過去企画 | ナノ

!片想い
!首アニメ25話沿い



「幽にはこの企画のリポーターをして貰おうと思うんだけど・・・良いかしら?」
「・・・」

チキンハートの栞は今日もマネージャーが持ってきた仕事を断る事が出来ずに頷いた。


これが一ヶ月前の出来事である。



  ♂♀



「やってきました、ラーブラブスターチャンス!池袋ナンバーワンカップルを探せ!!
レポーターの羽島幽です!
今日は僕の生まれた町、この池袋で最高のカップルを探します!
ナンバーワンカップルに選ばれたカップルにはなーんと!
二人揃って僕の出る映画にデビューして貰います!
世界初のカップルデビュー企画!お楽しみ下さい!」

ぐっと拳を握り、笑顔を見せる羽島幽にトキヤと音也は沈黙する。
流石プロ。
オフの時の無表情ぶりは一体何処へやら。

「では此処で特別ゲストを紹介します!
ST☆RISHの二人、一十木音也君と一ノ瀬トキヤ君です!
実は彼等も僕が今度公開される映画に出るので是非其方も宜しくお願いします!」
「(ぅえ!?)え、えーと一十木音也です!
今日は宜しくお願いします、羽島さん!」
「一ノ瀬トキヤです・・・此方こそ宜しくお願いします」

突如振られた為、音也は一瞬動揺するがトキヤは冷静に対応している。
此処等辺が経験の差である。

しかし二人の内心はよくこの企画が通ったな、の一言に尽きた。
彼女の事務所の社長もシャイニング早乙女と同じ位ハチャメチャ過ぎるとは聞いていたがその一面を今回垣間見たと言って良い。



「時代はLOVEだろうエブリバディ!!
ラブラブカップルをスカウトして新人アイドルとして売り出す!
ビッグアイディア!
しかも!そのスカウト風景を撮影して売り出せば番組にもなるだろう!?
ヘイMiss幽!どうだい!?」
「・・・」
「ナイスカップルを探すラブキューピットをやってみないかい!?」
「・・・そういうキャラクターを演じろというのなら演じる事は出来ます」



出来るんだ!!

この会話の一部始終を聞いて音也とトキヤは口角を引き攣らせたのは記憶に新しい。
そして現在。
見事にその役を演じきっている彼女は本当に凄い。
初見だと確実にこれが彼女の本来のキャラクターだと信じ込んでしまう位に完璧である。



  ♂♀



そして生放送が始まって十分後。

「今日が初デートという素敵なカップルでしたね!」
「そうだね!
なーんか羨ましい!ねっトキヤ!」
「なっ、わ、私は別に」
「ふふっ僕は懐かしいですねー僕の初デートもこの街でした!」
『!?』


唐突に爆弾が投下された。
音也がブリキ人形のようにトキヤを見ようとするが一瞬垣間見るも、また目を逸らした。
・・・見るんじゃなかった。


「あ、あーあのさ羽島さ、」
「あ、次はあのカップルにお話を伺いましょう!」
「え!?ちょちょっと羽島さーん!?」
「・・・行きますよ音也」
「と、トキヤっ・・・!」

トキヤ!トキヤの顔が怖い!
羽島さん今の発言、頼むから嘘だと言ってぇぇええ!!

悲しいかな、生放送という事で実は緊張している彼女に音也の悲鳴は届く事は無く。



「今日和、お二人共!
実は僕達、ラブラブカップルを探しているんです是非協力して下さい!」
「・・・え?」
「は、ははは羽島幽さっ、一ノ瀬トキヤさんに一十木音也さんまで!?」
「・・・今日和」
「と、トキヤもっと愛想良くしないと!
怖がっちゃうよ!」
「あははでもそれが一ノ瀬君だしね。
えーと、今日はどちらから?」
「え、えと地元ですけど・・・あの、これって」

戸惑いながらもしっかり答えるのは竜ヶ峰帝人。
傍にいるのは園原杏里であると幽が気付いたのは話しかけた後だった。


・・・し、しまったー!
ええええ、この二人付き合っているんだったっけ!?
否その前!?
あれそういえばもう一人いたんじゃなかったっけその子は何処に行った!?


