過去企画 | ナノ

「あら?」


林檎は視界の片隅に入った存在に目を瞬かせる。
其処には自分と同業者である羽島幽が居た。



「幽ちゃん!
聞いたわよデビューシングル!初登場3位なんて凄いじゃない!」
「・・・お早う御座います、月宮さん。
そして有難う御座います」
「いやーん『月宮さん』なんて他人行儀よ!
下の名前で呼んで頂戴!」


羽島幽の交友関係が極端に少ないのは彼女の性格にある。
人・場所・場合に関係無く無表情で抑揚の無い話し方である為敬遠される傾向が強いのだが月宮林檎に至ってはそんな事は関係無いと言わんばかりに他の人と同じ様に話しかけてくる。


故に。
羽島幽、本名平和島栞にとっては表情には出ないものの、嘗てあまり無い接し方に戸惑いを感じるのは無理も無かった。


「・・・流石に先輩の貴方に其処まで砕けた接し方は出来ません」
「アタシが良いって言ってるのにー!」
「・・・・・・おいそれ位にしとけ」
「・・・・・・・・・お早う御座います」
「あら龍也」


林檎の背後から声をかけたのは不機嫌そうに目を細めた日向龍也。
そしてその後ろにいるのは美風藍と寿嶺二だ。
泣く子も黙りそうな雰囲気に呑まれず、栞は口元だけを動かす事で挨拶を交わし、林檎はその付き合いの長さにより龍也の雰囲気をいとも簡単に流した。


「ああ、お早う羽島。
悪ィなコイツがまた変な事を言ったみてーで」
「いえ」
「ちょっと龍也!それどういう意味よぉ!」
「おっはよー羽島幽ちゃん!」
「レイジ・・・朝っぱらからその高いテンション止めてくれる?」
「えーアイアイってばそんなツレナイ事言わないでよ!」

「・・・・・・」


栞は林檎が自身に話しかけたのを皮切りに一気に自分の周りが騒がしくなった事に頭を抱えたくなった。


ちょ、私が一体何したの!?
私の周りがこんなに賑やかになった事あったっけ!?
皆が大きな声で話すから此処の視線総締めってそれどんな目立ちたがり屋だ!
とりあえずに、逃げたい・・・!


「・・・皆さん、お時間は大丈夫ですか?」
「え?時間?って・・・いやぁー!
龍也の所為で幽ちゃんとあまり話せなかったじゃなーい!」
「俺の所為にすんな!」
「うぅー幽ちゃん最後にアタシの名前で呼んで頂戴?
そしたら今日の仕事は頑張れそうな気がするわ!」
「其処は『気』って言葉は要らないと思うけど・・・」


ボソリ、と藍の小さな突込みを軽やかに林檎は無視する。
細かい事は気にしない。


「おい林檎、羽島が困ってるぞ・・・」
「えー」
「幽ちゃん、名前で呼ぶ位大丈夫だって!
本人が望んでいるんだしそんな事で誰も怒ったりしないから!」


窘める龍也に林檎は頬を膨らませる。
そんな林檎に苦笑いを浮かべつつ嶺二は栞に優しく諭した。


「・・・・・・・・・・・・分かりました。
仕事頑張って下さい、林檎さん」


淡々と紡がれた言葉に林檎は一瞬全ての機能を停止させる。
しかし次の瞬間、流石アイドルだと思わざるを得ない位の笑顔に栞は内心感心した。


「今幽ちゃんが名前でっ・・・!
有難う幽ちゃんっ!アタシ頑張るわ!
さぁ行くわよ龍也!」
「は!?
ってオイ腕掴むんじゃ・・・!!」


龍也の悲痛な悲鳴に栞達は無言で二人を見送るのだった。

  とある朝の風景

おっお待たせしました!
100,000hit企画第九弾は真央様に捧げます!
先輩組が二人しか出せなかった・・・。
先輩組と先生組を同時に出すのって難しいなぁ。
文才が欲しいです・・・。

企画に参加して下さり有難う御座いました!
何かありましたら拍手等で受け付けますので(汗

20121028