過去企画 | ナノ

『先日、モデル兼女優の羽島幽さんと歌手としても人気の高いアイドル、一ノ瀬トキヤさんの電撃交際の件について―――』


テレビの中にいる報道陣達はこぞってこの話題ばかりである。
音也は自身と同じアイドルグループであり、件の張本人の片割れであるトキヤの方へと目を向ける。


―――其処には普段の冷静沈着ぶりとは打って変わって大荒れしているトキヤの姿があった。



「・・・・・・トキヤぁー?」
「五月蝿いですよ音也、今話しかけないで下さい」


こういうのを一刀両断って言うんだろうな。
ばっさりと切り捨てられたというのに音也は怒りを見せる事無く、一つ溜息をつく。
次いで他のメンバーにそっと視線を向けると全員お手上げという仕草を見せた。



恋愛禁止というルールのシャイニング事務所から交際許可を貰い、且つマスコミに対し交際を発表したまでは良かった。
しかし互いが互い、有名な事が災いしマスコミが大々的に報道したのがいけなかった。
仕事の行く先々で交際に関しての質問が相次ぎ、今ではトキヤも彼女もプライベートで会う時間が減ってしまったのだ。
結果、只でさえ数少ない彼女との逢瀬が更に激減したという事実にトキヤの心は確実に荒んでいた。


「何故放っておいて下さらないんでしょうかそんなに彼等は暇なんですか私が誰と付き合おうが勝手でしょう私だってアイドルの前に人の子なんです機械ではないんですよ」


ノンブレスで恨みにも似た言葉の羅列に音也達は思わず戦慄した。
人間って心が荒むと此処まで人格が変わるのか初めて知った。
・・・出来る事なら知りたくなかった。


「・・・じゃあマスコミに発表しなきゃ良かったんじゃ・・・」
「それでは彼女が又私の与り知らない所で何処ぞの馬の骨に絡まれるのが落ちじゃないですか!
幾ら彼女にその気が無いと分かっていても私の気は治まりません!」
『・・・・・・・・・』


ダメだこりゃ。
音也を含む五人は此処まで人格が崩壊したトキヤを見た事が無かった。
なので対処法がまるで分からない。


「んなの気にし過ぎだって。
たまたまだったかもしれねーじゃん」
「あ、おいオチビちゃ―――」
「待て来栖、」


翔が半ば呆れた様に口を挟んだ瞬間、トキヤの目がギロリと目が光った事に気付いたレンと真斗が慌てて口を閉ざそうとするも時既に遅し。
御曹司組が止めようとした苦労も虚しく、トキヤは更に怨念めいた口調でまくし立てた。


「どういう意味ですか翔それはアレですか彼女に何の魅力も無いという訳ですかそう言いたいんですかそうですか。
ふざけないで下さい彼女は感情を表に出しませんが稀に見せる表情は」
「お、落ち着けトキヤ俺が悪かった」
「幽ちゃん可愛いですよ翔ちゃん!そんな風に言っては可哀想ですよぉ」
「那月お前は俺を更に墓穴を掘らす気かぁぁぁああ!!」


人の噂も七十五日と言うが、沈静化するまでその日付は越えそうだ。
レンは深々とため息をつくと、トキヤにバレない様にそっと携帯を操作したのだった。


+おまけ+

「・・・はい」
「あ、オレだよ。神宮寺レン。今良いかな?」
「はい」
「イッチーの奴ちょっと…否、かなり荒れててね今日か明日、イッチーに会って機嫌を直してくれないかな?」
「・・・・・・機嫌ですか?」
「そっ。君しかいないんだ、頼むよレディ」
「・・・・・・・・・よく分かりませんが分かりました」
「・・・・・・・・・・・・それ本当に分かってる?」

  彼女=彼の精神安定剤

お待たせしました、東雲様に捧げます!
荒ぶるトキヤという事で結構楽しかったです(*^^*)
何となくトキヤならこんな感じで切れるかなと想像して書かせて頂きました!
最後のレンですが相手は勿論主人公。
いつの間に番号を交換したのかしら?(笑

20121007