過去企画 | ナノ

!両想い



「ねーねー其処の彼女二人!
俺達と遊ばない?」
「・・・否」
「ちょっとクル姉に気安く触らないでよー!」


「・・・・・・」


何処の誰かも知らない少女(多分双子ってヤツなんだろう)二人と柄の悪い男二人。
黄瀬の琥珀色の双眸が僅かに細まり、事態を見つめるが誰も助けようという素振りを見せるやつはいない。

・・・仕方が無い、と黄瀬は体躯の良い身体を動かす事にした。
決してあの双子に一目惚れをした等の下心をもってしての行動ではない。
自分には最愛の恋人がいるし、それ故に有り得ない。

理由を付けるならただ一つ。
その最愛の恋人、折原散葉に似た横顔が黄瀬の中の琴線に引っ掛かったというそれだけの事だ。



  ♂♀



「ありがとーおにーさん!」
「謝・・・御・・・」(ありがとうございました)
「いや別に良いっスよ」


邪気の無い笑顔を見ていると散葉によく似ている、と思うが髪も瞳の色も違う。
他人の空似かと黄瀬が思った瞬間、眼鏡をかけ快活な少女が大きな声を出したので黄瀬の思考が弾け飛ぶ。


「ああっ何処かで見た事があると思ったらおにーさんもしかしてモデルで有名な黄瀬涼太さん!?」
「へ!?」


上の空だった為か、咄嗟に出てきた黄瀬の台詞は上擦った声であったのだが双子―――折原舞流と折原九瑠璃がそれに突っ込む事はない。
むしろそれどころでは無いようだ。


「雑誌でよく見てるし、やっぱり実物の方が格好良いけどでもでも幽平さんの方が、ぐっ!」
「・・・欠・・・礼」(失礼だよ)
「?」
「痛いクル姉!」
「黙」
「えーと・・・?」


見た目と性格が逆転している双子に戸惑いを隠せない黄瀬はこの時、関わらない方が良かったのではないかと内心思っていると、どうやら姉妹喧嘩は終わったらしい。
いつの間に。
というか早くこの場を立ち去ろうそうしようと思った矢先、散葉によく似た笑顔を向けられ、一瞬黄瀬の思考が停止する。


「黄瀬さんの事はよく雑誌で拝見しています・・・」
「・・・」


快活な少女の方がどうやら妹らしい。
姉に軽く睨まれながら下手に出ている少女に黄瀬はいよいよ困惑した。
が、そんな黄瀬の感情を他所に、九瑠璃は一歩黄瀬に近付き―――


「恩・・・屈」(おれい・・・かがんで)
「?」


頭一つ分以上の身長差がある為、九瑠璃は屈むようにジェスチャー付きで黄瀬に指示する。
黄瀬は言われるがままに屈むと同時に九瑠璃は身を乗り出した。


「!?」


すると当然二人の顔が近付く事になる。
黄瀬は半ば本能的に身をひこうとした、その刹那。



「何やってんの九瑠璃!
そして見てないで止めなさい舞流!!」



ぱっかーーん!!



「いったーーーーーい!!」
「姉・・・痛」
「っ!?」
「痛くしたんだから当たり前だろ何考えてんだこの大馬鹿妹!!」


ぜえぜえと乱れた息を整えつつ、かっかと怒る姿はまさしく自分が描いていた彼女そのもので。
その彼女の口から出てきた単語に黄瀬は今度こそ絶叫した。


「い・・・」
「涼太君?」
「妹ぉぉぉっ!?」


口をパクパクと開閉させる姿は最早モデルでも何でも無い、ただの魚である。
が、今の散葉には言わなければならない事があった為敢えて突っ込む事は無かった。


「散葉の妹!?マジっスか!?」
「・・・そういうリアクションを取るだろうから言いたくなかったんだけど・・・ていうか九瑠璃!君は一体今何をしようとしたんだ!」
「姉・・・恐」
「九瑠璃」
「恩」
「私は九瑠璃にそんなお礼をしろと教えた覚えは無い!
まさかとは思うけど二人共いつもこんな事をしている訳じゃないだろーね!?」
『・・・・・・』


完全に目が据わっている姉の姿に双子は背筋を凍らせた。
普段の行いが行いだけにしていないと言えるか微妙なところであるからだ。

・・・嘘を吐いたら吐いたで、バレた時が恐ろしい。
姉は食卓を握っているが故に食事での攻撃に出るのだ。
格闘技を習っていると言えど、激怒した姉は恐い。


と思っていたら矛先が移動した。


「ていうか涼太君も何で舞流達と一緒に?」
「あー・・・」
「・・・?」

生返事をした黄瀬の視線はズレている。
その様子から散葉は一つの可能性が過ぎった。


「・・・え、涼太君から声をかけたの?」
「ち、違!その娘達がナンパされてて・・・!」
「ナンパ?」
「歩いてたら散葉によく似た娘がいるなって思って!
で、その娘達がナンパされたんで助けただけっスよ!」


わたわたと慌てて話す黄瀬に散葉は真偽を判断する前に、ある単語に反応した。


「・・・え、九瑠璃達と私って似ているの?」
「え、似てるっスよ?」
「姉・・・妹・・・似・・・当」(姉妹だから似てるのは当然だよ)
「似てないって思ってたのー!?こんなに似ているのにー!?」


きょとり、と目を丸くし硬直した散葉、騒ぐ双子、変な事を言ったかと首を捻る黄瀬。
傍から見て変な集団である事は確実だったのだが、すぐにそんな事も周囲の人間の思考回路から吹き飛ぶ事になった。


どっかーん!



『・・・え?』



「いぃぃざぁぁやぁぁ!!」
「ったくシズちゃんもしつこい、ね!」


建築物の破壊音と男二人の声がBGMの中、散葉と黄瀬は顔を引き攣らせた。


・・・ヤバイ。


「ま、舞流。九瑠璃。
此処は危ないから早く移動し、」
「静雄さーん!
イザ兄をやっつけちゃって下さーい!!」
「(何言ってるんスかこの妹ー!?)
て、"イザ兄"!?えええ散葉ってあの折原臨也の妹なんスか!?」
(バレたーーー!!)
「姉・・・不・・・言?」
「イザ兄と私達は不本意ながら兄妹でっす!」
「っ舞流に九瑠璃、二人共もう黙ってて!」

  曝け出された隠し事

200,000hit企画第十弾はコクリコ様に捧げます!
臨也との絡みが無くてすみません・・・!
こ、こんな感じで良かったのか、不安で仕方ありませんが宜しければ貰ってやって下さい!
リクエスト有難う御座いました!

20130704