「・・・・・・・・・・・・またですか」
「ファンのどうしても、という声に応えてミマシタ!
という事でMr一ノ瀬、しっかりと仕事をこなしてきて下サーイ!」
「・・・・・・・・・・・・」
トキヤは早乙女の上司命令に魂を飛ばしたくなった。
(・・・聖川さんの幼馴染の彼女とまで、とは言いませんが私もあれ位の度胸があれば・・・!)
トキヤはふと、文字通り型破りな銀色の少女を脳裏に浮かべつつも手渡された書類に目を走らせる。
その書類には自身の黒歴史とも言える『まじかるイチコ』という文字がくっきりと書かれていて。
タイトルの次に出演リストを確認すると、自分の名前とその下には"彼女"―――羽島幽の名前が書かれている。
それを見て、嘗てあれ程嫌だった筈のHAYATOをもう一度演じろと言われた方が何百倍もマシだと思った。
―――これが一週間前の事である。
♂♀
今回の仕事は件の『まじかるイチコ』の特集としてトキヤは文字通り、断腸の思いで女装し、重い足取りで撮影現場に到着した。
「お早うござ・・・」
トキヤの紺碧の双眸が撮影風景を映すと同時に、『まじかるイチコ』の特別ゲストとして出演する羽島幽の姿を捕らえた。
だがしかし彼女はいつもの姿をしていなかった。
何故かというと、この番組のキャストの大半は性別逆転で出演している。
つまり彼女も本来の性別は女性であるのだが、今回男装として出演する事になっているのだ。
肩より長い漆黒の髪は現在肩より短く、服装も男性のものだ。
身長も女性にしては高めの方だが男装という事でシークレットブーツを履いている。
人形めいた容姿は中性的である為、ぱっと見た感じだと男性にも見える。
其処は彼女の生来のものに加え、専属スタッフのメイクアップアーティストによるものもあるだろう。
「・・・・・・」
しかし、よりにもよって彼女とは。
否、どんなスタッフでもこの姿で会うのは嫌だが彼女は最たる人物だ。
(・・・・・・還りたい・・・・・・)
ずぶずぶと落ち込むトキヤだったがその時、一人の女性が小走りで幽を横切るのを視界の端で捕らえた。
「あっ、」
「!」
トキヤがその女性がこけるのを見た瞬間、危ないと思い身体が反応するが距離の問題もあって間に合わない。
しかしトキヤよりも遥かに近くに居た幽がバランスを崩した女性に手を差し伸べる。
ぼすり、
「・・・・・・えっ」
「・・・大丈夫ですか?」
「ぇ、え!?は、はねじまさ・・・・・・!!」
片手で支えた幽の顔を間近で見たその女性は瞬間湯沸かし器宜しくと言わんばかりに赤面する。
何度も言うが今の彼女は男装中だ。しかも美形。
女性にとって今の幽は無自覚な分凶悪な凶器そのものである。
「すっ・・・すすすすみませっ、じゃなくって有難う御座いましたー!」
「・・・・・・・・・・・・」
大声で言ったからか周囲の目は彼女達に集中する。
女性は脱兎の如く走り去り、幽は去る者追わずを体現するかの如く、動かない。
・・・それは一体何処のプレイボーイだ。
溜息を一つ吐いた後、トキヤは徐に幽に近付いて口を開いた。
「・・・僕、何か悪い事したかな」
「・・・・・・貴女はもう少し自覚するべきですよ」
「・・・あれトキヤ君」
・・・分かっていたが女装中の自分の姿を見てピクリとも表情筋が動かない。
普通、何らかのリアクションを少しでも見せる筈なのに幽の場合、本当に動じていないらしい。
嬉しいのか悲しいのか、トキヤは自分の事なのに分からなくなった。
本当に彼女は自分の心を掻き乱す名人だ。
「自覚って何の?」
「貴女の容姿その他諸々の事です」
「・・・?」
コテリ、と首を傾げるのは羽島幽ではなく平和島栞の癖の様なモノだ。
無意識であるが故に、凄まじく可愛らしい。
「・・・・・・僕はただあの人を助けただけだよ、だから容姿は関係ないと思うんだ」
「此処までくるといっそ罪ですよ」
「?」
モデル兼女優なのに、此処まで自分の容姿に無頓着な人間は初めて見た。
一体彼女の優先順位はどうなっているのか。
「・・・そうだ」
「何です?」
「今日の撮影、宜しくお願いします」
軽く頭を下げた幽にトキヤは一瞬目を丸くする。
一拍遅れてトキヤも挨拶を返そうとした瞬間、彼女の台詞に撃沈する事になった。
「セーラー服を着こなせるなんてやっぱり凄いねトキヤ君」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
無表情で淡々と言われた言葉にトキヤは暫く立ち直れないかもしれない、と感じたのは仕方の無い事だろう。
トキヤを知るメンバーが知れば確実に同情の目を向けるのは至極当然の事ととも言えるのだが、それは又別のお話。
男女逆転物語
お待たせしました、門名葵様に捧げます!
『まじかるイチコ』の収録話を書いて、とリクエストされても書けない自信があります、いや本当に。
話を戻して、私的に『まじかるイチコ』で出演する主人公の名前が『羽島幽平』だったら良いな、と妄想(*^^*)
素敵なリクエスト有難う御座いました!
微妙に『乙女』要素がある上に、リクに添えているか微妙な所ですが・・・宜しければ貰って下さい!(汗
20121012
+おまけ+
「あれトキヤ?
今日は早かったんだ、な・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・
(ブツブツ)」
(く、空気が重い・・・!)
「・・・彼女にだけは見られたくなかったというのに・・・」(ポツリ)
(か、彼女?
って、あー・・・羽島幽の事か。
成程なトキヤを此処まで振り回せるのってアイツ位だよな・・・)
「・・・・・・・・・・・・・・・土に還りたい・・・・・・・・・」
「ッ!?ぉおい待てトキヤ早まんな!」
「何するのですか翔!離して下さい止めないで下さい!」
「お前がこれから何するのかによって離してやるよ!」
どったんばったん。
(十分後)
『・・・・・・(ぜぇぜぇ)』
「・・・二人とも何してるんだい?」
自暴自棄なトキヤ、体を張って止めようと男気溢れる翔、後にやって来た為事態に着いていけないレンの図(笑)
20121015