幽が内心慌てふためいているのを露知らず音也が帝人の質問に答えた。

「ラブラブスターチャンス!池袋ナンバーワンカップルを探せ!!の取材なんだー!
この街で一番のカップルを探しているんだよ!ねっトキヤ!」
「ええ・・・見たところ、初々しい雰囲気ですが・・・付き合って間もないという感じですか?」
「ええ!?」
「!」

トキヤの質問に狼狽える帝人と杏里。
質問の内容とテレビの前という事もあって緊張している感じが全面に押し出ている彼等に幽は内心で苦笑する。

「ぼ、僕達はただの友達ですけど、でもただの友達じゃないっていうか・・・」
「・・・、」
(・・・あれ)

緊張により強ばった表情から一転、真剣な表情に切り替わった帝人に幽達は一瞬目を丸くする。

・・・・・・これ、は。


「え、あ、ででも勿論決めるのは彼女、」

思っていた事を全て話し終えると同時に自分が何を話したのか此処で漸く気付いたらしい。
先程までの真剣な表情からまた戸惑ったものに変わる。
・・・百面相していて忙しいな、とトキヤは思った。
だけど先程の話は、きっとテレビなどで話して良い物ではないだろうという事もトキヤは気付いていたが敢えて何も言わなかったが。


―――そして。
和やかな空気から一気に池袋の空気が殺伐としたものへと豹変した。


きゃああああ!!!


「!?」
「え、何何!?」
「羽島幽!!」
「・・・え、」

一瞬、幽の黒曜石の双眸が瞠目する。
視界に映るのは銀色に輝くナイフ、血走った目をした男。

「・・・」
「妹を、妹を返せっ・・・」
「・・・い、妹?って何の事?」
「そういう事はあの男性に聞いて下さい音也」

幽はいつの間にか演技を止め、ただ無言で凶器を持った男を凝視している。
誰も気付いていないが彼女のマイクを持つ掌は汗で濡れ、今にも滑り落ちそうだった。


・・・怖い、怖いけど逃げたら、いけない・・・!



  ♂♀



同時刻、とあるワゴン車内にて。

「どうする?行ってみるか?」
「サイモンがいる・・・それに俺等がアイツ等の兄妹愛に巻き込まれて死ぬぞ」



  ♂♀



「しっ・・・死ねぇええ!!」

両手でナイフを構え、一直線に突撃する男。
それにより悲鳴が先程よりも大きくなる中、帝人は杏里を庇い、杏里は一瞬で紅い瞳に変化する。
そして殺意を向けられた幽は動かない。動けない。
彼女の盾になるように立ち塞がったのは勿論彼等だった。

「羽島さんっ!」
「危ない!」
「っぇ、」


ぐいっと力強く抱き寄せられ、幽の思考回路が凍り付いたのと同時に男は後ろから突如投げつけられた看板に気絶した。


「・・・え?え?」
「・・・」
「これ、は・・・」
「も、もしかしてこれって投げたの、静雄さん・・・?」


トキヤの両腕に抱かれながらも幽は何とか視線をズラすとその先に看板とその下敷きになった男がいた。
見慣れた光景に幽は静かに心中で頷いた。

(当たってるよ大正解だよ竜ヶ峰君・・・!)
「トキヤ羽島さん大丈夫!?」
「私は大丈夫ですが、羽島さん怪我はありませんか?」
「・・・大丈夫」

ほんの僅かな微笑を浮かべた幽にトキヤの胸が高鳴ったのも、この後起こる池袋名物の戦争もこの一件がきっかけでトキヤの株が上昇するのもこの時はまだ誰も予想だにしていなかったのだが―――それはまた別のお話。

  天下泰平の世の中

200,000hit企画第十一弾はさなれ様に捧げます!
ロケ風景、と聞いてこのネタしか思い付かなった私・・・。
アニメ見てて本家幽君の初デートの相手って誰だー!と思ったのは私だけでは無い筈・・・!
トキヤと両想いになった後は恐らくこのネタで暫く尋問されるんだろうな、思いながら書いていました(笑

20130714