皆さんこんにちは平和島栞です!
初から何ですがトキヤ君との約束の時間まで後五分です緊張し過ぎて心臓がピンチです誰か助けて!
自分が記憶する中で異性と二人で出掛けた事など兄を除いて皆無なこの状況。
私とトキヤ君が通う早乙女学園に存在する恋愛禁止というルールは最初、私には関係無いと思っていた訳だけど人生何が起こるかわからないね、まさか私に恋人が出来るとは。
「・・・っ栞さん、お待たせしました」
「トキヤ君」
聞きなれた声に振り向いた栞の夜色の双眸に僅かに息を切らしたトキヤの姿が。
気付かれない様に時計を確認をすると集合時間まで後二分だった。
・・・こういう時って早かったね、って言うべきなのだろうか。
でも私の方が早く到着していたし嫌味に聞こえたら・・・!
内心で葛藤する栞に気付かずトキヤは申し訳なさそうな表情を浮かべた。
「すみませんもう少し早く着く予定だったのですが・・・音也に捕まってしまいまして」
「・・・一十木君に?」
「ええ。
どうでも良い事だったので適当に付き合って出てきましたが」
「でもトキヤ君の事だから口で適当に、って言ってても最後まで付き合ってそうだね」
「・・・・・・」
無表情だが真っ直ぐに自身を見る栞に気恥ずかしさを覚えたトキヤは徐に顔を背ける。
他人に興味なさそうに見えて実は意外と的を得ている彼女は中々に侮れない。
「・・・っどうでしょうね、さぁいつまでも此処にいては何ですし移動しましょう」
「?そうだね」
早口でまくし立てるトキヤに僅かに首を傾げつつ栞は返事をする。
そのままトキヤの先導で歩くと思っていた栞の手をトキヤは自身の手と繋ぐ。
一瞬強張るもトキヤだからと安心したのか特に嫌がる反応を見せなかったのでトキヤはそのまま栞を連れて池袋を散策する事にしたのだった。
♂♀
「・・・?」
「あちらの方、騒がしいですね何かあったんでしょうか?」
「・・・・・・」
池袋を散策する途中、トキヤと栞は妙に騒がしい事に気付くと同時に僅かに眉間に皺を寄せる。
二人は常人よりも耳が良い為か意識せずとも辺りにいる野次馬の声を拾う事が出来た。
静雄が・・・
また暴れているのか、
今度はトラックに、
『・・・・・・・・・・・・』
・・・トラック?
トキヤはその単語に内心で首を傾げた。
静雄、というのは恐らく隣りにいる栞の兄、平和島静雄の事だろう。
トキヤは一度だけではあるが彼に会った事がある。
彼女の兄なだけあって何処か顔の造りは似ていたし、怒らせなければ穏やかな性格の持ち主だった。
本人にとって『池袋最強』の称号は撤回して貰いたいモノらしいが如何せん一般人からしてみたら『池袋』という範囲で済んでいるだけまだマシだと思う。
あの怪力は世界を狙える。
・・・・・・話が逸れた。
「平和島静雄がトラックに轢かれたぞ!」
「流石のアイツも死んだんじゃ・・・!」
そんな一際大きい声がトキヤと栞の鼓膜を震わすと同時に二人の思考は凍りつく。
・・・今なんて言った?
「・・・兄さん、」
小さな声ではあるが常に無表情である彼女の表情が僅かに崩れ、喧騒の方へと足を向ける。
トキヤも僅かに遅れながらも彼女の後を追ったのだった。
♂♀
今日は仕事が半日で終わったから何処かで昼を済ませようと適当に池袋を歩いていただけだった。
なのに又あのノミ蟲に会って殆ど条件反射に近い形で追い掛け回していた。
そしてその矢先、高校時代と同じ様に角を曲がったその直後、俺はトラックに轢かれてしまって。
その衝撃で俺はすぐに体を動かす事が出来ず、あのノミ蟲を逃がしてしまった。
あーチクショウ。身体が痛ェ。
新羅の所に行かねーと・・・。
仰向けで転がりながら俺はそんな事を考えていると、ふと影がさした事に気付く。
・・・否、これは影は影でも・・・。
「・・・・・・・・・栞?」
「兄さん」
平和島栞。
俺のたった一人の妹が俺の顔を覗き込むように見ていた。
やっぱり無表情だったが、その漆黒の瞳には確かに心配の色が映っていたのを見逃さなかった。
十分後。
トキヤの眼前にはトラックで轢かれた(らしい)静雄が何事も無かったように立っている。
通常なら目と現実と事実を疑う所だが悲しいかな、早乙女学園入学する前ならいざ知らず今のトキヤは耐性があった為驚く事は無かった。
学園長である早乙女はヘリからパラシュート無しで飛び降りたり自由の女神を背中に括り付けて半日もせずに帰国したり。
眼鏡をとると別人になってたった一発のストレートパンチでグラウンドやプールを真っ二つにしたりする男もいるのだから、当たり前と言ったら当たり前である。
・・・・・・栞さんはそんな万国人間吃驚ショーの一角を確実に担える静雄さんの妹ですし、彼女も規格外な身体能力の持ち主だったらどうしましょうか・・・・・・。
栞にとって不名誉極まりない思考がトキヤの脳裏に過ぎる。
しかし平和島兄妹は気付かない。
「兄さんまた喧嘩?」
「喧嘩っつーか・・・栞、ノミ蟲はいねーよな?」
「・・・・・・いないね」
ぐるりと一周するように見渡した栞は慣れているようだ。
・・・妹というのは伊達ではないらしい。
否、そうではなくて。ノミ蟲?
「ノミ蟲、ですか?」
「嗚呼・・・簡単に言うと兄さんの天敵の事。
トキヤ君も聞いた事があると思うけど」
天敵、というと噂の折原臨也の事だろうか。
しかし名前は言わない方が良いらしい、彼の負のオーラが先程より膨れている様に見えるのは気の所為では無い筈だ。
「・・・何となく分かりました」
「そう」
「・・・あー・・・栞と一ノ瀬、だったか?
今日は池袋に何か用でもあったのか?」
「そうだけど・・・用というより・・・」
・・・この口ぶりから察すると恐らく彼女は自分との関係を話していないらしい。
此処は自分から言うべきだろうが果たしてこのタイミングで言っても良いのか。
栞も恐らくその一点で悩んでいるのだろう、彼女も僅かに首を傾げ悩んでいます、という仕草をしている。
トキヤも同じくその一点で言うか否か逡巡したのだが。
「・・・・・・兄さん、私に恋人が出来たんだ」
『・・・・・・・・・・・・は?』
台詞が繋がっていない、とかそういう突っ込みも出来ず、静雄とトキヤは栞の爆弾投下にそれぞれ別の意味で絶句したのは言うまでもなく。
青天の霹靂
一度パーにしてしまい、もう一度書き直しという悲劇が起こってしまったので遅くなりましたが、瞬様に改めて捧げます!
書き直した此方の方がまだリクエストに沿えていると思うのでまぁ結果オーライでしょうか・・・。
『花雪』並びに『花片』はこんなオチの方がらしさが出てるかな、と思ったのでこんなオチに。
その内オマケとして書くかもしれません(笑
企画に参加して下さり有難う御座いました!
20121008