過去企画 | ナノ

―――じゃあ僕はちょっと用事を済ませてくるから席を外させて貰うぜ。
ああ、半纏。
君は此処にいてくれ、なあに心配する程の事じゃないすぐに戻ってくるからさ―――。


そう言って消えたつゆり。
残ったのは彼女の言う通りに一言も発する事無くただ佇んでいる不知火半纏。


「・・・」
「・・・」
「あー・・・お前、何で後ろ向いたままなんだ?」
「・・・・・・」

痛い程の沈黙に耐え切れず、苦し紛れに発した言葉。
誰にも素顔を見せず、後ろを向いたままで声を発する事もなく。

本当に『ただ其処に居るだけ』なんだ・・・。


背中の≠を凝視しながらそう痛感したメンバー。
だが青峰に代わって今度は赤司が動いた。

「お前はつゆりの何だ」
「・・・」
「何故つゆりと行動を共にしている」
「・・・」

以降の質問も依然、半纏という男は沈黙と静寂を貫くだけでまさに暖簾に腕押し、馬耳東風ともいうような感じだ。


赤司とつゆりの関係を知っている者からすればこの光景は修羅場以外の何物でもないが、状況をよく理解していない者からすれば全く理解不能の一言しか出ない。


「・・・なあ黒子、アイツとあの安心院って奴はどういう関係なんだ?」
「赤司君と安心院さんは所謂幼馴染の関係です。
が・・・あの不知火さんとやらとボクとキセキ達は初対面なのでボク達もよく分かっていません」
「はぁ!?」


外野でそんな会話がなされている事さえも気付かず、赤司と半纏の間に流れる空気は険悪なものに近く、近くにいた筈の青峰達は徐々に距離をとって退避していた。
賢明な判断である。

「・・・何故、何も話さないんだ不知火半纏―――!」

ぎり、と奥歯を噛み締めたその瞬間。
沈黙を貫いていた半纏の口からようやっと声が溢れた。


「・・・俺は『ただ其処にいるだけの人外』だ。
お前が其処まで突っかかってくる奴だとは思わなかったな―――赤司征十郎。
分かった、其処まで言うなら説明してやる。
だがまずは俺を反転院さんと呼びなさい」


くるり、と振り返った事で漸くその素顔が露になった不知火半纏。
その眉目秀麗な容姿に数少ない女性陣であるリコとさつきが僅かに顔を赤らめたのだがそれを知る者は殆どいなかった。



  △▼△



「まず、最初の質問か。
俺はつゆりの影だ。
簡単に言うと、つゆりの行動に賢愚問わず妨げない人外だ」
「・・・人外、人外って五月蝿いわね。
変なスキルがあるらしいけど・・・自分達は人間じゃないと言うつもり?」
「カントク」
「ああその通りだ。
但しつゆりなら、俺達は人間じゃなく人でなしだ、と言うだろうな」

・・・確かに言いそうだ。
帝光中時代、過ごした日々を思い出しながら黒子達は遠い目をする。

彼女は本当に言葉遊びが好きな人だから。


・・・それにしても。
不知火半纏も彼女の事を名前呼びしているとは思わなかった。
彼女はずっと親しみを込めて『安心院あんしんいんさん』と呼ばれていたから。
彼女の事を名前呼びしている存在はこれで二人目だ。


「そして二つ目の質問だったか・・・。
何故、と改めて問われたら回答に困るな」
「何故だ」
「答えはつゆりの影だから、でも良いのだろうがそれはお前が望む答えではないのだろう。
だから困っている。
これを例えるなら『何故数あるスポーツの中からバスケを選び、極限まで鍛えようとしているんだ』とお前に聞いてるようなものだ。
・・・そうだな。
それでも敢えて質問に答えるなら・・・」


一拍間が空き、半纏は再び口を開く。
次の瞬間から放たれた言葉は彼等を絶句させた。
それ位、予想出来ないものだったからでもあった。


「つゆりの為に俺は生きて、つゆりの為にバックアップして、つゆりの言う事が俺の絶対で、つゆりの幸せが俺の幸せだからつゆりは俺の全てだ。
つゆりが笑っていてくれたらそれで良い、俺はずっと隣りにいる事でつゆりの声を聞けたらそれで良い。
だから傍にいる。それだけだ。」


深い深い海のような双眸。
その双眸から分かる感情はただ偏に、溢れんばかりの深い深い愛情と―――

狂いそうな程の、恋情だ。


一途で、危うい位の真っ直ぐなその言葉と感情に一部の男性陣と僅かな女性陣が赤面し絶句した。


愛している。
そんな言葉では伝えきれない位、彼女の事が、どうしようもなく。


ねえ、半纏―――


俺は彼女の影だから、あまり会話が出来ない。
だがそれでも彼女は変わらず話しかけてくれる。
他の人間の声なんて何とも思わないが彼女の声は違う。

彼女が紡ぐ声で、俺の名前を呼んでくれる。

それだけで、満たされる。


「俺はつゆりを愛してる」


だから、この想いをどうか拒絶しないでくれ。

+おまけ+

「ただいま、っと。
・・・あれ半纏?
君が反転しているなんて珍しいね、何かあったのかい?」
「否、別に・・・そうだな宣戦布告しただけだ」
「は?」
「っあーちゃん・・・!」
「・・・あれ桃井ちゃん?久しぶりだね」
「あーちゃん勝ち組にも程があるよ!?」
「・・・は?」
「(はっ)違うからねテツ君!
私はテツ君一筋だから!
ただテツ君と同じ髪の色だからちょっとどきっとしただけで・・・!」
「・・・すみませんボクまで巻き込まないで下さい」
(何じゃあのイケメン・・・!!)←全員共通の心の声
「・・・・・・」
(赤司怖ェーー!!)

  見返りを望まない愛情を、貴女に

お待たせしました200,000hit企画第八弾はアルコ様・波様に捧げます!
半纏さんに喋って欲しい等といったリクが重なっていましたので心苦しかったのですが纏めさせて頂きました(汗
『虹色』の作品数が少ないのにも関わらずリクをして下さり、本当に嬉しかったです(*^^*)
半纏さん大好きなので後半完全に楽しかったですw

企画に参加して下さり有難う御座いました!

20130228