「静雄さん、名前の通り静かで穏やかな人でしたね」
「・・・、」
「栞さん?どうかしました?」
「否、兄さんの事をそんな風に言ってくれる人はあまり居なかったから、つい・・・」
無表情が常の栞だが今は少し表情が崩れているように見えるのは自分だけだろうか。
トキヤはふとそんな事を思った。
嬉しいけど、それをどうやって表に出したら良いのか分からない。
まるで自分の感情を持て余しているような。
「・・・トキヤ君、有難う」
「・・・何故貴女がお礼を言うのか分かりませんね」
「・・・・・・照れてる?」
「なっ、」
池袋の昼下がり。
そんなこんなで、トキヤと栞はいつも通り軽く変装しつつ秘密デートをする事にしたのだった。
♂♀
「栞さん疲れてませんか?」
「大丈夫」
栞の返答に微笑するトキヤ。
僅かにだが無表情の栞も頬が緩む。
次いで声を出そうとした瞬間、然程遠くない場所からこの池袋では聞き慣れた騒音と砂煙が舞ったのを見て栞は閉口したのだった。
「な、」
「・・・」
栞は紺碧の双眸を瞠らせるトキヤを見て、一つの事を悟る。
そうか彼は池袋在住ではなかった。
なら、この騒ぎも初めてという事か。
「・・・大丈夫だよ、トキヤ君」
「え、」
「他の人達から見たらこれは異常事態だけど、この池袋に限ってそれは日常だから」
「、それはどういう」
「・・・多分原因は・・・」
恐らく、というか殆どの確率で兄だろう。
身内として慣れざるを得なかった事に栞は内心で嘆息する。
トキヤはよく分からないといった表情を浮かべながら栞を見た、その刹那。
「待ちやがれ臨也ぁあ!!」
「・・・今の声は、」
「うん、兄さんだよ」
あまりにもあっけらかんと放たれた名前にトキヤは一瞬何を言われたのか分からなかった。
だが予想通り先程耳に届いた声の持ち主は彼女の兄、静雄のようだ。
「・・・話せば長い話だけど兄さんには天敵がいるんだ。
高校時代から会えば必ず死闘を繰り広げてて、其処から一気に兄さんとその天敵・・・折原臨也さんの名前が有名になった。
今もその関係は続いている、だから多分今回も兄さんと折原さんが闘ってるんだと思うよ」
「・・・天敵、ですか」
「そう。
・・・兄さんは怒らなければトキヤ君も知っている通り穏やかで静かな人なんだ。
でも折原さんが関わったらちょっと普段と一転する」
(・・・・・・ちょっと?)
一ヶ所大分気になる単語が出てきたがトキヤは気にしない事にした。
気にしたら負け、そんな気がする。
「・・・あの状態になった兄さんは私では止められない。
それに此処も危ないからちょっと移動しないと」
「危ないって、」
「兄さんは怒ると我を忘れて、自販機とか投げつけちゃう人だから」
「・・・・・・・・・」
それは人としてどうなんだろうか。
否、その前に自販機って何sだった?
「・・・トキヤ君?」
コテリ、と首を傾げた栞にはっとトキヤは思考の海から抜け出し、曖昧な笑みを浮かべる。
今は考えるのは止そう。
トキヤはそう思うことで思考を放棄する。
視界に過ぎった道路標識やら引っ繰り返っている車をトキヤは無理矢理視界から切り離したのだった。
池袋の日常、邂逅
大変お待たせしました、100,000hit企画第十四弾は柚月様に捧げます!
戦争コンビ、名前だけ出てきましたが二人と対面ならず・・・。
申し訳ないです!orz
とりあえずトキヤは池袋の事情を知らない設定。
早乙女学園って何処にあるんだろうか・・・。
池袋だったらヤバイ、辻褄が合わなくなる(汗
企画に参加して下さり有難う御座いました!
20121123