過去企画 | ナノ

ガッシャーン!


「・・・・・・」


どーんっ!


「・・・・・・」
「・・・・・・」


辺りに立ち込めるのは砂煙、自動販売機の残骸、ガードレールの破片。
BGMは男二人分の怒号。


その地獄絵図にも似た光景に率先して目を逸らしたくなったのは音也とトキヤに嶺二、そして幽の四人だった。



  ♂♀



「ねえねえ・・・あの人達本当に人間なの?
ていうか、なっつんてば一体どうしちゃったの!?」
「えーと・・・れいちゃん、あれは那月というか砂月なんだけど・・・」
「・・・話がややこしくなりますが、まぁ一応二人とも人間ですよ。
そうですよね羽島さん」
「・・・うん」




きっかけは池袋名物、戦争コンビと渾名される折原臨也と平和島静雄の対決中に通りかかったという、至ってシンプルなモノだった。
それだけならまだ良かったのだが、あろう事かその片割れである臨也は天敵の妹である羽島幽もとい平和島栞を目敏く見付け此方に突進してきたのだ。


「丁度良い所にいて助かったよ―――栞ちゃん、上手く足止めを宜しくね!」
「・・・・・・ぇ、」


「臨也ぁあああぁあっ!」

「!兄さ、」
「っ幽ちゃん、危ない!!」
「羽島さ、」


臨也がすぐ横を通り過ぎた時にはもう遅かった。
兄が放り投げた標識がすぐ其処まで接近していた。
逃げるにしてももう遅いと半ば諦めた、その刹那。


「逃げて下さい、幽ちゃんっ!」
「四ノ宮さ、」


どんっと突き飛ばされた、と脳内が反応したのと標識が那月の眼鏡に掠った所為で地面に落ちたのは殆ど同じだった。



「っ!!」
「っ栞・・・!?」


静雄の狼狽した声と眼鏡が落ちる音は標識が地面に派手に突き刺さる振動でかき消された。


「羽島さん、大丈夫・・・っげ!」
「や、やばい・・・!」
「怪我!怪我無い!?」


嶺二は砂月の事は知らない。
幽は倒れ込んだ為、眼鏡が落ちたという事実に気付いていない。
なので戦争コンビが織り成す地獄絵図を上回る事態の悪化に気付いたのは音也・トキヤだけだった。



  ♂♀



「はぁぁあああっ!!」
「な、」


眼鏡が落ちた事で那月とは違う、もう一人の人格―――四ノ宮砂月が現れた。
それと同時に目の前にいる金髪バーテン服に標的を絞り、その拳を振り上げた。
一方振り上げられた側の金髪バーテン服もとい、平和島静雄は戸惑いながらもその拳を受け止める。


・・・確か、木を倒したりプールサイドを拳一発で破壊するような馬鹿力を砂月は持っていたと音也とトキヤが記憶していたが相手はあの平和島静雄。
ガードレールを素手で引っぺがし、トラックをサッカーボールの様に蹴り転がす。
怪物染みているのはお互い様か、と認識し直した時には周囲は大惨事の一言に尽きた。


「羽島さん、大丈夫ですか!?」
「・・・大丈夫」


死にかけたにも関わらず、一切取り乱した様子を見せない彼女にトキヤは眉間に皺を寄せる。
トキヤが何かを言おうとしたがそれは音也と嶺二によって遮られた。


「本当に大丈夫!?
標識が吹っ飛んできたんだしどっか怪我とか・・・!」
「ていうか此処も危ないし、まず避難しないと!」
「ああそっか!」
「・・・羽島さん立てますか?
彼処なら比較的コンクリートの破片などもありませんし、急いで移動しましょう!」
「・・・うん」



回想終了。
幽は片割れが身内なので、否が応にも慣れてしまったが彼等は違う。
もういっそ自分の事は置いて、帰ってくれても構わないと言おうとしたが、彼等はそんな事を言われても引き下がらないだろう。
というよりもう一人の片割れは彼等のグループメンバーで先輩後輩の関係だ。
・・・うん、無理。
何より隣りで厳しい顔をしているトキヤの顔が見れない。
視線が、視線が痛い。身体が貫通しそう。


無表情の下、そんな事を考える彼女の思考を誰が気付いただろうか。


「あーもう!
砂月を止めるなんて無理だしどーしよー!?」
「てゆーか砂月って誰!?」
「四ノ宮さんの事ですよ!
眼鏡を取ると人格が変わるんです!」
「それ何て二重人格!?」



ぎゃあぎゃあと騒ぐ音也達だったが、怪物コンビが織り成す死闘の破壊音というBGMにぴたり、と止まらせた。


振り返るのも恐ろしいが、現実から目を逸らしても仕方が無い。
芸能界で鍛えられた悲しき精神で、現実を見た。


『・・・・・・』


やはり見るんじゃなかった。


「・・・三人とも、目が死んでますが大丈夫ですか」
「羽島さん、これは夢ですか否夢ですよね」
「残念ながら現実ですね」
(((ですよね!!)))


切実な願いだったが彼女の無常な台詞で木っ端微塵になった。


「・・・心配しなくても大丈夫ですよ」
「え?」
「どーゆう事?」
「そろそろ来る頃だと思いますが・・・ああほら、」
『?』

す、と幽が指し示した方向を素直に見れば其処にはいつの間にか止まった破壊音とそれぞれの重い拳を平然と受け止めた黒人の姿があった。



「へ?」
「彼は・・・」
「サイモン・ブレジネフ、ロシア系黒人。
因みに現在の職業は寿司屋『露西亜寿司』の店員」
『嘘だ!!』
「・・・そう言いたくなる気持ちは分かるけど本当。
後は戦争コンビと呼ばれる彼等の喧嘩を止める事が出来る唯一の人」


淡々と話す彼女に音也達はどう反応したら良いのか数瞬迷った。
迷った末、音也とトキヤは砂月に眼鏡をかけるように声を上げたのだった。

  戦争の引き金

200,000hit企画第四弾は碧樹様に捧げます!
大変お待たせしてすみませんでした!(汗
先輩組、レインボウ組全員出すと収拾がつかなくなるので敢えてROT組+那月(砂月)にしてみましたがこんな感じで宜しかったでしょうか?
企画に参加して下さり有難う御座いました!

20130611