過去企画 | ナノ

『・・・・・・・・・・・・』


現在、真斗と灰音はそれぞれ沈黙を貫いていた。
だがいつまでも続くと思っていた沈黙を最初に沈黙を破ったのは灰音だった。


「・・・状況を整理しよう」


雪にも負けない白い肌の色が更に白く―――寧ろ青白くさせて灰音は重々しく呟いた。
対して真斗は両手を握ったり開いたりと感触を確かめるような動作をしている。
次いで目の前にいる何処か茫然とした灰音に向かって真斗が淡々と言葉を返した。


「・・・・・・状況も何も私と貴方の精神が入れ替わっただけでしょ」


普段の真斗からは考えられないような女の口調に灰音は頬を引き攣らせたような表情を浮かべた。


「止めろ灰音、俺の姿でその口調は止めてくれ」
「・・・だったら私の姿でその一人称はやめて頂戴」


精神がそっくり入れ替わった異常事態なのにも関わらず、真斗は至って危機感や焦燥感が見当たらない灰音に何故そんなに落ち着いていられるのかと問い質したい気分になった。



  ♪



異常事態を聞きつけ、やってきたのはSクラスメンバー。
音也と那月は何やら用事があるとかで此処にはいないが天然が集っても正直対応に困る、というのが灰音の本音である。


「何故お前はそんなに落ち着いていられるんだ!」
「誰かが慌てふためいているのを見ていたら逆に冷静になれるものよ」


元々が白い為よく分からないが、青褪めた表情の灰音(精神は真斗)に氷の如き視線で灰音を見る真斗(精神は灰音)を見てトキヤ、レン、翔は嘗て無い光景にそれぞれ口を閉ざした。


「なんつーか・・・」
「・・・・・・(レディに対してこんな目を向ける聖川、初めて見た・・・)」
「シュールですね」


翔は何処か視線をズラして口ごもり、レンは腐れ縁の新たな一面らしきモノを見て戸惑いを隠せていない。
トキヤは眉間に皺を寄せながら、一言簡潔に思った事を口にした。

余談だがこの時のレンの台詞である「レディ」は灰音を含む女性全員を指す。


「原因は考えるまでも無く学園長だろうが・・・」
「・・・先程確認しましたが早乙女さんは高飛びしたようです」
「は?」
「お、落ち着け聖川っ・・・じゃなくて草薙!
顔がすっげーおっかねーぞ!?」
「止めろ灰音、俺の身体だぞ何をする気だ!?」
「そうだぜ聖か・・・灰音、案外明日になったら元に戻っているかもしれない」


荒んだ真斗の姿がぶっちゃけ怖い。
美形が怒ると確かに迫力満点である。


「本当に碌な事しかしないわね。
・・・真斗、鈴蘭に曼珠沙華とか無い?」
「・・・・・・灰音、それ全部毒性のある物だろう」
「チッ」


舌打ちした。
普段の彼女からは考えられない事をしている辺り、今回は今までの比で無く余裕がないと言ったところか。


「・・・とりあえずあのオッサンに何されたんだよ?」
「・・・いきなり現れた学園長に一錠のカプセルを無理矢理飲まされたのが原因だろうな」
「え、草薙も?」
「灰音の場合は俺より容赦が無かった。
何せドアを開けた瞬間を狙われたからな」
『・・・・・・・・・・・・』


灰音が荒む理由が分かった気がする。
トキヤ達は十割の同情が籠もった視線を灰音に向けたのだが、灰音は敢えて黙殺した。


(・・・・・・・・・落ち着け自分、このまま怒りに捕らわれていたら確実に戦争時代に逆戻りする・・・・・・)


怒りを発散できる何かが欲しい所だが、如何せんこの体は自分のモノではない。
使い慣れた自身の身体では無い為、確実に自分の思う通りに動いてくれないのは目に見えている。
その前にいつ戻れるのか分からない為、手洗いや入浴は確実に今後の問題として浮上しているのだが。


真斗は気付いているのかは不明だが、無意識の内に蚊帳の外に追いやっているのかもしれない。


「・・・・・・・・・・・・」


灰音は深々と溜息を吐いた後、確信した。
絶対にあの早乙女と関わった時点で自分の第二の人生は平穏から遠のいてしまったのだ、と。

  全ては経験によるものなのです

お待たせしました、羅流様に捧げます!
内容は『乙女』、時間軸は早乙女学園在学中です。
この後ですが多分一日経ったら元に戻っていた、というオチ。
主人公の前世では波乱万丈だったので多分真斗よりは落ち着いているけど早乙女への怒りで大荒れしている感じ。

企画にご参加下さり有難う御座いました!

20121011