと前までこんな風に誰かと寝るなんて考えた事無かったからな・・・)

視線を上にズラせば穏やかな表情で眠るトキヤの寝顔が映り、栞はそっと息をつく。
昨夜も遅かったのだ、もう少し寝かせておいた方が良い。
そう思い至った栞の行動は早く、トキヤを起こさないように細心の注意を払いながらベッドから抜け出したのだった。



  ♂♀



「・・・ん、」

トキヤの意識が浮上したのは栞が起きてから一時間程後の事だった。
本来ならもっと遅く起きる事になる筈だったのだがこの時目を覚ましたのは勿論理由がある。


ぺろ、


「ニー」
「・・・どくそ、」
「二、二」

視界一杯に広がったのは愛くるしい仔猫の顔、両耳には仔猫の鳴き声。
トキヤが茫然とする間もまたぺろ、と頬を舐めようとする仔猫、もとい独尊丸を慌てて止めに入った。
そして寝る前に隣りにいた存在を探す。

「・・・栞、さん・・・?」

返事は無い。
聞こえてくるのはトキヤの掌の中にいる独尊丸の抗議にも似た鳴き声だけで彼女からは返ってこなかった。

「・・・」

トキヤは数瞬考えた後、スッと独尊丸を抱きかかえながら寝室を後にしたのだった。



  ♂♀



トントントン

台所から規則正しい包丁の音が聞こえてくる。
それに良い匂いも。
独尊丸もそれが分かったのか、ニーと鳴き止む事はない。

(空腹なのでしょうか・・・)

ひょっこりとトキヤが台所を覗き込むと其処には、夜色の長い髪を簡単に項で纏め、手際よく料理をする栞の姿があった。


(・・・やはり彼女をお嫁さんにして正解でしたね)

こんな姿を見れるのだから結婚して本当に良かったと痛感する。
多くのライバルを蹴散らし、あの早乙女から交際・結婚許可をもぎ取った甲斐があった。

トキヤが回想に浸ろうとした、その瞬間。


「ニー!」
「あ、こら」
「・・・え、」

トキヤの掌から抜け出した独尊丸は器用に床に着地し軽快な足取りで栞へと向かっていく。
トキヤの存在に気付かなかった栞が振り向く事で表情が露になる。

彼女の表情は無表情だったがトキヤには少し驚いたように見えた。

「独尊丸・・・?え、トキヤ君まで。もう少し寝てても良いよ?」
「そうしたいのは山々ですが目はこの通りすっかり醒めてしまいましたし。
それに折角栞さんが朝食を作って下さっているのですから温かい内に食べたいですね」
「・・・でも、」
「・・・では栞さんが添い寝して下さったら大人しく寝ましょう」
「!」

ぴく、と僅かに反応した最愛の妻にトキヤの顔が緩む。

嗚呼、本当に。


「可愛いですね、貴女は」
「トキヤ、く、んっ」

ぐっ、と腰と後頭部を固定し自分の方に抱き寄せると同時にトキヤは栞に口付ける。
突然のそれに栞から漏れる切ない吐息と声にトキヤの中で理性の壁にヒビが入る。
しかし栞はそれに気付かない。

「ゃ、とき、・・・っ」
「はぁっ・・・」

酸欠も相俟って潤む双眸をトキヤは熱の籠った双眸で真っ直ぐに見る。
吐息が感じる位、近い。

「栞さん、私は幸せです」
「・・・え?」
「幸せです。どうしようもなく、本当に」
「トキヤく、」
「愛してます」

本当に幸せそうに笑うトキヤに栞はじわじわと赤面し、小さな声で「私、も」と紡ぐのはこのすぐ後の事。

  彼と彼女の新婚生活

200,000hit企画第十五弾は神無月様へ捧げます!
夫婦ネタってどんなのが夫婦に繋がるのかずっと考えた結果こうなりました(苦笑
こんな感じで良かったでしょうか?
改めてトキヤ、そしてutpr好きだなーと思いました(*^^*)
企画に参加して下さり有難う御座いました!

20130309