過去企画 | ナノ

!お相手:嶺二の場合



彼女との出会いは至って単純だ。
仕事が重なって挨拶をして言葉を交わして。
誰に対しても無表情、無口、無感動、無愛想。

揃ってはいけない無の四拍子を兼ね備えた彼女―――羽島幽。

周りが言うにはどうやら人間の心を学ぶ為、感情を分けて貰う為―――女優になったらしい。
勿論これは本人に直接尋ねた訳ではないから正しいのか分からない。
だけどもしそれが本当ならぼくが感情、表情の出し方を引き出させてあげたい。

あれだけ演技上手なのだから表情筋が無いなんて事はない筈だから。


「幽ちゃんっおはやっほー!」
「・・・寿さんお早う御座います。
その挨拶はHAYATOさ・・・一ノ瀬君のですよね、怒られませんか?」
「大丈夫大丈夫ー!
トッキーが目くじらを立てて怒るのはいつもの事だし!
それにトッキーは肩の力を入れすぎ!
だから偶にはこうやって力を抜かせるのも先輩の役目ってヤツだしね!」
「一ノ瀬君は真面目ですから力を入れてしまうのも無理は無いでしょうね。
それに彼は新人アイドルですし・・・」


今日も彼女と仕事が重なったからぼくは他のスタッフへの挨拶もそこそこにして真っ先に彼女に挨拶をする。
常に無表情だからか敬遠されがちの彼女はやっぱり一人きりで。
マネージャーは何処か別の場所に居るのだろうか。


「ま、新人なのに沢山仕事が入ってくるっていうのは喜ぶべきなんだろうけど・・・少し嫉妬しちゃうなー・・・」
「・・・彼には彼にしか出せないモノがあるように寿さんにも寿さんにしか出せないモノがあります。
それに、彼を先輩として導くのも先輩としての役目なのでしょうが育てる側も実は学ぶモノがあると僕は思いますね」
「・・・それって子供が親を育てるってヤツ?」
「そうですね」


後輩が先輩から沢山の事を学ぶというように逆もアリだと思いますよ。
与えられるだけの関係では無いかと。


幽ちゃんの台詞にぼくは思わず目を瞬いてしまった。
その考え方は無かった。


「・・・やっぱり幽ちゃんってぼくが気付かない事に気付くしスッゴイねぇ」
「・・・そうですか?」
「もっちろんだよ!
だってぼくは今までトッキーやおとやんに先輩としてどう教えてあげたら良いか考えてばっかりで自分の事で一杯だったのに・・・視点の違いってヤツかな?
そういうのって凄い貴重だよ」
「・・・・・・あまり人からそういう風に言われた事が無かったので、そう言って頂けると嬉しいです」
「嬉しいなら笑わないと!」
「・・・え」


嬉しいと言う彼女の表情はやっぱり無表情。
それは勿体無い。

幽ちゃんが何処か間の抜けた声を出しているけど気にしない。
今はそれより笑顔!


「幽ちゃんは可愛いんだから笑わないと損だよっ!
ほら今日からぼくと笑顔の練習!
はいっニコー!」
「・・・・・・・・・ぇ?」


無表情なのに何処か引き攣った表情を浮かべた彼女が徐々に後退する。
開いた距離を詰めるようにぼくも前に動く。
その攻防に終わりが来るのはこの後すぐの事。

  if...

お待たせしました、50,000hit企画第十三弾は綾峻様に捧げます!
お相手が先輩の誰かだったので嶺二にしてみました。
偽者臭いですがそれでも宜しければ貰ってやって下さい(汗

企画にご参加下さり有難う御座いました!

20121112