過去企画 | ナノ

!両想い



全ての発端は彼の一言だった。

「散葉の家に行きたいっス!」
「・・・は?」
「散葉の家って池袋なんスよね?
オレ前から行きたいって思ってた、」
「全力で拒否する!」

彼、黄瀬の一言が散葉に届いたのとほぼ同時に返したのは文字通りの拒絶だった。
取り付く島もないとはこの事か。

「何でっスか!?」
「何でって・・・」

兄は現在新宿にて一人暮らしをしているが、問題は妹の双子だ。
現在中学生の二人は実家に住んでいる。
当然エンカウント率は計測不能な位高い。

「・・・何でも」
「散葉ー・・・」
「涼太君の頼みだろうと嫌なものは嫌なの」

これ以上彼の顔を見ていると決心が揺らぎそうだった為、ぎこちなく視線をズラした散葉。
何だかんだで自分は彼に甘いんだ。

「散葉・・・どうしても?」
「どうしても」
「・・・・・・」
「・・・・・・」

痛い程の沈黙に散葉は内心狼狽していた。
・・・どうやって話を切ろう。
こうなったら彼と距離をおいて落ち着いたら何食わぬ顔でまた普段通りに接していけば、

「散葉」
「・・・何でそんなに行きたいの?」

自分にとっては理解不能だ。
身内ですらヘンとしか言い様がないのに其処に第三者が見たらどう思うのか。
想像に難くない。

「何で、って彼女の家に行きたいって思うの、変な事っスか?」
「変というか、正直何で?って気持ちの方が強い」
「・・・散葉って何か変なところで疎いっスね・・・」
「は?」
「いやいや何にも。
あ、じゃあ散葉の家族は将来オレの家族にもなるんだから今のうちに挨拶って事で」
「じゃあ、って何」
「細かい事は置いといて」
「細かい?これが細かいの!?」
「来週の日曜の午後から散葉の家に向かいに行くんで、道案内ヨロシクっス!」
「話はわかった、だが断る!」

何だか漫才のような会話の結果、散葉は結局押し切られる形になったのだった。



  ♂♀



・・・・・・やっぱり逃げたら良かった。

鬱屈した精神の中、散葉は黄瀬を連れて我が家に招き入れる。
幸い、九瑠璃と舞流は何処かに出掛けているらしく騒がれる事はなかった。

(・・・このまま外で遊んでてほしい・・・)
「今日誰もいないんスか?」
「みたいだね。
まー両親共に長期の海外出張に行ってるから、家族が全員集まる事は滅多に無いかな」
「え、確か散葉には兄妹いたっスよね?」
「いるけど、今日は外に出掛けているみたいだね」

えー!と黄瀬が騒いでいるが散葉は黙殺した。
あの(歪んだ)人間愛に溢れる兄ですらあの双子に手を焼いているのだ、その嗜好というか思考は推して知るべし。

「もしかして散葉、そんなにオレに会わせたくないんスか!?」
「・・・は?」

散葉は思わず凍り付いた。
話を聞くとどうやら恋人が来るから今日は出て行ってとか言って追い出したと黄瀬は思っているらしい。
・・・そんな事をしたら逆に何が何でも居座るに決まってるだろ!!

散葉は無言で拳を振りかぶり、そして―――。



  ♂♀



「散葉酷いっス・・・!」

ぐすぐすと後ろから抱きつく黄瀬に散葉が内心面倒臭い、と思ったのは内緒だ。
問答無用で殴ったという事実は黄瀬にとって結構なダメージだったらしい。

「君が変な事を言うからだろ」
「だって・・・」
「だってもだけども無い!」
「・・・」

散葉の態度に現在、"照れ"や"期待"等の感情は見当たらない。
彼女の家に彼氏と二人きり、というシチュエーションは年頃の若者なら意識する筈なのに散葉に至ってはそれが無い。
いつも通り、といった感じだ。

(・・・信頼してくれてんのか、それかまだ散葉の中で"男"って認識されてないのか・・・)

大人びた彼女だが如何せん、人間関係が乏しかったらしく変なところで天然を発揮するのが折原散葉という人間である。
どちらにせよ、現在後ろから抱きしめているという構図となっているのだが散葉にとってはあまりときめく等といった効果はないらしい。
・・・うわ悲しくなってきた。

「・・・散葉」
「今度はな、・・・!」

後ろ向き、ではなく向かい合う様に抱きしめ直した黄瀬に散葉は一瞬身体を強ばらせる。

「・・・涼太君?」
「・・・・・・」

ぐっと散葉の後頭部を抱き寄せ、無言で口付ける。
突然の事に散葉は凍り付くもすぐに目を閉じて黄瀬に応えようとするが。

「・・・んっ」
「っ・・・」

どれ位時間が経ったのかは分からない。
だが漸く口付けが終わる頃にはすっかり散葉は息が上がっており、彼女から見れば結構な時間が経っていたような気がする。

「・・・涼太く、」
「顔が赤いっスよ?」
「―――!!」

かああっと一瞬にして赤面する恋人に黄瀬は意地の悪い笑みを浮かべた、その刹那。



「ちょ、クル姉!押さないでよー!」
「静・・・」
「静かに、って出来る訳無いじゃん!」
「黙」
「いったぁー!」


『・・・・・・』


ドアの先で繰り広げられている会話と修復不可能な位に折れた雰囲気に黄瀬も散葉もがくり、と項垂れたのだった。


+おまけ+

「何やってんの九瑠璃、舞流」
「わー!ほら見付かっちゃったじゃんクル姉!」
「・・・否」(私の所為じゃない)
「あははっ散葉ってばもっと押しに強くならないといけないって事が分かっただけ良しとしたら?」
「え?」
「・・・イザ兄・・・!!」
「あ、散葉のお兄さんと妹さんっスか?」
「!!涼太く、」
「そうだよ俺は折原い、」
「わあぁああぁ!!」

  噂の兄妹とご対面?

200,000hit企画第二弾は雷香様に捧げます!
やはり主人公、黄瀬君とのエンカウント回避に必死でした(笑

20130225